神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree

文字の大きさ
79 / 188
第二章

夜の帳に

しおりを挟む


 緊張した面持ちはそのままに、しかしはっきりとした口調でマルティアはこれまでの事を話し出した。


 今から26年前。
 当時まだ婚約したてだった現王ファルビターラとマルティアのなんの変哲もないある日にその男は突然現れた。
 以前より城に出入りしていた商会の商会長が1人の男を連れてきた。その時紹介されたのがこの商人らしくない静かな男だった。それからも度々王宮で見かけては挨拶をする。そう初めは王宮に出入りするただの顔見知りの商人だった。
 その商人は買うわけでもない彼らに出会う度に見るのも珍しい貴重な宝石や魔石、魔道具を見せてくれて2人をとても楽しませてくれていた。それから2人の離宮にも顔を出す様になり、物静かだが言葉が上手い彼は直ぐにファルビターラとマルティアを懐柔していったそうだ。
 

 ファルビターラは元々気が弱く、余り人との深い関わりを好まず、優柔不断で何かを決定する事に後ろ向きな人ではあったが、幼い頃から一緒で信頼を寄せるマルティアの助言にはきちんと耳を貸し、時間は掛かるもののしっかりと自身の考えを纏めて王太子としての政策も滞りなく行なっており、現在の様な愚行をするほどの馬鹿では無く、寧ろ慎重派な人で王妃も自分が支えになれば大丈夫だと思っていたそうだ。
 しかし、その男がある時、商人長の姪だと言う女性を連れて離宮にやってきた。その姪は帝国の学校をつい先日卒業し、帰ってきてから世話を商会長に頼まれたとのだと言う。何でもマナーがなってないとの事で教育を兼ねているようだった。その商人が少々困った様子だったので、いつも楽しませてくれる彼の為ならと普段なら絶対にしないのにマルティアがそのマナー講師を引き受け、更に王太子宮の滞在を許したのだそうだ。
 そしてそこがこの地獄の始まりだった。
 その姪は初めの1年は居候として滞在していたが、その後王太子宮のメイドとして働く事になる。変化が訪れたのはその辺りからだった。
 メイドになった彼女は知り合いの姪という事もあり、メイドでありながらも休みを多く与えたり、夕食を共にしたり、とかなり優遇していたそうだ。
 そして、王はその頃から少しずつ変わっていった。段々と王妃の話に耳を貸さなくなり、真剣に取り組んでいた政策にも早々に見切りをつけるようになり、しまいには彼女とルルティア以外の話には一切、取り付く暇も与えなくなったのだ。
 しかし、そこで王の変化に気づくものは王妃を除いて誰もいなかったのだそうだ。そう、その商人の姪と出会い王が変わっていくまでに実に9年と言う長い歳月が流れていたのだ。
 本当にほんの少しずつ変わって行ったファルビターラの変化に唯一気付いていた王妃は自身の侍従やメイドに相談していたが、彼ら自身が子供の時ファルビターラを知らないので誰も本格的に考える事は無かったのだ。
 それもその筈、王宮や離宮の使用人の出入りはかなり激しい。王宮で働くのには基本的に身分の縛りなどは無いが、王族の身の回りの仕事は警備などの関係や勿論身分の問題もあるので与えられるのは貴族だけなのだ。特に女性の王族の周りは護衛以外はほぼ女性だけである。必然的に彼女らは貴族なので社交界デビュー後は婚約し、結婚して、後継を育て無ければならない。王族の身の回りの世話のようなの自由の効かない仕事は出来なくなる。
 そして、残るのは尾ひれが付きに付きまくった噂だけが残っていくのだ。
 それが王宮の現状である。

 そして王妃はそれから少しして些細な不運に遭う様になる。
 初めはベランダの手すりが腐食していたり、階段が濡れていたり、とその程度の事だった。慎重な性格が好転してその不運を尽く回避していた。
 
 そんなある日の午後。
 娘ルルティアの5歳の誕生日を祝う打ち合わせの為に夫人達とお茶会をしていた時、お茶の些細な香りの変化に気付いたマルティアは急遽お茶会を中止した。お茶の異変を調べるため呼び寄せた魔法師によると何かが混入していたのだそうだ。
 そこで漸く自身の危機を感じ取ったマルティアはこんな計画を立てた。
 自分を殺したがっている人がいるのなら、死んだ事にして犯人を炙り出そうと。死んだら利益になり必ず王妃としてその後釜に収まるだろうと。
 そしてその後釜に収まったのが世話を焼いていたはずの姪でメイドだった現王妃であるメルーサその人だった。

 それからマルティアは身を隠しつつ、その商人や姪、過去の出来事全てを洗って行ったと言う。そして分かったのは信じられない事実だけだった。

 マルティア自身も気付かない内に自身の信用していたメイド達は悉く退職していたがそれを手引きしていたのは全て王の離宮時代からのメイドと言う名目でメイド長となったメルーサの仕業だったのだ。
 どんな手を使ったのかは分からないが高位な貴族を充てがったり、思い人を充てがったり…当時は彼女らの幸せをとても喜んで送り出していた。
 それだけなら良かったのだ。
 それでも辞めない者には無理矢理汚名を着せたりや醜態を暴露したり、脅しや暴力といった嫌がらせもしていた。それもかなり周到に行われていて、誰もそれがメルーサの仕業とは気付いてもいなかった。
 全ては王妃派のメイドを消しさり、王妃マルティアの情報や動きを全てメルーサは握ら為のもの。調べによれば、キングストンが産まれて以降に来たメイドは全てメルーサの手の者だった。

 それだけでは無い。他にも疑問を持ったマルティアは確たる証拠までは掴めなかったが、王の死についての確信を持てる程の重要な情報を得た。
 王の死は公には持病の悪化が原因だと公表されている。勿論それはマルティアも王妃としてその場に居合わせて直接医師に聞いたので信じていた。不遇の死だと。
 しかし当時を思い出すと可笑しな点が幾つかあった。その日居るはずの王宮筆頭医師であるマクレガー医師が急患でいなかった。そもそもまず王宮筆頭医師が急患でいない事が可笑しい。そしてその代役で来たのがメルーサが急遽連れてきた帝国の医師だった事。そしてその後マクレガー医師はその日居なかった事を追求され、そのまま追い出された事。そして追い出す事を推したのが現貴族院の筆頭であるカレブ・マンチェスター伯爵である事。そのマンチェスター伯爵はその後に勢力を伸ばし今の地位まで上り詰めた事。
 調べれば調べる程可笑しな点が見つかった。

 そして、彼女の休暇について。王太子宮のメイド時代から数ヶ月に一回10日程の長期の休みを取る。商人である父の手伝いだと届出にも記載してあったそうだが、実際には実家でもある商会ではなく、帝国の辺境へ行っていた。そして、商会長の姪だという事は事実ではあったが、姪になったのは王太子宮に来るたった1ヶ月程の前の話だった。しかもその商人の兄夫婦は子が出来ず、貰われてきたのはまた更にたった1ヶ月程の前話だったのだ。
 子を成さずそれでも子が欲しいと態々孤児を引き取ってこれからだという時にその子を他に行かせるだろうか、と。
 考えれば、考える程可笑しな話だった。

 そして導き出された答えは全てメルーサ、ないしその背後にいる者の仕業で、王国を乗っ取り思いのままにしているのでは無いか。ダーナロの変化、先王の死、現王の変化、メルーサの境遇、国庫の流れ、得する者達。それ全てにおいて関わっているのは…。


 ポーションだった。


 マルティアは目にハンカチを押し当てて俯いた。
 リーンは何も言わずその行動に話が終わったのだと理解して、レスターにお茶を入れ直すよう合図を出す。音を立てる事なく差し出された事に心の中で感心しつつ、皆に促す様にお茶に口をつける。
 
 誰も話し出そうとしない応接室は長い静寂が続き、マルティアの話の内容を、その重さを推し測っていた。

「王…いえ、ファルビターラを最後まで支え守る事も出来ず、更には最愛の娘も…あの女に毒されてしまいました。私の浅はかな考えで妻として、また母としての立場を投げ出し、大事な局面の判断を間違え、側に、共に居なかったのが最大の過ちでした。ファルビターラの、ルルティアの愚行は全て私の所為なのです。どうか、お許しください」

 静寂を切ったマルティアの悲痛な静かな叫びは夜の帳と共に降りて悲しく消えていった。








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...