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11月
別れ
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突然、本当に突然黎の雰囲気が変わって、何が何だかわからなかった。ずっとほわほわとしゃべっていたのに急にいつもと同じしゃべり方になったのも、ピアノを弾くと言い出したのも、別れがどうのと言い出したのも。
ただ、訳が分からずぼーっとしている俺をおいて、黎はちゃくちゃくとピアノを弾く準備をしていた。
カーテンを開け、光を入れて。ピアノは血まみれになったものを、わざわざ黎のお父さんが修理に出していた。よく知らないけど思い出のものなんだそうだ。一般人としてはそんなものを残しておくなんて気がふれてるとしか思えないけど。
椅子の高さを調節し、ピアノと向き合って座った黎になぜか感動して、それだけで涙がこぼれた。本当に、理由は全くわからない。ただひたすらに美しくて、神々しかった。
黎は確かにピアノを弾くのをやめたけれど。あんなになる前は本当は誰よりもピアノが好きで。手が傷つかないようにと小さい時からしていた手袋は今も気が付くとしている。あえて指摘はしてこなかったけれど、きっと無意識にやっていたのだろう。それに、テレビや町中でクラシックが流れた時。手が動いて見えない鍵盤を弾いているのも俺は知っている。そんな時、いつも黎は泣きそうな痛そうな顔をしているのも。
黎のピアノは大好きだけれど、黎が弾きたくないなら弾かなければいいと思っていた。本当はずっと昔から。黎のお母さんが生きてた頃から。黎が弾きたいようにだけ弾いてればいいのにと。ピアノが黎を傷つけるなら視界に入れず、触れず、目を背け続ければいいと思ってそうしてきたけど。
ピアノに触れられないことは本当は黎にとってストレスだったのだろうか。
「陽ちゃん。」
「なんだ、黎。」
「今までずっと、陽ちゃんは傷ついた僕を助けて、守ってくれてたでしょ?すごいうれしかった。僕はずっと陽ちゃんのこと大好きだったから。でも、守られてるだけじゃやだ。陽ちゃんにも僕を頼ってほしい。だから、6歳のままでいるのはもうやめる。そのためには・・・ピアノと決着つけなきゃって。」
「ピアノ、弾いて大丈夫なのか?もう、つらくなったりはしないのか?」
俺はただ、黎に幸せでいてほしいだけだから。黎が笑顔でいてくれればいいから。
「うん、大丈夫だよ。陽ちゃんは心配性だね。ねえ、陽ちゃん。昔みたいに聞いててよ。僕がピアノ弾くのを、さ。昔はよく、聞いてくれてたでしょ?」
「・・・ああ、黎がいいなら。聞かせて。」
「よかった、断られなくて。ありがとう。」
そういってほほ笑んだ黎が愛おしくて。好きで好きでたまらなかった。
「断るわけ、ないだろ。」
「うん。そうだね。・・・何年も弾いてなくて、指が動くかなんてわからないけど。ショパンの、別れの曲。亡くなったお母さんに贈ります。見守ってて、陽ちゃん。」
ゆったりと、時間が流れる。白いカーテンが。空の花瓶が。黒光りするピアノが。黎の細い指が。この狭い部屋しか、それだけしかこの世界にはなくて、それだけしかこの世界には必要なかった。
途中、激しくなって。黎は辛そうに顔をゆがめていて、いまにも倒れそうで。もういい、弾かなくていいよと何度も何度も言いそうになった。手を伸ばして支えてあげたくなったけれど。
最後まで弾ききった後、黎はゆっくりと立ち上がって。こちらに深いお辞儀をして。ピアノにも深いお辞儀をして。そして、そのまま倒れた。
あまりにも美しいものをみた余韻で、なんだか圧倒されて。いつの間にか泣いていて。だけど、黎を助けなきゃ、と無意識に手を伸ばして。そしてよく見たら満足げに寝ている黎を見て。
「お疲れ様。おやすみ、黎。」
世界一美しくて、強い、自慢の恋人だよ。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
あけましておめでとうございます。アホほど遅くてごめんなさい。まだ11月ですね、こっちはw
しょうがねえな気長に待ってやるよ!!という奇特な方、いらっしゃいましたらどうぞ待っていてください。今年はもっと頑張ろうと思います。
ショパンの別れの曲、いい曲です。年の始まりに聞く曲ではないかもしれないのですが・・・。気になる方は、どうぞ聞いてみてください。
ただ、訳が分からずぼーっとしている俺をおいて、黎はちゃくちゃくとピアノを弾く準備をしていた。
カーテンを開け、光を入れて。ピアノは血まみれになったものを、わざわざ黎のお父さんが修理に出していた。よく知らないけど思い出のものなんだそうだ。一般人としてはそんなものを残しておくなんて気がふれてるとしか思えないけど。
椅子の高さを調節し、ピアノと向き合って座った黎になぜか感動して、それだけで涙がこぼれた。本当に、理由は全くわからない。ただひたすらに美しくて、神々しかった。
黎は確かにピアノを弾くのをやめたけれど。あんなになる前は本当は誰よりもピアノが好きで。手が傷つかないようにと小さい時からしていた手袋は今も気が付くとしている。あえて指摘はしてこなかったけれど、きっと無意識にやっていたのだろう。それに、テレビや町中でクラシックが流れた時。手が動いて見えない鍵盤を弾いているのも俺は知っている。そんな時、いつも黎は泣きそうな痛そうな顔をしているのも。
黎のピアノは大好きだけれど、黎が弾きたくないなら弾かなければいいと思っていた。本当はずっと昔から。黎のお母さんが生きてた頃から。黎が弾きたいようにだけ弾いてればいいのにと。ピアノが黎を傷つけるなら視界に入れず、触れず、目を背け続ければいいと思ってそうしてきたけど。
ピアノに触れられないことは本当は黎にとってストレスだったのだろうか。
「陽ちゃん。」
「なんだ、黎。」
「今までずっと、陽ちゃんは傷ついた僕を助けて、守ってくれてたでしょ?すごいうれしかった。僕はずっと陽ちゃんのこと大好きだったから。でも、守られてるだけじゃやだ。陽ちゃんにも僕を頼ってほしい。だから、6歳のままでいるのはもうやめる。そのためには・・・ピアノと決着つけなきゃって。」
「ピアノ、弾いて大丈夫なのか?もう、つらくなったりはしないのか?」
俺はただ、黎に幸せでいてほしいだけだから。黎が笑顔でいてくれればいいから。
「うん、大丈夫だよ。陽ちゃんは心配性だね。ねえ、陽ちゃん。昔みたいに聞いててよ。僕がピアノ弾くのを、さ。昔はよく、聞いてくれてたでしょ?」
「・・・ああ、黎がいいなら。聞かせて。」
「よかった、断られなくて。ありがとう。」
そういってほほ笑んだ黎が愛おしくて。好きで好きでたまらなかった。
「断るわけ、ないだろ。」
「うん。そうだね。・・・何年も弾いてなくて、指が動くかなんてわからないけど。ショパンの、別れの曲。亡くなったお母さんに贈ります。見守ってて、陽ちゃん。」
ゆったりと、時間が流れる。白いカーテンが。空の花瓶が。黒光りするピアノが。黎の細い指が。この狭い部屋しか、それだけしかこの世界にはなくて、それだけしかこの世界には必要なかった。
途中、激しくなって。黎は辛そうに顔をゆがめていて、いまにも倒れそうで。もういい、弾かなくていいよと何度も何度も言いそうになった。手を伸ばして支えてあげたくなったけれど。
最後まで弾ききった後、黎はゆっくりと立ち上がって。こちらに深いお辞儀をして。ピアノにも深いお辞儀をして。そして、そのまま倒れた。
あまりにも美しいものをみた余韻で、なんだか圧倒されて。いつの間にか泣いていて。だけど、黎を助けなきゃ、と無意識に手を伸ばして。そしてよく見たら満足げに寝ている黎を見て。
「お疲れ様。おやすみ、黎。」
世界一美しくて、強い、自慢の恋人だよ。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
あけましておめでとうございます。アホほど遅くてごめんなさい。まだ11月ですね、こっちはw
しょうがねえな気長に待ってやるよ!!という奇特な方、いらっしゃいましたらどうぞ待っていてください。今年はもっと頑張ろうと思います。
ショパンの別れの曲、いい曲です。年の始まりに聞く曲ではないかもしれないのですが・・・。気になる方は、どうぞ聞いてみてください。
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