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君を射止める為に〜sideエルセフィロル

僕の臆病な女の子

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 僕の家は公爵家。
 何代か前の王弟が起こした家で、何度も王族が降嫁して来ていて、僕の母親も元王女だ。
 だから、僕自身王位継承権を持っている。ある意味でスペアのようなもの。
 ただ、本来なら公爵家というのは残らないのが通例で、王弟たちに与えられるのは一代限りの爵位のことの方が多い。
 だけど、今この国には公爵家が四家存在する。まぁ、理由は色々あってその公爵が大きな武勲を挙げたとか、他国の王族が人質として嫁いで来たのを受け入れる為だったりとか、まぁ。そんなところだ。
 だから、僕に与えられる役割も同じだった。

 ただ、僕らが生まれたこの時代はとても平和な世の中で、戦争する事もないし、他国から人質が来るような状況でもないし、今居る王女様は一人で既に他の公爵家に嫁ぐ事が決まっている。
 よって、今は逆に王位継承権を脅かさないように嫁となる人も出来れば、それ程地位のない人が好ましい。
 だが、状況が変わったのだ。
 我が国に“特別”な存在が産まれた為、守らなくてはならなくなったのだ。

 これは公になっていないのであまり知られていないことなのだが。
 彼女を守る即ち、彼女はが王子と結ばれ王族となれば王宮は元々守りが厳重で、国で1番安全な場所だ。
 そうなればそれですべては丸く収まるはずのだが、それでは納得しないのが王子の婚約者候補となっている三家だ。
 本来なら貴族の子供は乳母に預けられ、大きくなるまではあまり親に会わない。当然、社交なんてものもしない。
 それは子供はいつ死んでもおかしくない生き物だから。何にもおかしなことではない。
 だが、如何しても納得しない彼らの為に開かれたのが彼女のお披露目会。
 2歳の誕生日パーティーだった。

 皆、一瞬で納得した。
 彼女は“特別”で、だから守らなければならないと。

「…先日、私が乗っていた馬車が襲われましたの」

「うん、聞いてるよ」

「その時はジャミールが一刀両断して…いえ、その…守ってくれて難を逃れました。その後お父様とお兄様が詳しく調べてくださって、犯人を捕まえてくださったのですわ」

「うん、そうらしいね」

 でも、同時に彼女が“特別”である事が周知されたことで、違う問題が出てくるようになる。
 そう、みんなが彼女を欲しがったのだ。
 それは、我々のように彼女に惹かれた者もいるが、“特別”だから欲しい者もいるし、僻みもあるし、妬みもある。

「ただ、その犯人を後ろで操っていたのは………貴族でしたの」

「うん、怖かったよね。大丈夫?僕に寄りかかって良いよ」

「…も、申し訳ありません。私もまだまだのようです。いつもエル様にはバレてしまいますね」

「良いんだ。僕はいつもでもエリの味方だからね」

 震えるきみの肩を抱く為に毎度こうして君が好きな木の下でピクニックに誘っている事には気づいているかな。

 きっと君はそれにも気付いている。
 でも、これは僕の気遣いだから。
 ふふふ、なんだか…いや、何も言わないよ。

「いつもならそれで終わりだよね?」

「はい、しかし今回は相手が…その、あまり宜しくなのですわ」

「じゃあ、今回は僕の出番だね」

「え?」

「フルーライトに言って失敗しちゃったんでしょ?」

「エル様、その言い方ではまるで殿下が失敗したように聞こえますわ」

 フルーライトのことを庇わなくても良いのに。そこも君の美点だけど、アイツの為に発揮されるのはなんだか妬けるな。

「フルーライトは結構忙しいよ。その点、僕は地位は王族並みなのにとても暇してる」

「そんなわけ無いのに…」

「君の為に使う時間は有り余っているんだ」

「とても素敵な言い回しですね」

「そろそろ時間だね。送っていくよ」

「ありがとうございます」

「勿論ついでだよ。エリのお父上と兄上に詳細を聞かないとならないからね」

「はい。………その」

「うん、今回は君には無理難題かもしれない」

「お、お手柔らかにお願いします」

 最もこの対価に関しては君が支払う必要なんて無いんだけども。
 僕達は“特別”である君を守らないといけないのだし。僕は僕の為に君を守るから。
 でも、僕は…ほら、狡賢くて、卑怯で、強欲だからさ。君から貰えるものは貰っておきたいんだ。

「うん、今回は君との未来が欲しい」

「…私との未来…」

「公子様、それは…」

「ユーリ、これは私とエル様のお話ですよ」

「…失礼致しました」

「未来、と仰るのですから、結婚、とは違うのですよね?」

「うん」

 そう、俺はそんな曖昧なものなんて要らないんだ。
 もっと現実的なものが欲しい。君を縛り付ける確実なものがね。

「だって、結婚には終わりが来るかもしれないからね。勿論、恋人だって、友人だって、終わる時は終わりだ」

「はい」

「だから、どんなことがあっても絶対に終わらないものが欲しい。だから、君の未来が欲しい」

「はい、わかりました」

「お嬢様!」

「いいの?」

「勿論です。だって…それって私もエル様の未来を頂けるってことですよね?あら、それでは対価になりませんね?」

「ううん、それで良いんだ。僕の全てをあげるから君の未来を下さい」

「ふふふ、プロポーズよりも素敵な言葉ですわ。……ですのに、エル様がお泣になりますの?」

 これが素敵だって?そんな訳ない。
 こんなに醜い思いを知っても君は俺の未来にいてくれると言うのか。
 なら、良いや。どんなに情けない俺でも、その進む先に君がいるなら。





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