72 / 188
第二章
新商品
しおりを挟む休日2日目。
レスターに体に良く無い、と夜更かしを止められたリーンは朝日を感じて目を覚ます。
早めの起床にも関わらず、当たり前のようにいるレスターはリーンが起きた事に気がつき、駆け寄ってくる。
「まだ早い時間です。もう一眠りされては如何でしょう」
「…準備がまだならそうしますが」
来たばかりなのは明らかだ。いつものキッチリとした正装ではなく、少しラフな姿のレスターに軽く言葉を返す。
寝巻きとまでは言わないとしてもいつでも完璧なレスターの姿を見てきたリーンにとってはラフな部屋着姿はとても新鮮だった。
リーンの視線に気づいたレスターは困ったような顔で言う。
「昨日言われた通りに少し楽な服装を選んだだけです」
最近、照れを覚えたばかりのレスターは恥ずかしさから背を向けるがそれは失礼だと分かっているからか、振り返って戻りを繰り返していて、それはそれは可愛らしい少年だった。
「今日は皆んなの試作品を試す日にします」
「畏まりました。休憩室の方に全て用意させておきます」
部屋着に着替える。
今日はリーンの瞳と同じ爽やかなスカイブルーのシャツに合わせて、下は少し細身の紺のスラックスでかなりシンプルなスタイルだ。レスターに昨日と同じく肌触りの良い白のニットカーディガンを温度調整がしやすいようにと肩にかけられて部屋を後にして食堂へ向かう。
すれ違う使用人達と軽い挨拶を交わして席に着くと、リーンお抱えの【料理人】アースがとても嬉しそうな様子で料理を運んで来る。
「何か良い事でもあったのですか?」
「はい!今日はリーンハルト様が試作品を試す日だと伺いましたので、私も試作品を披露させて頂こうと思いまして!」
気付いて居た人もいるだろうが、この屋敷では効率の良い伝達のため文字の読み書きのできる使用人には“タブレット”を携帯させている。鏡自体は簡単に作れるのだが、ピアスの方の個数を確保するのにはかなり骨が折れたそうだ。(ハロルドが)
それもあり“タブレット”を持つ事が使用人達の間でステータスとなっており、文字の勉強に励む者も多いそうだ。
「白パンとパイ生地で作ったクロワッサン。それとハトハに合う料理も試作したので少少しずつお召し上がり頂ければと思います!」
「それは楽しみです」
次々と運ばれてくる料理から懐かしい香りが漂ってくる。
ダーナロに来る前、ハロルドに頼んでいた物の一部にアルエルム産の食品がある。
ハトハ(米)は勿論、セイユウ(醤油)ビジョウ(味噌)、ビラン(味醂)、ハトハ酒(日本酒)などの調味料を一通り揃えた。この国では食されていない海苔や昆布などの海産物も何とか見つけ出して貰い、薬草扱いのわさび、生姜、ニンニク、などはキールが株分けして《成長》で育てて温室にて新鮮な状態で収穫出来る様になっている。
因みにイッシュが言っていたイナラ草は生姜でベンニ草はニンニク、ヒナタツユクサは、紫蘇、ツキノミチクサはミョウガの事だったりする。
如何やら元々あったものにはこの世界の名前が、作り出したものには漢字由来の名前が付いてるようだ。ますます日本人の存在を思い知らされる。
「アース、どれも美味しいです。懐かしい味がします」
初めに味噌汁を作って見せただけだったが、今では煮物、煮付け、きんぴら、味噌汁、極め付けは生姜焼き。自らどんどん日本の味をマスターしていった。
そしてどれも皆美味しい。
この世界に来て半年経ったが本当に日本の味が食せるとは思っていなかった。期待通りの味に満足し、普段よりも食が進む。
アースもそれには大満足だったようで、腕を組みながらフンフン鼻を鳴らしていた。
「リーンハルト様、アレらもそろそろ完成しそうです」
「ま、まさか…カ、カレー、が出来るのですか…?」
「はい、そのまさかです。後は“けちゃっぷ”と“まよねーず”も完璧です!」
嬉しいそうに手を取りニコニコのリーン。
その表情に倒れた者が出たのはリーンの預かり知る所ではなかった。
こんなに笑顔のリーンを見れる機会はない。普段は無表情ばかりの顔と美しすぎる容姿も相まって近寄り難い雰囲気を放っている。
気を遣って優しく接するリーンだからこそ、皆その無表情だからと言ってリーンを怖がる事は無い。
しかし、リーンの小さな微笑みを見た事があっても、ここまでの満面の笑みは初めてで、皆がアースを褒め称えたのは言うまでもなかった。
それからは休憩室に移動して色々な物を試してみた。職人の皆んなが集まっていて楽しそうに解説してくれた。
ために溜まった試作品の数は有に50点を超え、見て回るのも苦労するかと思ったが、面白さと凄さが上回り苦には感じなかった。
「ハルト様が仰る通り、まだ少し蕩け具合が悪く、舌触りの改善を図りたいと思います」
「レーネ。味は完全にチョコレートです。温度管理が大切なのでジェシーに頼んで温度計を作るのも手かと思います」
「…温度、計、とは暖かさが分かればいいのですか?」
「生チョコレートに関してはそうですね。冷たさも分かれば冷蔵庫にも応用できますね」
「成程…」
クラス【パティシエ】のレーネもジェシーも新たなる挑戦に意欲的だ。
こうして新たな案も生まれて商品の改善にも繋がるなはとても良い事だ。進化は知恵を生む。そしてまた進化する。この世界に圧倒的に足りないものだ。
「着心地は如何ですか??」
「これもアリアが作ったのですね。とても良いです」
「はい!それはハルト様から頂いた“絹”で作った物です。兎に角肌触りの良い糸ですが、ジェシーが織り機を改良してくれなければ布にするのも難しかったでしょう」
「2人とも流石ですね。アリアはこの難しい生地でも綺麗に縫製していますし、ジェシーはこの細い糸を織る為により細やかな力加減を機械に良く制御させましたね」
飛び跳ねるアリアと伏せって頬を染めるジェシーは対照的な喜び方だが、どちらもとても嬉しそうだ。
全ての試作品の総評が終わり、意気揚々と皆んな新たな試作品への意欲を語って解散した。
「ハルト様、湯浴みの準備が整いました」
「リーン様、試作品のシャンプーとリンスをイッシュから預かっております。リーン様のお好きなガンガロの香りだそうです」
薬師にお願いする方では無いのかもしれないが、美容関係の商品を作るのは1番適任だったのはやはりイッシュだった。肌にいい薬草、潤いを与える薬草、薬草同士の相性の良し悪し。それを良く把握しているのはイッシュだった。
ランドマーク夫人や御令嬢お気に入りのピートの香りの化粧品も全てイッシュが作った物だ。そしてやっと洗浄成分を合わせたシャンプーと潤いを保つリンスが完成したようだ。
「な、何かモコモコと、泡立って…大変です!」
「それがシャンプーですよ」
レスターがリーンの髪を洗いながら驚く様はとても愉快だった。
市井ように石鹸の開発も完了していて、アリアの作った泡立ちの良いタオルのお陰で身体を洗うのもとても楽になった。
「リーン様、お髪が…よりサラサラに…これ以上美しくしなくとも…いえ、何でもありません」
ぶつぶつ言うレスターの声は水をかける音にかき消されてリーンに届く事はなかった。
「シャワーが欲しいですね」
「“しゃわー”ですか?」
誰に頼もうか、と考えるリーンを見てレスターも嬉しそうに微笑む。この和やかな雰囲気がレスターはとても好きだった。
「やっぱり、ジェシー…では無いですね、あ、でも蛇口が必要…ヘット部分はプラスチック?かな、でも無いから、陶器で代用するとして…ベンとエマ…細かい穴が必要となると…サーベル…ホースは樹脂…の加工…んー」
「出来ないところは《錬金術師》に任せるのがいいのでは?」
「それです!レスター!」
2人でいる時だけのこの信頼されている感じ。気を許してくれているのだろうし、2人きりの時だけ見せてくれるこのウキウキした表情。
誰にも見せたくない、と言う浅ましい感情が漏れ出さないように、レスターは優しく微笑んでみせた。
0
あなたにおすすめの小説
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる