132 / 188
第三章
ショートケーキ
しおりを挟む「今日もお手伝いありがとうね、レーネちゃん」
「いえいえ、私はこのハスィロに惹かれてしまって」
「そうかい!そうかい!いやー、嬉しいねぇ!大切に育てた甲斐があるってもんだ!」
ガハハ!と豪快に笑う彼はこの農園兼牧場の主ハスィロさん。真っ白でのっぺり顔の大型の魔獣。魔獣であるのに何故か温厚なこの動物に自らの名前をつけた飼い主で更にあのレストランで出されていた“ロギア”も飼っている超が付く有名人。
“ロギア”はこの大陸では割と広く飼育されている動物だそうで色んなところで食べられているのだが、ハスィロに関してはこの地域限定で、あの“マグナロギア”が有名になったのも実はこのハスィロが使われている事が大きい。
マグナロギアの調理法はハルト様曰く“煮込み“という奴で、さまざまな香草や薬草を使って風味豊かな味わいと、兎に角時間をかけて煮込まれた事によりホロホロにとろける食感を味わえる至極の逸品。そして彩として添えられた真っ白な線。何故かその色を混ぜ合わせるとその風味豊かは味わいを濃厚で重厚感を持たせたワンランク上に押し上げてくれる。
ただ、ハルト様に出会う前だったらこのマグナロギアにめ大層驚き感動しただろうが、既にこれ以上のものを食べている私としては余り納得がいっていない。
やはりハルト様の発想力は完璧でそれを実際に作り上げるアースさんはやっぱり凄い人だ。
だからこそ今回の仕事をやり遂げなくてはならない。ハスィロを使ったお菓子、私が絶対に完成させてやるんだ!
「レーネ!お昼持ってきたよ!」
「レーネおねぇちゃん!もってきたよ!」
「エマさん!フレディく~ん!」
愛らしいフレディくんにメロメロのおばさんを許してね。フレディくんを見れば疲れなんて飛んで行っちゃうよ!
「相変わらず酷い顔よ?気持ちは分かるけど」
「そうです!しょうがないのです!フレディくんをこんなに可愛く産んだエマさんが悪いのです!」
「あらあら、そっちの意味じゃないのだけれども」
「レーネおねぇちゃんはフレディがすきなの?」
「そうなのです!だ~いすきなのです!」
「ぼくもね、レーネおねえちゃんのことだいすきだよ!」
「あぁ、溶ける~、レーネは溶けちゃうよ~」
くりくりで大きなおめめはエマさんと同じ金にも見える薄茶でベンさんに似たふわっふわの癖毛が私の鼻をくすぐってくる。はち切れんばかりの頬は思わず連打したくなるし、ちっちゃなおててに握ってもらいたくてついつい指を差し出してしまう。フレディくんが欲しがるものなら何でもあげたいし、やりたい事はやらせてあげたい。だから髪の毛を引っ張られようが、鼻の穴に指を突っ込まれようがどうでも良い。そして嫌がることからは全力で遠ざけてみせる!
それをエマさんベンさんに過保護すぎ、と怒られるのは日常茶飯事だが、もうそれで良いのだ!
可愛いのが悪い!
「ぼくね、4さいになったの。ハルトさまがね、れんしゅうするね、やつくれてね、きのうはもっと、もーっとおっきなあなになったよ!」
「…何と…4歳にしてもう!!!素晴らしい!素晴らしすぎます!フレディくん!可愛いだけではなく天才なんて完璧じゃないですかっ!!」
「もう、毎回毎回レーネったらやめなさいって。フレディが調子に乗ってしまうじゃない。まだ数回しか出来ないのよ?しかもお預かりした魔石をもう10個もダメにしちゃったし…あれ一体いくらするのかしら…怖いわ」
「何言ってるのですか!エマさん!フレディくんは天才なのですから投資するのは当たり前ですよ!ハルト様もそう思っているのです!出なければ一個5000イルはくだらない魔法石をホイホイ渡したりしませんって!」
「え、あれそんなにするの?5000…イル…平均年収よりも高いとは…困ったわ…ベンになんて言おうかしら」
明らかにテンションの可笑しい2人をキャキャと楽しそうに見ているフレディの構図はなんとも愉快だ。
「そうだ!今日はお祝いをしましょう!フレディくん!今日はケーキを作りましょう!」
「ほんと!?やったー!レーネおねぇちゃんだいすき~っ!」
「きゃーーー!フレディくん、私を殺しにかからないでーーー!」
うん、何とも愉快だ。
その日の夜。
「ん?昨日は何のパーティーだ?」
「あら、ベンさん聞いてませんでしたか?何でもフレディくんが《ポータル》を成功させたそうです。そのお祝いだ!とレーネが騒いでおりましてね。カレーやら、ドリアやらせがまれましたよ」
「またあの子か。本当に可愛がってくれるのはありがたいけどあの子の反応は異常だよ」
「私も気持ちは分かるんですがね、あれは異常ですね。仕方がないのかも知れませんが…」
「…?」
ベンとアースが来ていることに気付かないほどに浮かれているレーネは通常運転でフレディとワイワイ遊んでいる。
「ベン、どうだった?そっちが終わったのなら早めにガンロ様達のところに合流した方がいいと思うのだけれど」
「ん?急にどうしたんだ?そんな急ぐことないだろ。レーネもレシピ完成したのか?」
「それがこの子フレディと遊ぶために寝ないで仕上げたんですって。だから早めに向こうに行ってライガさんに叱ってもらわないとと思って。それに魔石の消費も怖いし」
「ん?何でライガ?魔石?」
「…貴方はそう言う人でした」
「え?アース分かるか?」
「流石に分かりますよ。今のレーネはフレディくんに異様に固執してますしね。フレディくんは魔力がまだ足りないので補助で魔石のマナを借りての《ポータル》を開いています。魔石無くなったら私ら徒歩でアルドに向かわなければならなくなりますよ」
首を傾げるベンウィックを置いておいて2人はフレディとレーネを引き剥がす。
泣いて嫌がるレーネを無理矢理席に座らせた。
「ねぇ、レーネおねぇちゃん!ケーキは?」
「ふふふ!もっちろん完璧です!」
「ハルト様のヒントによればハスィロの乳を、ぶんり?してそれをお砂糖を混ぜながら泡立てるんです」
「え、そのぶんり?はどうやったの?」
ふふふ、と不気味に笑ったレーネは何かを前に置く。
「んあ、魔法陣か」
「はーい!そうなのです!私の【パティシエ】の技能にですね《天秤》と言うのがありまして、私はそれで何が何グラムなのか持っただけで分かるのですね!それにこのハルト様からお預かりした魔法陣を組み合わせて使うと!何故か分かりませんが2種類の液体が産まれるのです!」
「「「…へぇ」」」
「それでも流石にこれがどっちがどっちなのか分からないのでどっちもかき混ぜてみまして…それで固まったのがコチラ!もう一方は全く固まりませんでしたね、ハイ」
「「「へぇ~」」」
「それで此方が、ハイ!“ショートケーキ”と言うそうですね!甘くて美味しいですよ~。さぁさぁ、フレディくん!召し上がれ~」
「ケーキ、ってくりすますとかに食べやつよね?あれってお砂糖で固まってる奴じゃなかったかしら?」
「確かにそうでしたな、これはなんだがふわふわ、ツヤツヤしてますね?」
「雪みたいだなぁ?」
「そうでしょ!そうでしょ!感動でしょ!!!塗るのがとても大変で夜通し5日も練習についやしました!!」
興奮冷めやまないレーネは鼻高々にケーキを掲げる。
「でも、ハルト様のレシピだとなんか赤い果物を載せるみたいなんですよねー。モニーに似た赤い果実…チーゴって言うそうです」
「…それ、完成してなくないか?」
「たぶん、何にも分かってないんじゃないかしら」
「未完成ですねぇ」
「そ、そうとも言いますが、ハスィロを使ったケーキになのは間違いありません!ちゃんと形になりましたし!」
完全に可笑しくなっている。
彼女は割と理性的な人だったはずなのだから、本当に可笑しい。これにはもう一刻の猶予もないのかもしれない。
「…あー、エマ。今日この後ちょっと出てくるよ」
「えぇ、そうね。その方がいいわ」
「エマさん、私らもちょっと出てきますね」
「アースもみんなも宜しくね?」
「「「はい、エマさん」」」
料理人見習い達も流石に察した様だ。
皆んなで2人の様子を少し眺めて一様にため息を吐いたのは致し方がないことだ。
0
あなたにおすすめの小説
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる