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君を射止める為に〜sideエルセフィロル

僕の大切な女の子

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 言うなれば君は僕の天使だ。
 それが真実ならば君にはきっと綺麗な羽が生えているのだろう。
 そしてそうだと良いな、思う。
 だって、もしかしたら僕が呼んだ声を聞いて
 その時、空が晴れていて、
 そして、君が暇を持て余していたとしたら、
 その羽で飛んで僕の元に現れてくれるかもしれないだろ?

「…一体いつからこんな軟派な男のようなことを考えるようになったんだ、僕は」

「まぁ、公子様は軟派な方だったのですか?」

「冗談はやめておくれ、ミリー」

「ふふふ、突然可笑しな事を仰ったのは公子様ですよ?」

 僕はいつも君がその可愛らしい声で僕に愛を囁いてくれないかと期待している。

 君が望むなら、僕は喜んで毒を啜るし、
 君のためなら、家を破滅させることも厭わない
 君が欲するなら、国だって手に入れてあげるし、
 君が決めたなら、僕は一緒にその道を進む
 君が是と言うなら、それは全てを正しくするし
 君が非と言うなら、それは不正実だと叫ぼう

 だけど、その条件は君が僕のものである事。
 ずる賢いでしょ?

「最近、チュチュも可笑しな事を言うのですよ?」

「チュチュも?」

「はい、私の事を天使と言うのです。とても恥ずかしくて…」

「僕も良くそう思うよ」

 でも、君はそんな事を望まない。
 何もかも望んで良いのに求めず、欲しがらず、寧ろ与えたがるんだ。
 君は僕を優しい人だと言う。
 君は僕を面白い人だと言う。
 君は僕を強い人だと言う。
 君は僕を真っ直ぐな人だと言う。
 君は僕を真面目な人だと言う。
 君は僕を大人な人だと言う。
 
 だから、俺は僕を演じる。
 君が望む、僕を演じる。
 僕がそうするのは君のせいではなくて、
 俺がそんな僕でありたいからなんだ。

「…そうなのですか?でも、天使様は天界にお住みになられているのですよね?私、皆様にお会い出来なくなってしまうのは嫌です」

「それは僕も困るな。僕はこうしてミリーが入れたお茶の銘柄を当てるのが好きだし、お茶目な君の頬についたお菓子を食べるのも好きなんだ」

 全部君のいう通りだ。
 君が本物の天使でなくて本当に良かった。
 多分、君が天使だったとしたら僕の心の中の黒いものを見つけてしまうから。
 そして、それを見て何処か遠くへ飛んでいってしまうんだ。
 二度と僕が君を見つけられないように隠れてしまうんだ。

「…お菓子を食べるのは控えてくださいませ」

「天使だと言ったのは君がとても素敵な人だね、と言う比喩表現だよ。それにね、ミリー。僕は君は女神様なんじゃないかと思う時もあるんだよ。君の髪はとても綺麗だし、肌は陶器よりも白く輝いているし、瞳はダイアモンドよりも輝いているし…」

「…それも全部比喩表現なんですの?」

「そうだね」

「…では、それはお父様とお母様のお陰ですわ」

「ご両親の?」

「はい、公子様にそう思って頂けるのはお二人が私をそう産んでくださったからです。私は素敵なギフトを頂いただけなのです」

「そうかい?でも、君はとても感受性が高いから表情が豊かで、優しいし、気が利くし、とても頑張り屋で、とても我慢強くて、一緒にいてとても楽しい人だよ」

「……それは……お兄様のお陰かもしれません」

「そっちはお兄様なんだ?」

 君のそう言うところが好きだ。
 自分を決して大きく見せず、
 周りを大切にして、
 常に己を律している。
 だから、時々背伸びをして失敗してしまう君が
 とても愛らしくて、愛おしくて、堪らない。
 君はまだ14歳の女の子だから仕方がないよね。

「……いえ、ユーリのお陰かも?いえ、チュチュかしら?」

「そうか、僕がその中に入る機会はあるのかな?」

「その中?ですの?」

「うん、僕のお陰になる日は来るのかなぁ、なんてね?」

「何を言っておりますの?もう、公子様は私の大切な人ですわ。私、公子様と出逢っていなかったらチュチュと出会えませんでしたのよ?」

 だけど、たまに俺は狡い人になる。
 君が望む僕の仮面を被ってね、
 推しに弱い君に狡賢く要求するんだ。

「じゃあ、お礼に僕の婚約者になってくれる?」

「公子様の、ですか?私が…?」

「それがダメなら僕の事エルって呼んで欲しい。僕もエリと呼んで良いかな?」

「あ、あの……エル様」

「うん、エリ」

 僕は狡賢いから君がなんと言えば要求を飲んでくれるのかよく分かっているんだ。
 つくづく俺は俺の事が嫌いだ。
 だから、君に与えられた僕の事は結構気に入っているし、羨ましく思うこともある。

「…エル…とエリって響きが似てて、なんか嬉しいですわ」
 
「僕もそう思ってたんだ」

 キミは知らないのかなぁ。
 ミドルネームを呼ばせる意味を。
 いや、分かってるよね。
 でも、今は僕のせいにできるから。
 ふふふ、そんな君が好きだよ。

 だから、これも話してくれるよね?

「エリー、最近変わった事はないかい?」

「…突然どうしたのですか?」

 君は嘘はつくは得意だけど、嘘を吐くのは嫌いで苦手。なのに、不意打ちにも強いから本当に困るんだ。
 でも、俺は狡賢くて、卑怯だから、君のそんな部分も分かってしまうんだ。

「僕になんでも話してごらん?大丈夫だよ。僕は君の大切な人で、君は僕の大切な人だからね」

「…」

「全部は無理でも、少し話したら楽になるんじゃないかなぁ」

「…はい、その通りですね。少し前に失敗してしまったので間違えないように必死になっておりました」

「うん、大丈夫だよ。僕はエリーが大切だから、間違えていたら間違えてるとちゃんと言うよ」

「はい、エル様」

 いつか、君もこちらに来ることも分かっているよ。僕は狡賢く、卑怯で、強欲だからね。











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