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第四章
デロス島
しおりを挟む目の前に広がるのはため息が出るほどの広く、大きな港。
アルエルム最大の島、デロス島にある港町バカンス。ヴェルスダルムの強大な帆船を見た後では感動はかなり薄いが、それでも、他にある沢山の島々から物が集められる物流の拠点となっていて、アルエルムの中ではそれなりに発展した港町だ。
先日リーン達が訪問したコロンがいた兎人族達の島もその沢山の島の一つであの場所で育てられた野菜達も一度このデロスに集められたのち、他の島と取引したり、他国と交易したりする。
アルエルムでは他国では中々見ない珍しいものが多く、リーンがエルムで訪れたバザールで購入したハトハ酒もその一つだ。
そして、当然リーンが神示で見ていた通り市場では米や醤油、味噌なんかもごくごく普通に売られており、露店で売られている肉串は塩とタレを選べたり、おにぎりなんかも当然のように売られている。
エルムのバザールにそれらを持ってきていなかったは自分達で消費してしまうからなのかもしれない。
「あのカフェで一休みしましょうか」
リブリーの母を助け出してから数日。リーン達は特に何かする訳でもなく、いつもと何ら変わらない1日を過ごしていた。
普段は屋敷の修復作業をして、時折こうして街まで出てきて食材などを買い込む。今日みたいにカフェでゆっくりお茶を飲む事だって普通に出来る。
「本当に誰も近寄ってきませんね…?」
「どう言う事ですか??」
「以前はハルト様のあまりのお美しさに道行く人々がハルト様に群がり、歩くことも困難なことが多々あったのです」
「そ、それは…大変でしたね…」
どういう状態だったのかを想像したのか、エイフリアはラテに頬を引き攣らせながら微笑む。
「それはそうですよ…この島はドワーフが一番多いとはいえ獣人も多いですし」
一方、それは当然だと言わんばかりにリブリーはキョトンとした顔で驚きもしない。
「どういう事?」
「私達の美しさの基準って人間とは全く違うのです。それも種族毎に違うので運命の人と出会うのも難しいです」
「例えばどんな人が好まれるのかしら」
「そうですね…、分かりやすいのは神竜族や黒龍族、ドラゴニュート、などのドラゴン族でしょうか。彼らは兎にも角にも強者が絶対。種族は問いませんが、ドラゴンは最強です。殆ど同族同士になりますし、私のような精霊族や天使族何かは殆ど好みなどありません。そもそも生殖活動を行わないので概念自体異なります。なので好みとは紛うかもしれませんが、強いて言えば、信頼できるかどうかが大切になります」
「確かに割と同族同士ばかりですね」
街行く人を眺めながらエイフリアがポツリと呟く。
此処にはあまり人族の姿は見えない。一見人族と見分けのつかない人も多いが、エルフである彼女にはその違いがよく分かるのだろう。
「人族が全くいない訳ではありませんが、少ないのは確かです。…その、此処にいるほとんどの者達の先祖は人族に住居を追い出されて此処に流れ着いたので…未だに恨んでいる人さえいます。明らかに人族であるラテさんとそれに近い匂いのする…えっと何とお呼びすれば良いのでしょう??」
「ハルトでもドールでもお好きにどうぞ」
「…で、では…ドール様と。お二人には近づくことは想像ないでしょう」
今更ながらの確認に彼女らしさを感じてリーンはフッと小さく鼻を鳴らす。途端に顔を赤らめたリブリーを見てラテも私も今はドール様とお呼びしますとフォローした。
このアルエルムの地に元々根付いていたのはドワーフ族だった。人族達に国や住むところを追われた亜人達は安息の血を求めて同じ亜人であるドワーフを頼り、ドワーフ達も流れ着いた彼らを受け入れた。
ドワーフ達は彼らに島を与えて、彼らが得意とする物を作らせて共有し、その橋渡しをする事で共存してきた。職人気質で義理堅いドワーフらしい受け入れ方だ。
「それで…貴方は我々と一緒にして大丈夫なのですか?」
「わ、私は…母が人族ですし…家が家なので何か言われるなんてことはあまりありません」
彼女の家はそれだけ周りから一目置かれているという事だろう。亜人の国と言えども人族と同じく階級と言うものは存在する。階級の付け方はやはり種族毎に違うので、強さだったり、年功序列だったりで決められる。
そんな中でもやはり恩人であるドワーフ族を王とし、それぞれの種族毎にその島を収める領主達がいて、一応お互いの階級が分かるように爵位を「公」「伯」「士」の三つで呼び分けている。
彼女の家は貴族ではないものの、その類稀なる能力故に公家に庇護される身である。出来るのは少し高い顔ができる程度だが、能力でかなり儲けているのもあり、平民達からは一目置かれるか、遠巻きにされるかのどちらかだ。
「貴方が望むのなら私が貴方と貴方のお母様を庇護することも出来ます」
リーンがここに来たのは、ヴェルスダルムから一番遠く、レスターやイアン達に居場所が知られてもここまで来るのにそこそこの時間がかかるからと言うのと、やらないと行けない事があるからだ。
勿論、リブリーの勧誘もその一つでディアブロと対抗する為には彼女の能力は不可欠である。
「…それで私は何をすれば良いのでしょう?」
「それはまだ分かりません」
「…え?」
驚いた顔を素直に見せる彼女が可愛らしくてリーンはフフフ、と声を出して笑う。
正直なところ、ラテが現れてからリーンの中で不安な気持ちが拭え切れていないのが現状だ。
初めは兎に角遠ざけて、それなりの距離感を保ち、あくまで貴族と平民の上下関係を上手く維持する事で、自身に深入りしてくることを拒んでいた。
だから、頑なに表には出ないよう行動し、全ての功績から自身を遠ざけて、目立たないように心がけた。
そうする事によって自分を守っていたのだ。
だが、ダーナロへ赴いてからほんの少し家族と言うものを思い出した。前世では最後まで手にすることがなかったそれを眩しく感じていたのは間違いない。
そして、沢山の人々と関わっていく中で、リーンの中で小さな感情が動き始めていた。
皆んなから受ける見返りを求めない優しさに暖かさを感じる反面、それらを失うことへのどうしようもない不安が押し寄せた。
リーンは此方の世界に来てからと言うもの、兎に角何よりも周りの人達を大切にしてきた。
だからそれからの行動はかなり慎重だった。ラテの力を借りて誰も失わない未来を選択し続けた。例えそれが目的から外れ、世界の後退を意味していても、彼ら以外の人々が多少犠牲になろうとも彼らの安全を優先した。
それでも…沢山のものを犠牲にしても失いかけた。
目の前で意識のないレスター、怪我を負っているイアン、荒れ果てた城、傷付いた兵士達、レオンに支えられているエリザベス、ロイドの涙。
リーンは自身の無力さと世界の無情さに絶望したのだ。
そして、彼らから離れる事に決めた。正直言うとディアブロと対峙するのなら自分一人でも十分すぎる。ただ厄介なのが神導十家《インビシブル》を使いこなすシュトラードと言う男の存在。
神示でも彼はディアブロ以上に要注意人物であるとかなり強い印象を受け取った。姿が見えなくなると言うだけでも厄介だが、あの悪魔を倒したリヒトを超えるほどの剣術とレスターを超えるほどの知性、そしてイアンを超えるほどの凶暴性を兼ね備えた人物。
流石のリーンもこの二人を一人で相手取るのはかなり骨が折れるし、最悪の場合世界の存続が危ぶまれる事態になる。
だから、ディアブロと一対一で対峙出来る様に考えた結果がコロンとリブリーの能力を使う事だった。彼女らの命を軽く見ている訳ではない。ただ、二人なら怪我をする可能性を極めて低くすることが可能で、確実にシュトラードを足止めする事が出来ると神示も認めたのだ。
「何をするかはこれからです。その前にやらねばならない事が沢山ありますから」
「でも、私は貴方に差し出せるものが何もありません」
「貴方に頼むお仕事は怪我を伴う可能性のあるとても危険なものです。それに付き合って貰うのですから、それ以上は何も求めません」
リブリーの死をも覚悟するような真剣な表情を見てリーンは小さく微笑む。決してそこまでの危険はないと伝えるように。
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