左右どっちもネームレスなSS

さの めつた

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014 ゲームの少年

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こちら×彼(少年) ちょっと近未来風味の話。学校で、アナログなゲームをしている転校生に



 今日日きょうび……3Dプリンターと昔呼ばれていた代物は家庭用ミニサイズの品が「一家に一台」レベルに普及し、ご自宅で何でもいろいろ作り出せるようになった。

 自由時間だった。
 学校の空中ガーデンの広場の隅でうつ伏せに寝転んでいる少年と傍の升目が細かく書かれた大きな紙と二種類の大量の駒に目を惹かれた。
 みなが持っているポータブルのゲーム端末のホログラムではない、実物の、アナログのゲームのようなそれが珍しかったのと、こいつ知らない顔だなと寝転ぶ少年に近づいて、のぞきこんだ。
 少年は升目の上に二種類の駒を取ったり動かしたりしていた。
 視線に気づいたのか、少年はうつ伏せから横向きになって、こちらを一瞥して、興味なさそうにまたうつ伏せに戻る。
「なんかのゲーム?」
 訊いた。
 うつ伏せからまた横向きになって、少年は気怠げに口を開け「喰い合うゲーム」と冷酷な声音で言った。
 何のゲームか知りたくて、大きな紙の向かいに座った。
 少年は片眉を上げ、うっとうしそうな目でこちらを見たが、腕を伸ばして駒をつまみ動かしながら説明に入った。
「この白のウサギと、赤いウサギの駒を、グループ、群れとして対岸に配置。群れを動かして、中央へ。そうしたら、群れの先頭がぶつかるだろう。先にぶつかったほうが、相手を喰う。つまり駒を取る。そうしていって、群れはぶつかり続け、喰い合う」
 確かに白色の駒と赤色の駒はウサギっぽいかたちで紙の升目の中心に集まり、群れが激突していた。
 おもわず、どちらが勝っているのか、駒の並びを見つめて数えようと身を乗り出してしまった。
「……それで最後に一匹、残った方が勝ちだ」
 おもしろくもなさそうに少年は言い終わって、仰向けになって、ゆっくり開いた両目でこちらを見上げ、「まだ何か?」という表情をした。
 盤上は白のウサギが劣勢で、赤のウサギに包囲されていた。
「こんなのどこのアンティークショップで買ったんだ? ティル?」
 ティルはレアな掘り出し物が多いネットワーク上の中古ショップの略称だ。
 仰向けに寝転んだ少年はため息をつくのと鼻で笑うのを同時に行うみたいに、息をもらす。
 「僕が作った」と言って、仰向けに寝転ぶ脚を組み、もうこれ以上受け答えするのはたいそう面倒だという表情で「プリンターで作れる」とひとこと付けたした。
 これを自分で、考えたのかと少年を見下ろし「おまえが作ったの? すげーじゃん」と心底、称賛する声音で言ったが、少年は何にも嬉しくなさそうに、退屈そうな目線をくれるだけだった。
「……で、おまえ、転校生? 見ない顔だけど」
 今日転校生が来るらしいとか、みなが噂していたけど、先生は教室に誰も連れて入ってこなかった。
 少年は空中ガーデンの透明な天井から快晴の空をぼんやり見上げる表情のまま、至極、うなづくのもつくづく億劫だという仕草で、頭を少しだけ振る。
「教室で授業受けなくていいからここにしたのにな。学校の建物内には居ろって、馬鹿らしい話だ」
 ぼんやりとした表情は変わらないで、声だけ憎々しげに吐き捨てるように言った。

「そのゲームは、一人用? 対戦はしねえの?」
 二人で遊ばないのかと訊くと、少年は初めて笑った。おもしろくないものに呆れて、嘲るような笑みを口先に浮かべた。
「一人用……? かもね」
 ひっそりと笑う声で、仰向けに寝転ぶ脚を組み変えて、手を胸の上においた。
 そして目をつむった。
 しばらく眺めていたが少年は眠ってしまうのか、目を開ける気配がないから、がたがた身体を揺り起こした。
 嫌そうに瞼を開く。
「対戦しようぜ。これ」
 アナログな駒を動かすゲームを、やってみたかった。
 こちらを鈍い目つきで見て、少年はため息と同時に何かに祈りを捧げるように静かに目を閉じたあとにゆっくりと起き上がった。
「……やってもいいよ。でも、まだ……改良の余地があるから……」
 紙の盤上を見下ろす。
 待てない、今やろうぜと急かすと少年は「このお子様は……」みたいな目で肩から脱力して
「わかった……でも、不平等だな」下から睨むように笑った。
「僕は、作ったゲームをきみに提供するのに、きみは何も僕にくれないの?」
 そう言われても、こちらには何も、おもしろい物の手持ちが無かった。
「……学校のなかを案内するってので、どうだ?」
 妥協案を出した。
 少年は「はぁ?」という表情で、また寝転びそうになった。
 が、気が変わったように身を起こして、紙に残っていた白のウサギと赤のウサギの駒をざらっと倒した。
「そうだな……、建物内の道順を教えてもらおうかな」
 こちらを見てそう言ったあと、少年はこちらに何も訊かず白のウサギの駒を自分の側の升目に並べ始めた。
 おし、やるぞ、と赤のウサギの駒を並べる。
「でも……」
 最初の、それぞれ対岸に並べた陣形になったあと、少年は顔を上げて、鼻で笑った声でつぶやいた。
「きみじゃ、僕の相手になんないね」
 あまりに見下した言い様に、苛っとした。
 ぜってー負かしてやる、と思った。

 この日の、初めての戦いは彼に一方的に襲いこまれるように喰われたことを覚えている。
 帰りに、建物内の構造を教えてやった。
 数日後に、先生と教室に彼は入ってきた。
 それから、日を追うごとに彼の手製のゲームは複雑になっていって、すぐついていけなくなったが、なんとなく、自由時間は、ゲームをするとなりに行って座ってしゃべっていた。
 嫌そうな顔をしても、「あっちいけよ」とは言われなかった。

 やる気のない相槌を打ち、彼は膝に片方の手をおいて、つつくように指を揺らしながら、もう片方の手で六つの色のウサギの駒が右往左往する盤上を、一人で動かしていった。
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