神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第三章

頼み事

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 ほんのりと漂ってくる磯の香り。夏真っ只中の陽射しの強いこの街が過ごしやすいのは近くに海があるからなのだろう。潮風がとても気持ち良い。
 そんなに高低差はないが宿屋のテラスから見下ろす景色は周りの建物も低いからか街全体が見渡せて、更に空の青さと太陽に照らされて輝く海はとても絶景だ。
 街は港町だからか食品特に海産物が新鮮で素材が良いからかシンプルな味の多いこの世界の食事事情の中でもそれなりに美味しい。観光地だからか見て回るところも多く、石畳でしっかりと整備された道はとても歩きやすいし、馬車でお尻の心配をすることも無い。買い物も有名店が軒を連ねているそうでかなり充実しているし、カジノや遊郭のような娯楽も多い。
 1ヶ月もの長い船旅で疲れ切った心を癒すには最適な街だった。
 とは言え、リーン達は約束がある。
 長々と悠長に観光を楽しむ訳にも行かない。1ヶ月もの間海上に居た為か見る物全てが楽しく嬉しい物だった。しかし、長旅の疲れを癒す為に設けたのは3日間。なので街中を歩き回る時間に追われたこの3日間は気疲れして終わってしまった。
 まぁ楽しめたのには変わりないのだが。

「リーン様、出発の準備が整いました」

「今行きます」

 少し名残惜しい気持ちを閉じ込めるようにそっと部屋の窓を閉じた。

「リーン様。今日は何故…?」

「…?」

 レスターの質問の意図が分からず首を傾げるリーン。同時に馬車の車内はカオス状態となっている。
 勿論全てリーンのせいであるのだが、リーンはそれを理解するような人物ではない。

 今日は朝から蒸し暑かった。
 テラスの窓を開けて涼む事は出来た先程とは違い馬車では涼む事は難しい。街の整備されていると言っても有名な観光地と言っても所詮は避暑地的扱いで、そのシーズンが終われば人も減る。勿論交易などはそのままなので単純に観光客が減るだけだが。
 なので、辺境の地である事には変わりない。流石の錬金王でも国中の街道を石畳や煉瓦造りの道に変えるのは難しいようだ。
 馬のや車輪によって巻き上げられた砂埃で窓の外は茶色、茶色、茶色。景色を楽しむ暇はない。道も交易の品を運ぶ為に大量の馬車が行き交うので車輪の溝が出来ていて、上手く乗れれば良い旅路なのだが、やはり小石が嵌まっていたり、すれ違う際にその溝から無理矢理脱輪する為大きな振動を伴う。当然お尻や腰に負担が掛かる。
 ここまで説明したら流石に分かると思うが、リーンは今日は大人バージョンなのだ。レスターは当然リーンは子どもないし幼女バージョンなのだと思っていた。お尻の負担軽減の為に誰かの膝の上に座わるのはいつもの事だったし、(レスター達からの強制)良い馬車の車内は広いとは言え、大人4.5人乗れば長い旅は息が詰まる。小さい方が良い。

「何故、幼女じゃないのかって事だろ?」

「イアン!幼女、幼女と執念深いぞ。リーン様が嫌がっていると分かってての狼藉か?」

「リーンハルト様。レスター様は今2回言いました」

「ミモザ!」

 最近はもうこれの繰り返し。リーンからすればなんだかんだで皆んな年下なのだから寛大な心で大人しく聴いている。口出しもしないし、怒りもしない。ただこれが収まるまで待っていると日が暮れる。これは体験談だ。

「今日は少し寄りたい所があるのでヴェルムナルドールです」

「左様でございましたか」

 リーンが手元の鏡に目を向ける。
 もう日課と言っても過言ではない。

「またリヒト様ですか?一体毎日何を話す事があるのでしょう」

「今日はミッシェルからです」

「…リヒト様がそれを他の者に触らすなんて今日は雨ですね」

 確かに言われてみればそうなのかもしれない。此方ではもうノートのようにメモ書きから書類作成、メールの送受信、など色んな事に便利なので使用人も文字の読み書きが出来る者には渡しているのでよく目にしているが、向こうにはリヒトに渡した1つとハロルドに渡した1つしかない。貸し借りするしか無いのだがリヒトからしか連絡が来たことは無かった。しかしここ数日ミッシェルやログス、ジャンなどからも連絡が来るようになっていたのだ。勿論リヒト同様たわいも無い内容だった。 

(…とりあえずはまだ大丈夫…か…)

「リーン様?」

 黙り込んだリーンに喧嘩をしていたイアンとミモザも口を閉じて視線を向ける。

「何でもありません。次の街では面白い人に会えると思います」

「…面白い人?」

「はい、面白い人…人ですかね?」

「「「…?」」」

 それから窓の外がよく見えるようになるまでにはそれ程時間はかからなかった。

 広い広い草原が左右に広がっている。柵で覆われている草原には見た事のない動物が沢山いて、まるでサファリパークだった。勿論見た事無いと言うのは『地球』での事で当然神示を通しては見た事がある。
 やはり生で見るのと神示で見るのは訳が違う。

「あ、居た。止めて下さい」

「…あれは人、なのか?」

「人なのですか?」

「人とは思えません」

 草原の中でも一際草が生い茂っている所にポツンと人影が見える。ただその草はこの世界ではとても有名な笹のような竹のような草、ワシャルガ草。茎は皿やコップなどの日用品の加工素材として使われ、先端は動物の餌、畑の肥料、食料など幅広い使い方が出来るのでとても人気の高い植物だが、とても成長が早く1日で2メートルの高さにまで成長し、間違えてほったらかした日には硬い茎は中々刃物を通さず、使われるのは先端だけ、と言う何とも大変な植物だ。
 当然栽培はとても多く望まれているが農家からは敬遠される植物でもある。
 それを目の前で軽々とへし折る男は一体何者なのだろうか。

「こんにちは」

「…?すまねぇなぁ。あり得ないくらい美人だし、俺の好みなのだが、今は恋人は募集してないんだ」

「それは残念ですね」

「ん?後ろの男と女も一緒か?」

「はい」

 そんなに頭は良くないのだろうか。混乱しているのだろうか。レスター、イアン、ミモザとリーンを行ったり来たりしながらジロジロと観察して何か思いついたかのように手を叩いたかと思ったら、突然『ダブルデートって奴だな?』と言い出した。

「私はリーン様の秘書です」

「私はリーンハルト様の侍女です」

「俺は護衛……友達だったな」

 リーンはイアンにニッコリ笑って返す。ふー、と胸を撫で下ろしたイアンを見てレスターとミモザは何かあったのだろう、察してイアンを睨みつける。

「何にもないぞ?なぁ?リーン」

「…?はい、お詫びに少し腹筋を触らせて貰っただけです」

「「…」」

 2人からの無言の圧力にも対して何も感じていないイアンは悪びれもなく、いつでも触って良いぞ?友達だからな、と言って2人から袋叩きにされるのはその日の夜の話し。

「じゃあ何しに来たの?ここは割と危ない所なんだけど」

「ちょっとお願いがありまして」

「んーまー、聞いてやらんこともないけど貴族って奴はあんまり好かん」

「貴族じゃないので大丈夫です」

 お察しの通り、リーン達の後ろには案内役のポートガス親子やその護衛、数人のリーンの使用人達がいる。其方からの視線も厳しいと言うのにも関わらず、それは視界に入ってもいないかのように話す彼は中々の大物だ。

「お仕事を頼みたくて」

「…俺はここを離れられない」

「大丈夫です」

「…大丈夫?お前に何が分かるんだ。は!分かる訳ねぇよな~。金持ちって奴が貧乏人の相手の気持ちなんて気にする訳もねぇしなぁ!」

 ドスの効いた声で声をあげる男にもリーンは笑顔のままだ。不気味に思ったのか、舌打ちをして目を逸らす男は罰が悪そうにリーンに背を向けて再びワシャルガを狩り始めた。

「大丈夫、と言ったのは此処でやってほしいからです。ここから離れる必要が無いので大丈夫と言いました」

「…」

「それで、この近くにちょっとした小屋を建てて貰いたくて。勿論この土地の主人には話はつけてありますし、貴方にお願いしても良いと了解も頂きました。貴方は此処での仕事と私からの仕事どちらもやるので忙しくなりますが、私からの仕事は私が別で賃金を支払いますので2倍稼げます」

「…幾らくれる」

 話しを聞く気にはとっくになっているのに、先程までの態度を今更ながら悔やむ。しかし羞恥心が邪魔をして振り返る事も謝る事も出来ない。
 カッコつけていたのに、眼中には無く寧ろ簡単に遇らわれて、早とちりの上勘違いをして怒鳴りつけた挙句、それすら流されて諭されているのだからどうしようも無い。

「貴方の言い値でも良いのですが、生真面目な貴方は大きく言う事も出来ないでしょうから大金貨5枚を…」

「分かった」

「…を前金で完成したらもう10枚でどうでしょうか」

「…多いだろうが」

「1人でやってもらう事になりそうなので総取りって事ですね」

 ふーっ、と深いため息をついて腰に手を当てて少し前のめりになり止まる。短い沈黙の間リーンは笑顔のまま。

「…いつまでにやれば良い」

「そうですね、ポートガス卿。後どのくらいで目的地に着くのでしょうか」

「…?予定では1ヶ月くらい、でしょうか」

「1ヶ月じゃあ短いですか?」

「大きさにもよる」

 リーンは笑顔のままだが、チラチラと見える男の顔は困ったように眉間に皺を寄せて伏せられたままだ。

「1ヶ月で暇な時にやって作れるくらいの大きさでいいです」

「んじゃあ、まぁアレくらいだな」

「流石ドレイクさん」

 名前を突然呼ばれて驚いているドレイクを置いてスタスタと歩き去るリーンは手を振って、ではまた、と言い残して颯爽と去って行った。








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