温もり

本の虫

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11月

命日

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あんなに暑かった夏が嘘みたいに終わり、もう冬だ。寒すぎて黎は起きるの拒否するわご飯食べないわ動きが止まるわで大変な季節である。そんなとこも可愛いんだけど。


「・・・みんな、おはよう。」
「おはよう、黎。今日は寒いけど大丈夫?」
「うん、陽ちゃんが、マフラーぐるぐるーって。」
「はい、仲がよさそうで何よりです。ほら、明良と直輝も出てきなよ。」
「いや、だって・・・」
「付き合ってるん、だな・・・?」
「あーその話はマジでほかの人には内緒で。俺、めっちゃ怒られた・・・」
「そうなのwまあ、黎めっちゃ怒ってたもんねw」
「くっっっっそ!!!ずるいぞ!!!!こんな可愛いやつと付き合ってるとか!?裏切者!!!」
「直輝おちつけ。いつかきっとたぶん、お前にも可愛い彼女ができる・・・はずだ。」
「フォローになってねぇよ・・・」
「俺、まだ信じられねぇわ・・・元から仲良すぎじゃねって感じだったし。」
「なに、キスとかしたら信じてもらえr痛い、痛いですすみませんでしたあああ!!?」
「ほんっと反省しないよね・・・」
「・・・そうか、これ夫婦漫才だったのか。」
「そうだよ、馬鹿だな。気づいてなかったの?」
「俺も可愛い彼女ほしい・・・」
「「「「明良には一生無理」」」」
「ひっでええええええええええええ!!!!!!」
「それより、黎達、明日休むでしょ?先生に言ってきた?」
「あ、やべ忘れてた。職員室行ってくるわ。黎、行くぞ。」
「うん・・・」
「え、明日休むの?なんで?」
「ちょっと、な。明日だけは、どうしても黎が家から出れなくなるから。」
「いいから早く教室行くよ。一時間目、小テストだったはず。」
「うぉ、やっべ!!早く行こうぜ!!!」





「・・・なので、学校休みます。」
「そう、わかったわ。ノートとかはお友達に見せてもらってね。」
「はい。失礼します。」
「・・・失礼します。」
明日は、命日だ。黎の母親の。この日、俺たちは共通の知人の法事、ということで毎年学校を休んでいる。なぜなら、黎が一年でこの日だけ、どうしてもどうしても、ダメになってしまうからだった。




今から9年前。黎の母親は、冷え切ったピアノの練習室で、たくさんの楽譜の中、両手首を掻っ切って出血多量で亡くなった。自殺だった。黎は、自分の母親が手首をナイフで掻き切り、死んでいく様を、両手両足を拘束され、強制的に見せられた。そして心に深い傷を負った。それは、自分の母親がどうして死んでしまったかを忘れるくらい、深い、深い傷だった。
今も覚えている。ニュースで今年一番の寒さだと、雪が降っている地域もあると言っていた。そんな朝、俺は、ずっと朝が苦手だったのに自然になぜか起きれて。黎の、悲鳴が聞こえたのだ。しょっちゅう隣の家に言っていたから鍵の場所は知っていて。黎のもとに駆け付けた。黒光りする大きなグランドピアノ。真っ白な楽譜。倒れている黎。そして、圧倒的な赤。父さんと母さんが俺のすぐ後に部屋に入って。救急車が来て、パトカーが来て、黎は俺の家に来た。警察がたくさん来て、テレビが来て、すごい騒ぎになった。そして、黎が笑わなくなった。しゃべらなくなった。触ろうとするとおびえ、泣くようになった。
黎は、あのときの記憶はないらしい。
警察や俺の両親が何度も何があったのか、と聞こうとしたが本当に何も覚えていないらしく、
「ママはどこ・・・?」
と繰り返すだけで。その後、黎の叔母さんが虐待で逮捕されたり。気づけば黎はもうすっかり感情のない人形みたいになっていた。俺と隼は一生懸命黎に人間味を戻そうと努力してきて・・・高校に入って、やっと、俺ら以外の人間ともしゃべって笑うようになってきて、ほっと一安心、ってとこだ。本当は今年は大丈夫だと思っていたのだけれど・・・そううまくはいかない。





「よ~うちゃん!ふふふ~だいすき~~!」
「はいはい。俺も大好きだよ、黎。ほら、朝ご飯食べて。」
「あ~ん!」
「はい、あーん。」
今年はこっちのパターンだったか・・・
黎は、この日、精神的に壊れる。だいたい2パターンだ。目に入るものすべて、自分すらもめちゃくちゃに壊し、暴れ、泣き叫ぶのと、今みたいに・・・6歳ぐらいにまで戻ってしまうのと。一昨年までは朝、黎の家に行って一日中二人で過ごしていたのだけれど。去年、朝早くに黎の母と同じように黎が自分の手首を切ったので、今年は前日から一緒に泊まることにした。家中の刃物は金庫にしまって鍵もかけてある。もう、去年みたいなのは嫌なのだ。人生で一番ぞっとした。救急車に俺の母が付き添って乗って。俺は追いかけて。生きた心地がしなかった。
「ようちゃん、ようちゃん。きょうは、ずっと、いっしょにいる?」
お医者さんが言っていた。どうやら心と一緒に時間も戻っているらしい。でも、一日だけなので焦らずゆっくりいけば、いつかはトラウマを克服し治るはず、と。なので、ゆっくり、ゆっくりいくしかない。俺は、黎のためならなんだってできるから。
「ああ、今日は一日一緒に入れるよ。何がしたい?」
「あのね、あのねーぴあのがね、ひきたい!ようちゃんにきいてもらうのー!!」
「・・・え?」
今、なんといった?
「ようちゃん?どうしたの・・・?れいのぴあの、ききたくない・・・?」
「え、や、黎、ピアノ、弾くのか・・・?」
「うん!だって、ぴあの、だいすきだもんー!ようちゃんのほうがすきだけど!」
どういうことだ?今まではこんなことなかった。二人で映画見たり本読んだりして、夜寝て朝起きたら戻っているのが普通だった。黎はこの日の記憶も無くすらしいからなにも覚えていないみたいだけど。
「ごちそうさまでしたー!さ、ようちゃん、いこ!!」






うちの家側にある、広い部屋。なんていうの、サンルーム?があって、大きいグランドピアノと、たくさんのCDに楽譜。よく、音楽が聞こえてきた。昔は綺麗で明るかったが今はカーテンも閉め切られて暗い。一応、月に一回、黎が寝てからとかに風を通したり掃除したりはしてるけど。さすがにこの部屋は、黎のお父さんがリフォームした。そりゃそうだ、あんなに血が出てたんだから。でも、黎はあの日からピアノに見向きもしなくなったし、いまだ音楽家の活動をしている黎のお父さんはこの家に帰ってこない。この家にはもうピアノを弾く人がいなくなったのだ。黎の弾くピアノは大好きだったけど、苦しんでまで弾く必要なんてない。だけど・・・
「ぴあのだー!ようちゃん、なにききたい?れいねーこのへやにあるの、なんでもひけるよ!」
「じゃあ・・・これ。」
クラシックなんて正直ほとんど知らない。適当に楽譜を引き抜いた。
「ショパンの、別れの曲。ようちゃん、やっぱり、ぜんぶをおわらせるのはこのひだよね。」
「黎・・・?」
「ほんとはずっと、だいじょうぶだったんだよ。だってようちゃんがずっとたすけてくれてたから。逃げるのは、おしまいなんだよ。今日は天気もいいし。お別れするよ、お母さんと・・・過去の僕と。」
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