これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉

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 俺たちはまずフィーの偽物の死体のトリックを暴く。
 それをメイドや秘書に伝えて皇帝は死んでないことを伝える。
 そして、これ以上悲惨で好戦的な街にならないようにすると言うのが狙いだ。
 ただでさえ、闇の深い帝国首都が、地獄絵図みたいになったら困る。

 この状況に一番喜ぶのは、マルファーリスみたいに人間を犠牲にしておかしなことをたくらむ奴だからな。
 俺の敵になる前に、そういう目は摘んでおくのが賢い奴の選択のはずだ。

 
 見回り兵士の横を冷や汗をたらしながら隠れ、通り過ぎた後、地下1階に目的の場所があった。

「ここが安置室か?」

 部屋の名前が書かれた看板を見て、それにモニカも同意する。

「そうみたいです。お兄ちゃん、お願いします」
 
 モニカは『霧影』の霧バージョンを解いて、一度俺たちの姿が廊下で露わになる。

「ああ、まかせろ」

 俺は扉に片手をつき、『開け!』と命令した。
 すると、石作りの扉は自動で開き始めた。
 複雑なカギだろうと、頑丈で壊れない作りだろうと、俺の能力の前では関係ない。
 それを見てミュースが感嘆の声を上げた。メガネをクイッとする。

「これが、いつも言っているコウセイさんの能力……ですか。実際に見ると凄いものがありますね……」

 やはりこの『物に命令できる』所が便利だ。
 下手に破壊しなくても解錠もできるし、縄も解くことができる。
 侵入察知のセンサーがあっても関係なし。
 この力は手で触れないとダメだが、それでも使い方によっては下手な魔法よりも使い勝手が良い。

 中に入って被せられたシートをどかすと、俺が目にしたのは一人の女の子の死体だった。

「これは……フィーそっくりだな。あっ!」
 
 そこで気づいた。
 これを見たら、フィーが皇帝だとバレてしまうではないか。

 俺はおそるおそる二人の表情を確認した。

 めちゃくちゃ驚いていた。
 たぶん俺が考えたのとは違う意味で。

 それはモニカのセリフからもわかる。

「お兄ちゃん、この子……フィーさんにそっくりです。3人くらいは世の中にそう言う人がいると聞いたことはありますが、まるで双子みたいです」

 どうやら、フィーが皇帝だと言うことはモニカには想定外であるらしく、フィーが実は皇帝だったとは思っていないようだった。

 ミュースの方は、唸りつつも眼鏡を人差し指でかけ直して死体の顔を見ながらながら何かを考えていた。
 もしかしたらこっちにはバレたかもしれない。

「……これは『幻覚』の類いですね」

 その一言に、ミュースに振り返るモニカが見えた。
 
「やっぱり偽物なのか? これは本当の死体じゃなかった」

「はい……いえ、そうではなく、これはまぎれもなく本物の死体です。けど、皇帝の容姿や顔といったパーツが幻覚魔法で出来た偽物です」

 俺は視神経に対して電気パルスの操作を行うが、この幻覚が解けることはなかった。

 横にいた俺の表情を見て何をしようとしたのか分かったのだろう、すぐさまミュースが答える。

「無駄だと思いますよ? コウセイさんの能力はあくまでも内的なものです。系全体にかかっている幻覚魔法は消せませんし、生命にはそれが通用しませんからね。この二つの壁があるだけで、コウセイさんすら騙せるレベルの幻覚を見せることができているわけです」

「おいおい……じゃあこの幻覚自体が俺の能力まで考慮して構築されているってことか?」
「それはわかりません。けど、一般の兵士や秘書、メイドを騙すのにここまで手の込んだ幻覚は普通使わないでしょう。本当に騙したい誰かがいるのかもしれません」

 そういってミュースは、手提げ鞄の中から1冊の本を取り出した。
 本の表紙を手のひらでなぞり、それから死体の女の子の顔に手のひらをかざした。
 あとは何かシールでもはがすみたいに、顔の表面から薄い膜を引きはがしにかかった。
 びりびりとはがれていくのは、何かの細胞だった。
 モニカはなにがなんだか分からず、その作業を黙って見守っていた。

「それで結局のところ、ミュースはなにをしたんだ? 幻覚というのは魔法だとして、それなのに魔法陣がどこにもないぞ?」

「簡単な話です。魔法陣はこの地下の廊下全体に展開されていますね。暗くて見えません。それと幻覚には精神支配と同じで『核』になるものが必要です。それがこの細胞です」

 手で引き延ばして見せてくるのは、薄っぺらい皮だった。
 
「これはなんなんだ?」

「皇帝本人の細胞から作られた細胞膜……でしょうね。しかも人工的な」

 つまり、なんだ? 幻覚魔法の核として細胞膜を加工した奴がいるってことか?
 てか、なんで皇帝本人のものだって断言できるんだ? 眼鏡のおかげなのか?
 
「それはボクが説明しようかな!」

 刀が変化して、一人の幼女が姿を現した。
 幻覚と言えば一番詳しいのがこの莉々珠なのは確かだが、おそらくミュースから、いいとこ取りをしようと思ってのことだろう。

「ああ、説明してくれ」

 俺は呆れつつそう言った。

「幻覚魔法で一番重要なのは、その魔法をくらった人間自身が『もしかしたらそれが本当なのかもしれない……』『起こりえるかもしれない……』と思うことなんだ。まあこれは精神的な幻覚・幻聴の場合だね。じゃあ、外面にかける幻覚として最も効果的なのは? それは、幻覚でそう見せたい姿そのものと本人が限りなく近づくことだよ」

「近づく? っていうのは本人に似ているってことか?」

「そうだね、そういうこと。じゃあ、簡単だよね。本人の身体の一部を使えば、より幻覚は強固になる。しかもこの地下には魔法陣まで展開されていると来た。であるならば、絶対に、誰にもこの幻覚の正体を見破ることができない……。僕であってもね。まあ、死体を焼いて核を直接破壊すれば別だけど、それじゃあ本末転倒だよね」

 と莉々珠は説明を終えた。

 そして、その説明の中に一つだけ違和感? というか矛盾があった。

「それはおかしい。だって俺たちはそれを見つけられた。核も判明した。幻覚の謎を見破った。それなのに、誰にも見破れない? ミュースができたじゃないか……」

「ハハハ。主様は一つ勘違いしているよ。そのミュースって子はなにも見破っていないんだよ」

「……え? 莉々珠こそ何言ってるんだ? 確かにミュースが見破……」

 そこまでいってミュースを見ると、いつも隠している表情が何かに焦っているように見えた。

 俺はミュースの肩に手をのせた。

「おい、ミュース」

「は、ひゃい!」

 ミュースは声を裏返えらせた。
 珍しいこともあるものだ。
 痛いほど動揺が伝わってくる。

「どういうことなんだ?」

「それは……」

 俺はミュ-スがどんな子かを思い返していた。

 魔王戦の時は助けてくれて、もっと前は魔法や武器についての知識を教えてくれた。
 最初の時までさかのぼれば、あの眼鏡で妖刀を見破った……。
 そのレアな眼鏡を貸してもらったことも覚えている。

 それを借りた時、もっと早く違和感に気づいていればよかったのだが、今頃になって気付いた。



「そういえば、ミュース。別に目が悪くないんだよな。眼鏡を一度借りたから覚えている。度が入っていなかった。それなのに」

 俺は決定的なことを問う。

「武器鑑定のとき以外にもその眼鏡をかけているのは……なぜなんだ?」

 そこまでいうと、何かをあきらめたようにミュースは俯いた。
 数秒何かを考えて、一つの結論を出したようだった。

「わかりました。あなたになら教えてもいいです」

 俺は意外な答えが返ってきたことに驚いた。

「教えるっていうのは?」

「この眼鏡……というか、この右手に持っている『魔法の書』についてです」

 そういえば、この子は常に片時も離すことなく、この古めかしい本をそばに置いていた。
 本を読むのが好きだからいつも持っているのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
 タイトルには『Per omnes』と書いてある。

「魔法の書? 初めて聞く本の名前だけど……なんなんだそれは?」

「いわゆる古代魔法の一つに数えられています。古代魔法……つまり現代の魔法が使われるようになった遥か太古の昔から存在した世界の起点となる魔法。そんな魔法の奥義や禁忌が収められているのが、この『魔法の書』です」

「待ってくれ! それがあると、どうしてこの誰にも見破れない幻覚を見破れるんだ?」

「それは『魔法の書』に収められた古代魔法が、魔法の『最上位』に存在するからです。いまの魔法は『下位』の法則でしかありませんから。それをこの本が見破ることは容易いんです。いえ、そうでなくてもこの『魔法の書』に収められている魔法はたった一つ、『看破』です。もちろん、膨大な制限と使用手順がありますから、いつでも何でも看破できるわけではないのですが」

 俺はいまになって思う。
 なぜ実践経験の少ないミュースが、魔王や魔族との戦闘であそこまで的確なアドバイスができたのか?
 それはミュースの膨大な知識と知的な推理だとばかり思っていた。
 が、それでも相手の弱点はそうたやすく分かるはずがない。
 弱点を『看破』していたのは、この本の力によるものだったのだろう。
 もちろん、彼女の思考力もあってこそだが。

 となれば、あのとき質問でミュースにいろいろ聞かれていたのは、状況説明という意味合いだけでなく、この『魔法の書』を使用するための条件や手順を質問に答えることで俺が知らないうちにクリアしていた、いや、させられていたのかもしれない。
 条件クリアのためにあえて質問をしていた。

「それじゃあ、この幻覚を見破ったのは正確にいえば、ミュースじゃなくてその本?」

「えと、確かに『魔法の書』に収められた魔法は使っていますが、それはちょっとだけ違います。私は生まれた時からこの本を持っていたんです。そして、この本の使い方も生まれた時から知っていました。言葉も文字も常識もわからない赤ちゃんが、そんな高度な法則のことを最初から知っていたと言うだけでも恐ろしいことだと自分でも思います。この本の影響かはわかりませんが、私の知能も発想も論理的思考も、全てそれに影響されています。私と『魔法の書』は良く言えば一心同体、悪く言えば本に憑かれているんです」

「じゃあ、これはミュースの意志じゃないってことか?」

「この状況だけ見ればそうなりますね。とはいっても、今では私の唯一の取り柄?みたいになっていますから気にしていません」

 この本のおかげでいまのミュースがあると、そう言っているのだ。
 そんなふうに言ってしまえる所を見て、やっぱりミュースはすごい子だと思った。

「そういえば、本がその看破した力の正体だったっけ? なら、この前の眼鏡は鑑定のレアアイテムと思っていたけど……本とは別?」

「この眼鏡は、ただのダテ眼鏡です。本から魔法の貸与をしているにすぎません」

 そして、いつもの眼鏡を触る仕草についても続けて説明した。

「私が恐れていたのは、私の手元に『魔法の書』があるとバレてしまうことでした。奪おうとする者もいますし、争いの火種になります。私を中心にして、政略がめぐらされるのは御免でした。そこで、別のモノに魔法を貸与することを思いついたのです」

「それが眼鏡?」

「はい。ですが、この『魔法の書』には一つ致命的な欠陥がありました。それは貸与していても本の魔法を発動させるためには、必ず手のひらで触れなければならないことです。そんなのを見られていればいつか必ず『魔法の書』が力の源だとばれてしまいますそこで、この仕草なんです」

 そういってクイっと眼鏡に触れた。
 その瞬間、わざと俺の顔の目の前に本をかざした。
 すると、眼鏡に手が触れた瞬間に、本の表紙に手のひらを触れていた。

 なるほど、こうやって視線を眼鏡に引き付けてこっそりと本に触れていたのか。
 手品みたいなものか。
 いや、この眼鏡に触れる行為自体も魔法発動の条件の一つなのかもしれない。





 一通り説明し終わった後、ミュースは俺たち3人にこの魔法の書の存在を秘密にするようにお願いするのだった。
 再び霧になった俺たちは、地下から上へと上がっていく。
 すでに幻覚の核を引き離したから、その辺の衛兵が死体を見ただけでも皇帝ではなく偽物だとわかるはずだ。
 帰りも慎重に廊下を歩いていくが、予想外にも俺たちは廊下で立ち往生した。
 
 一人の少年が廊下の道をふさいだのだ。
 霧になる前にミュースだけが何かを憂慮していたのが、頭の片隅をよぎる。
 この幻覚の魔法を解除したこと。
 それそのものをもっと重視すべきだったのかもしれない。
 もっと言えば、こんな巨大な仕掛けを解除して誰にも気づかれないと言う方がおかしい。
 あの魔法が城の中から展開されていたのだから、犯人も城の中にいるはずという当たり前のことを見逃した。

「おいおい、どこへ行くんだい?もうお帰りなのかな?」

 そのモニカと同じ年くらいの小さな少年は、何も見えないはずの廊下の中央に向かって問いかけた。
 まさに俺たちのいる場所だ。
 どうやら俺たちのいる位置がバレているらしい。
 銀硝鉱石を展開できない状況だったのも影響している。
 すぐ目の前に現れるまで気配がわからなかった。

 モニカはバレているのだからどうしようもないし、この状態では攻撃もまともに出来ないと、魔法を解いた。
 俺たち4人は廊下に突如として姿を現した形になる。

「なぜ俺たちのことが分かった?」
「それをこの僕に聞くのかい? だとしたら君は本物の馬鹿だ」

 その返答で俺はちょっとだけムッとなってしまったが、こんな小さな子に怒るのもと思いこらえた。

「言いたい放題いってくれるな……」

 ミュースは手のひらを『魔法の書』に触れて少年を見た。
 そして、ミュースは絶望の表情を浮かべた。
 驚愕でも悲嘆でもない、絶望だ。

「そんな……」

 俺はそのあまりにもミュースが浮かべるにはふさわしくないと思える表情を見て、なにかこの少年が非常にヤバいことだけはわかった。

 ミュースが何かを『看破』して浮かべた表情がこれなのだ。
 少年の何かを知ってしまったのだ。
 それでもなんとかしようとする思考だけを働かせて絶望的な状況の抜け道を考えるミュース。
 とにかく銀硝鉱石を改めて廊下へと展開した。
 とはいえ、あまり意味はない。
 距離のある攻撃とかならまだしも、こうも堂々と目の前を歩いて近づいて来る少年にはそこまで意味はない。
 そこで、芸がないのは承知しつつも小石を召喚してそれを操作してぶつける。
 だが、その小石すべての軌道を首を動かし、身体をひねるだけで回避しやがったのだ。
「は……?」

 思わず俺は声を漏らしていた。
 その危険度を莉々珠も察知したのか、刀の姿へと戻った。
 とりあえず、城内のモニカとミュースの安全を確保するために、林へと空間転移させた。

 その瞬間だった。
 俺の刀を握った両手にものすごい衝撃を受けたのは。

 気付いた時には城の外まで吹き飛ばされていた。
 その間にあった壁を全て内側から砕いて穴をあけながらだ。
 滞空して姿勢を制御する。







 何らかの攻撃を妖刀が防いだのだ。
 今のが能力で防げない攻撃だったとして、もし莉々珠がいなければ俺の身体は木端微塵になっていた。

「一体、なにが……起きたんだ」

 すると莉々珠の声が頭の中に流れる。

『あれ、やばいね。ボクとしては一刻も早くここから逃げた方がいい』

「それはなんとなくわかるが……あいつは、なんなんだ?」

「さ~て、ボクにもよくわかんないけど、人間ではないだろうね。もし僕が妖刀『莉々珠』として孵化していなかったら、刀が粉々になっていたところだよ」

「魔王の攻撃も防げていたお前がか?」

「本当によかったよ、孵化しておいて」

「莉々珠、お前……」

 ついこの瞬間まで、莉々珠の我が儘から契約を結ばされたと思っていた。
 だが、改めて考えてみると、あの契約は俺のためだったのではないか?と思えた。

 俺がこれから中央大陸の支配領土を奪還して竜王と戦うという無茶な計画を知った莉々珠が、その時何を思ったのか?
 本当の事はわからないが、マルファーリスの計略以外ではいつも俺を助けようとしてくれていた。
 だがおしゃべりの時間はなかった。
 俺の右隣りには、いつの間にかあの少年がいた。
 銀硝鉱石の探知が一切できていなかった。
 いや、探知してもそれを感じ取る前に、電気パルスが情報の信号として送られる前に、そいつが攻撃を始めているのだ。
 莉々珠は刀身で謎の攻撃を防御するが、そのまま地面へとブッ飛ばされてしまった。

「ぐはっ!」

 内臓にも攻撃時の振動が伝わってきたらしい。
 地面にぶつかったダメージは能力で無効化されているはずだ

 わかったのは、感知できない速度で無効化できない攻撃をしてくるということだ。
 そして、俺はいままで気づいていてもあえて考えないようにしていた一つの考えが思い浮かんだ。

「まさか、いやそんなはずは……。でももしかして……」

 こんなところにいるはずがない。
 突然、現れるはずがない。
 俺をピンポイントに訪れるはずがない。

 だが、防戦一方で、この勝てる気がしない相手がこの世界にどれくらいいるかなんて明白だ。
 魔王でさえ倒せた俺が、これからあらゆる手段で倒すという一縷の望みさえ浮かばない相手。
 そんな存在は一つしかない。

「そろそろ、終わりにしてあげよう」

 目の前で笑みを浮かべた少年は一言そういった。

「お前が……」

「気付いたのか? だけどもう遅い。その致命的なまでの遅さ、馬鹿なまでの頭の回転の鈍さ、やはり人間は……この世界に必要ない」

 そのセリフですべてが俺の想定した通りの相手だと知った瞬間だった。
 順序立てて、倒されるのを待ってくれる敵がいるはずはなかったのだ。
 領土を奪われるのを待っていてなどくれなかった。
 自分を倒そうとしている奴くらい、いつでも排除できるなんて最強の存在からすれば簡単で当たり前の帰結を想定すべきだった。

「竜王!!!!!!!!!!!!」

 俺は絶叫する。
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