温もり

本の虫

文字の大きさ
31 / 35
11月

別れ side黎

しおりを挟む
目が覚めたら、見慣れた自分のベッドだった。
ピアノを弾いたことだけを鮮明に覚えている。だけど、それ以外がひどくあいまいで。重い頭をゆるりと動かすと、大好きな人がベッドに突っ伏して寝ていた。
「陽ちゃん・・・?」
「・・・黎?起きたのか。熱とかないか?」
「ちょっとだるい・・・どうしたの?こんなとこで。」
「覚えてねーの?」
「うん・・・?」
そかぁ・・・とつぶやいた陽ちゃんの目から涙がこぼれた。
「え!?陽ちゃん、なんで泣いてるの?」
「お前のピアノ。なんか思い出すだけで泣けてきた。あー止まんね。」
そう言って顔を覆ってしばらく笑いながら泣いていた。
「なあ黎、マジで覚えてねーの?」
「ピアノ弾いたのは覚えてる。でもなんか・・・ほかの記憶あんまない。」
ほんとは嘘。全部覚えてる。でもなんか、これは、ちいさい僕との秘密な気がした。なんとなくだけど。
「そか。ピアノ、すっげーうまかった。さすがだな。」
「んふふ。ありがと。なんかお母さんのこと思い出したよ。」
とかって陽ちゃんの顔色うかがってみる。隠す気なのかな?
「ずっと忘れてたもんな、よかったじゃん。今日も学校休みにしたから、ゆっくり休め、黎。」
「・・・え!?嘘、今明日の朝なの!?」
「今日の朝な。だってずっと寝てたぞ。」
「うえーそりゃお腹すくよね・・・」
「あ、お腹すいた?なんか作ってくる。」
「ほんと?うれしい。さんきゅー。」
陽ちゃんが台所に向かったから、部屋には当然一人で静かでちょっとさびしい。でも、うれしかった。変わらず陽ちゃんは僕に優しいし、愛してくれてるのが伝わってきて。
お母さんのことをいっぱいいっぱい思い出して、なんだか突然の記憶に溺れそうで、陽ちゃんがもしいなかったら溺れて息ができなくなってしまいそうだった。








「美しいものだけに囲まれて生きていたいの。」







今思えば、親が子供に言うセリフではないかもしれないな。ずっと忘れていた、お母さんの口癖だ。お母さんは美しいものが好きで、美しいピアノが好きだった。いつも泥遊びだなんやで汚れていた陽ちゃんのことが好きじゃなかったし、僕にはいつもそんな子と遊ばないで、と言っていた。
思えばお母さんは少しずつおかしかったのかもしれなかった。でも、見ないように見ないように優しいお母さんだけ見てたし、陽ちゃんの優しさに逃げ込んでた。
でも、そんな僕ももう終わりだ。ちゃんと陽ちゃんに答える。陽ちゃんの愛に答える。もう、決めたんだ。僕も陽ちゃんと一緒に生きるよ。


「黎。りんごすったのとおかゆとあるけどどっちがいい?」
相変わらず料理早いさすが僕の旦那。
「りんごがいい。ねーえ、陽ちゃんこっち来て?」
「ん?なんだ?」
お盆を机においてこっちに来てくれる。ああほんとに大好き。だから、
「ちょ、黎なに、引っ張ったらあぶなっ・・・!?」
その唇に、自分の唇を重ねる。
「陽ちゃん、大好き。いつもありがとう。これからも、僕と一緒に生きてください。」
あはは、陽ちゃん目を見開いて間抜けな顔。でもカッコいいのはイケメンの特権かな。
「れ、い・・・」
「なに、顔真っ赤だよ?いつもやってるのそっちじゃん?今更照れてるの~?」
「だって、黎今までやってきたことなかったじゃん・・・///」
「んふふ。それよりもさー結構勇気だしてプロポーズしたんだけど?・・・答えて、くれないの?」
「黎。こっちこそ、死ぬまで、いや、死んでも俺と一緒にいてくれ」
「うん・・・!」
りんごの色が変わってもおかゆが冷めてもどうでもよくて。ただずっとこのまま二人だけで抱き合っていたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

綿毛ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。 総受けです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

空気を読んで!

すずかけあおい
BL
都希が憧れの先輩に告白しようとすると、いつも幼馴染の貴宗が現れる。 〔攻め〕貴宗(たかむね)高一 〔受け〕都希(つき)高一

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

処理中です...