神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

オムライス

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 屋敷に戻り、汚れを落とす為にお風呂に入りる。何だかんだでこの世界に来てから1人でお風呂に入った経験のないリーンは入って早々お湯の出し方が分からず、暫くの間佇んでいた。
 見かねたキールはカールとストックを呼んできて入浴の世話をしてくれた。
 神示が無い、と言うことはこういう時に対処が出来ないのだ。どれだけ頼り切っていたのかを今漸く気づいたのだ。

「先程は凄い地震でしたね?」

 帰り道突然大きな揺れがあった。
 それはもうかなり大規模な地震で、屋敷の家具などもそれなりの被害があったようだ。入浴にお手伝いが来ないのもそのせいである。

「それよりもハルト様は毎日この広いお風呂にお一人で浸かっているのですね」

「…皆は如何してるのですか?」

「私達はレスター様に“えいせー”?を保つ為にリーン様の入浴後にお湯を頂いて布で体を磨いております。たまに“しゃんぷー”や“りんす”も貸して頂いてます」

「では…湯船、入りますか?」

 キールの言葉巧みな話に流され?ついでにみんなでお風呂浸かる事になってたので、皆んなの最近の近況報告を聞いてみる事にした。

 剣術を習い始めて新たなスキルの習得を始めたカール。

「もう少しで《フィニッシュブロー》を覚えられそうです」

 金細工と宝石加工を習って一から指輪を作ったストック。

「リーン様から頂いた“メガネのお陰で細かい作業が捗るようになりました!」

 そして植物について学んで文字の読み書きも覚えたと言うキール。

「今日のお花の名前はカミノハナと言うそうです」

 どの話もとても喜ばしく楽しい話だった。
 
「じゃあ、そろそろキールは“タブレット”を貰えそうなのですね」

「はい、僕達の中ではまだラテしか“たぶれっと”を持ってないので…少し頑張りました」

「キール、よく頑張りましたね。ラテは元々文字の読み書きが出来たのでそれは言いっこなしです」

「はい、ハルト様」

 あの偏屈だった男の子達に慕われるのはとても喜ばしい事だ。
 男の身体に慣れてきたとは言え前世で女だったリーンにとっては少し気恥ずかしい状況な筈だが、思考も男に寄って来ているのか、元々の呑気な性格が出たのか、それを特に気にすることは無かった。

 この後入ってきたレスターに子供達が追い出されたのは夕刻頃の事だった。

「レスター、キールに用事があるのですが…」

「私が伝えておきますので、仰って下さい」

 若干、ツンケンしたままのレスターに子供達が怒られたのでは、と申し訳なく思いつつも、レスターが屋敷を離れていた事に気が入ってしまって問い詰める事もなかった。

「じゃあ、代わりにイッシュを呼んでも良いですか?」

「畏まりました」

 “タブレット”に呼び出しの旨を書くレスターの横顔を見ながら机に伏せる。

「…なんでしょう、リーン様」

「なんでもありません」

 ハァー、とため息を吐いたレスターはいつものように頭を抱えて天井を仰ぐと、もう怒ってませんよ、と一言呟いた。

「なら、いいです」

 レスターの用意した紅茶を一口流し込むと、扉をノックする音が聞こえた。
 急いでやって来たのか、息を切らしたイッシュが息を整えながら挨拶したので笑顔で返す。

「リーン様、あの花を…いえ、カミノハナを私に使わせては頂けないでしょうか」

「良いですよ」

「あ!ありがとうございます!!」

 嬉しそうに部屋を出て行ったイッシュ。

「要件があったのでは無かったのですか?」

「あれが要件です」

 レスターは何か言いかけて止める。
 呼ぶ必要はなかったのでは?と思っての事だったのだが、リーンは喜ぶ、楽しむ、騒ぐ、そういう顔を見るのを楽しみにしていると知っているので、敢えて言うのを辞めて困ったように笑った。

「リーン様、夕食はカレーだそうですよ」

「それは楽しみですね」

 そしてリーンは忘れてたのだ。

ーーコンコンッ

「はい。どうぞ」

「どうぞ、じゃありません!リ…ン…?様」

「「「「…」」」」

 突然現れたのはリヒトとジャン達私兵4人とサンミッシェルだった。当然のようにリーンは見知った姿ではなく大人の男になっている。戸惑った表情のリヒト達に今までのらりくらりと交わして来た説明をしなくてはならないのか、とリーンは困ったように笑う。

「坊っちゃん、ここはダーナロですよ」

「…あぁ、そう言うことか」

「てっきり…いえ、それならダーナロに向かった理由も説明が付きます…」

 何故か納得し始めるリヒト達にリーンは小首を傾げつつも困った笑顔のままだった。
 そう言えばレスターも何故だか直ぐにこの状況を受け入れていた事を思い出す。また状況を理解出来ていなかったのは自分だけだったのか、と恥ずかしくなる。

ーー男?だよな?
ーーえぇ、多分男です
ーー男…なのに、めっちゃ綺麗ですね…

 そしてリーンを見つめたまま固まっているゼル、ミル、ライナはリーンには聞こえないが小さな声で何か会話しているようだった。

「どうして皆さん此方に?」

「…リーン様が突然意味深な事を送られて来たからですよ」

「…一体何と送ったのですか、リーン様」

「…?お元気でしょうか???」

「…違います。お元気で…です」

 一同押し黙る。
 離れていても振り回され続ける彼らに同情、と言うより気持ちが理解できる、と心の中で思いながらレスターは小さなため息を吐いた。

 結局みんなで夕食を取る事になったのだが、ここで一つ問題が起こった。
 それはカレーだ。
 彼らに、特にリヒトに出すような豪華なコースの食事など用意しているはずもなく、恐る恐るカレーを出してみたのだ。
 見た事もない物体に初めは皆一向にスプーンを取らなかった。だが、リーンが美味しそうに食べる姿とこの嗅いだ事のない不思議な食欲をそそる香りに生唾を飲む。
 一口…また一口。そしてそれが止まったのは大きな鉄鍋2つが空になった頃だった。一気に食べ盛りの男5人が増えた事で全く量が足りない、と言う状況になってしまったのだ。

「リヒト様達…使用人達の夕食が無くなりましたが」

「「「「…すみません」」」」

 反省しているのと、使用人達が大丈夫です、と言ってくれた事、そしてリヒト達が此方に来る事になった事の発端がリーンである事もあり、それ以上は何も言うことは出来なかった。

 リーンが席を立つ。

「どちらに?」

「厨房です」

 厨房にいる料理人達に詫びを入れに行くのかと思ったレスターはその後をついて行く。
 リヒト達も付いて行こうとしていたのをレスターはひと睨みして黙らせたのは正解だったかもしれない。

「なに、をされて、いるのですか…?」

「料理です」

「そ、それは…分かりますが…」

 料理人達と何かコソコソと話してたかと思うとリーンはエプロンをつけ始めたのだ。
 未だに“ゴム”が見つからず髪を結うのも紐なので自分で結べずにいるリーンは諦めた様にレスターの前に椅子を持って行き腰を下ろす。

「レスター、髪を結んで下さい」

「…はい」

 何も言えない程にそのエプロン姿に見惚れていたレスターはただそこで言われた通りに動くだけだった。
 

「まずニーネの微塵切りと、サイバードの肉を少し大きめの細切れにして、前に作った“ケチャップ”を用意して下さい」

 次々に出される指示を大の男5人がせっせと行う様はなんとも言い難い。

「出来ました!」

「ハトハの残りと全部合わせて炒めて下さい」

「サイバードの卵は何に?」

「卵で包むのですよ」

 リーンは卵を器に3つ落とし、細工の授業でストックが作ってくれた愛用のマイ箸でかき混ぜる。因みに箸はこの一膳しかない。皆んなも適当な木の棒を使って箸に挑戦してくれたが、こなれてきたのは未だにレスターだけだった。

 手慣れた様子で卵をかき混ぜるリーンに一同感心している。リーンは気にもせず、よく熱せられた中華鍋に溶いた卵を勢いよく流し込むと素早く細かく鍋を振る。
 とても重いはずの中華鍋を軽々と振れるのは男の身体になったからなのだろうか。
 半熟の卵の中心に“ケチャップ”で炒めたハトハを置くと、クルリと返す。その見事な手捌きに見惚れて直立不動で立っている男達の絵はとても滑稽だ。

「はい、出来ました。みんなに出してあげて下さい」

 一個ずつ丁寧に、しかもリーンが作ったと知ったら皆どんな反応を示すのだろうか、とその場にいた5人は思った。結論、これは誰にも言うまい、と顔を見合わせていた矢先、帰りの遅いリーンの様子を見に遣わされていたモニカがその光景を見ていた事にレスターでさえ気付かず、凄いよ!ハルト様!と言い逃げして行ったのだ。その後屋敷中にあっという間に広まってしまったのだった。

 それからはさらに大変だった。
 リーンが作ったと知った使用人達と職人達が厨房に一同返えしたのだ。ぎゅうぎゅう詰めの厨房に料理人達は困惑状態。
 やっとの事でその場を収め、食堂に促し、みんなで食事を取る運びになった。もうこれは軽いパーティー状態だ。
 楽しみにしていたカレーを食べつくされて不貞腐れ気味だったモニカの笑顔が見れたのでこれはこれで良しとしたのだった。

「…リーン様。私にも…一口頂ければ…」

 勿論レスターがその後広まってしまったのなら仕方がないとリーンが作った事を自白し、抗弁のようにリヒト達に説教を垂れた。
 そんな中、反省しつつも恐る恐る聞いて来たリヒトに仕方ないと自身の口に運ぼうとしていたスプーンをそのまま向ける。

「リーン様!!!」

 流れるようなその行動はレスターの叫び虚しく既に完遂してしまっていた。
 同時にその場に居た者全員の羨ましいと言わんばかりの視線を集めても、その行動の意味を理解しないリーンにそこら中でため息が漏れたのだった。



 
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