神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第四章

駆け引き

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 久しぶりの一人。
 桃源郷にいる間もレスターが常に側にいたからか、妙に肌寒く感じる。自分から元の部屋に、と願ったのにも関わらず、やっぱりリヒトの部屋に…と言うのはリーンにはとても勇気のいる事だった。

(こんなに寂しがり屋だったけ?)

 そんな事を思いながらベッドに倒れ込んだリーンは枕に顔をうずめて眠ろうと目を閉じる。

 今考えれば、母が亡くなって自分が死ぬまでの数週間と初めてノーナの森に降り立った数時間、それから皆んなから逃げ出してエルフの里があるエンダに向かった数日間しか一人にはなっていなかったのだと今更ながらに気がつく。
 今だって気づいてないとでも思っているのか、部屋の外にはジャンが立っている。それは宿屋に泊まっていた時も同じだったか。
 
ーーーお前が願ったからそのようになっている

(私が願った…?)

ーーー1人になりたくないとそう言ったそうだな

(…言った覚えはないのだけれど…)

 ふと、自身の死ぬ間際の事を思い返してみる。
 
 母からの“1人でもしっかり生きなさい”と最後の言葉を貰って数日。慌ただしい葬儀が終わって、本当に1人になってしまったのだと実感した。
 何もかもを取り上げられて信じてもいない神様を恨んで、まるで枯れる事を知らないかように溢れ出してくる涙を拭く事もしなかった。
 喪が明けて出社すると同僚達が気を遣った言葉をかけてくれていたが、全く耳には入って来なかった。何もかもから逃げるように、実感してしまうのが嫌で母との思い出のある家に帰りたくなくて、以前よりも更に仕事に打ち込んで、狂っていく毎日。

「桜田さん…大丈夫ですか…?」

「大丈夫です。他に仕事はありますか?」

「…桜田さん仕事早いし、進んで仕事してくれるのは凄く助かってるんだけど、無理はしないでね?」

「今まで無理言って母の病院に行かせて貰ってましたからこれくらいは大丈夫です」

「…そう」

 そして、その日残業をして深夜に帰ってきた。
 
「今日、金曜日だったのか」

 楽しそうに肩を組んで歩いている人、仲良く手を繋いで歩いているカップル、もう一軒行くぞー!と騒いでいる大学生グループを背景のように眺めて家路に着く。
 ここまで疲れていたら、直ぐに寝れるだろうと服を脱ぎ散らかして…。

(それが最後か…)

ーーー思い出したか

(何で今まで思い出さなかったのか…)

ーーー無理矢理 記憶を押しやっていたのはお前だ

(…願っちゃダメだと…)

 願ってはいけないと思ってた。無くしたくないものほど、私の手からどんどんこぼれ落ちていったから。そうやって辛くなるからなら一層もう、誰とも関わらない方が傷付かないとそう思っていた。

ーーーお前の元いた世界に“人は1人では生けていけない”と言う言葉があるそうだな

(…)

ーーー願い通りだろ

(あれは…願ってません…少し考えてただけで…)

ーーー神にはその者が一番強く願った思いしか届かん

(一番強く願った…って…。母を失いたくない、と言うことよりも1人になりたくないという思いの方が強かった…?)

ーーー人の生き死にに神は関われんと言っただろ

 その答えに少し安心しながらも母の死と同等レベルで“1人になりたくない”と願った自分にどれだけ親不孝ものか、と落胆する。

(私の方が限界みたい…)

 リーンはゆっくりとベッドから這い出て、知ってしまった1人の寒さを埋めるために枕を抱きしめて、ドアノブに手をかける。

「…リーン様、何かございましたか?」

「…その…」

「久しぶりに宜しいですか?」

「………はい」

 頑張ってやっと絞り出したような声を聞いて、小さくクスリと笑ったジャンは嬉しそうにリーンを抱き抱える。

「リーン様の負けですね」

「…ジャンもリヒト様の仲間ですか」

「それはそうですよ。私もリーン様にずっとここにいて貰いたいですから、味方にもなります」

 何もかもリヒトの思い通りだ。
 このままリヒトの部屋に入ってしまったらもう後戻りは出来ない。

「……ジャン、お前…」

 ジャンがリヒトの部屋の扉をノックしようと拳を軽く握る。しかし、ノックする前に扉が開いて中から鬼のような形相のリヒトが現れる。

「…ごめんなさい」

「リーン様!!!ち、違うんです!!!さっき揶揄われて…」

 多分、リヒトはリーンが来るのを待っていてリーンが来たのだと嬉しそうにノックの音に反応したら、と言うオチだろうか。
 リヒトはこんな古典的な手に引っ掛かるような人じゃないと思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。
 だから、今日は何故か素直になれた。

「どうして今日はわざと私を避けたのですか?」

「…今みたいに素直な言葉が欲しかったからです」

「もうしないと言って下さったと思ってたのに嘘だったのですね」

「嘘だなんて!私は…私だって離れるのが辛いんです。ずっと一緒にいたいのです。帰って欲しくないって叫び出したくなるほどに辛い…」

「私にはやらなければならない事があります。それはもちろん、リヒト様達の幸せの為でもあります」

 そう、彼らがより良い生活を何ものにも脅かされる事なく末長く送れるように。

「…貴方がいないのに幸せになれる訳がありません」

「…」

 不意打ちを食らったリーンは返す言葉が見つからず、口を固く閉ざす。
 試されている。覚悟してここに来たのかを。

「私は貴方がお爺さんになってもこのままです」

「はい、私がヨボヨボになったらお嫌いになられますか?」

「…わ、私は貴方とは違う時間を生きているのです」

「共に歩けなくて申し訳ありません」

「……私だって辛いんです」

「私は我儘ですから、レスターとは違います。私といた事を後悔するくらい貴方を幸せにしたい」

 どうしたら良いのだろう。
 こんな告白から誰が逃げられると言うのだろうか。
 逃げられないと分かっていたから逃げてきたと言うのに。

「後悔したくないんです…分かってください!」

「逃げれないと分かっててここに来たくせにまだ抵抗されますか?」

 顔を見ていられない。
 わざとらしかったかも知れないが、顔を背けてリヒトを視界から追いやる。

「…くせにって、言葉使い悪くなってませんか?」

「手段は選んでられないと分からましたから。強引なくらいじゃなきゃ、素直になって貰えませんから」

「そんな事言われて素直になる訳が…」

「フッ…」

 リヒトは最も簡単にリーンをジャンの腕の中からリーンを奪い取ると、ジャンを足蹴にして開いたままだった扉をその背で閉める。

「リーン様が勝手にして良いと仰ったのに」

「…た、確かに言いましたが、今は関係ないです」

「いいえ。これは最後の手段でした。私が今日どれだけ我慢していたことか。我慢したご褒美にこれくらいは許して下さいね」

 答えになっていない答えをさも、答えのように呟いて、強引にリーンの額に唇を落とす。

「それはリヒト様が勝手にやっていたのでしょう!本当なら私が嘘ついたお詫びに…」

「成程、私としたことが…」

「あ、いや…その、これは言葉のアヤで…」

「嘘をついてしまい申し訳ありませんでした。では、リーン様。お詫びに何をお求めに…?」

 そんな意地悪そうな微笑みすら好きだ。
 ずっと一緒に居たい。失いたくない。大好きだ。

「まだ素直になれませんか?」

「…」

「では、こんなのはどうでしょうか?…私の事好きですか?」

「…………き」

「…リーン様?」

「…大好き!!!」

「大がついてましたか!」

 恥ずかしいだけじゃない。ドクドクと大きく脈打つ心臓が痛い。全身が熱に侵されたかのように熱くて、顔を上げられない。

「私もリーン様の事が大好きです」

「…幼女にそんな事言うなんて…」

「変態ですか?」

「…変態です」

「んー、それは困りました。どのお姿であろうとこの気持ちは変わりませんが、少しご協力頂かないと捕まってしまいますよね」

 本気のレスポンスが帰ってきてポカンと口を開ける。

「執務中、美しいお姿を眺めるのは幸せにでしたが、来た者達が仕事に集中してくれないのは困りましたし、レストランでは下品な視線が多くて色んな衝動を抑えるのに苦労しました」

「執務中は子供の姿でいます…」

「でも、手を繋いでデート出来たのはとても幸せでした」

「…その時だけ、変わりましょうか…?」

「それなら湯浴みの時ですが、アポロレイドール様かコートバルサドール様だったらお背中を流せるかと…」

「それはまだ早い…と思います…」

「そうですか、残念です」

 本当に残念そうに肩を落としたリヒトはそっと優しくベッドへリーンを下ろす。

「あ、夜はこのままで。私も男ですから」

 妖艶な微笑みを向けたリヒトにリーンは全力で頭を縦に動かした。






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