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もどった所は病院だった。前に一度、お世話になったことがある。脳出血でまた世話になるところだった。と言うよりも、死んだこと以外なに事もなく(じっさい三十分間ほど死んでいたのである)無事にすんで良かったのである。死ぬこと以外なら、と言えるならばの話であるが。
いまはICUにおくられ、輸血と点滴がつながっている。挿管もされていて、なんだか痛々しかった。
ただ眠っている真一がひとり、起きている真一がもう一人、そこにいるだけである。肉体をもったベッドの痛々しい真一と、幽体をもった変幻自在の真一がいる。
「さて、どうしたもんだろう!」
戻ってみれば、真一は逆にどうすればいいのか分からなくなった。肉体とのコンタクトが難しい。肉体と幽体。頭と腹部にそれぞれ二本のシルバー・コードがくっついている。この二本が伸びたり縮んだり、切れることなしに存在している。
「さて、さて、一体どうしたらいいんだ?」
腕組みをした真一が困って振り向くと、倫子がそこにいた。何事も急なのが常である。
「シルバー・コードは自分自身を無にしていくのが大事よ!」
相変わらず美しい?倫子がそこにいた。
「あっ、リンさん! そこに居たんですね!」
「ごめんなさい、真ちゃんお待たせ! え~と、真一くんよりも真ちゃんのほうが可愛いので、こっちにしておくわネ!」
真一は年上であるにもかかわらず、結局は青少年風に呼ばれて苦笑した。倫子女史は三十代半ばでも、とにかく人格者であるのには間違いはなかったのである。
「やっとこっちに戻って来れたわね。どう、面白かった、それとも退屈だった!」
「そうですねぇ? 桔梗の妖精やコスモスの妖精たちは、実に小さくて可愛かったです。とくに桔梗の精の子供の歌声は、素晴らしかった。魂が震えました。もう二度と聞けないでしょう!」
「そう、良かったわね。私も本当に良かったわ!」
「それと図書館でアカシック・レコードに出会えたこと。これも良くも悪くもヤッパリ良かったです!」
「良かった! 真ちゃんがそこまで分かってくれて。アカシック・レコードってわかる人にしか分からないからね。ありがとうと言わせてもらうわネ!」
もう直ぐ終わりがくる。そんな気がした。長いようで短かった。また、短いようで長かったのも事実だ。スペイン人女医のトンチンカンもなぜか懐かしい。この人も倫子女史に、どこか似ているような気がする。
「最後にえ~と、名前だけ三人、覚えておいて欲しいんだけど、良いかしら?」
「はあ、構いませんが………」
「もちろん、黙ってても解るのには違いないんだけど、肉体として目を覚ましてからの話ネ」
「はい!………どうぞ!」
「いい、まずは女医の大谷先生。それから看護師の御子柴さん。最後に准看護師の西山さん、この三人よ!」
「わかりました。三人ですね!」
「さいしょに医者の大谷先生。つぎに看護師の御子柴さん。そして准看護師の西山さん。西山さんなんて輸血用の血液パックをぶちまけるなんて良くやるから、忘れることもないわネ!」
「よみがえってもとに戻ったら、高次脳機能障害で阿呆になってた、と言うんじゃないんですか!」
「だいじょうぶ、大丈夫。信じる者は救われる! え~と、向こうへ帰ったら面白いことが待ってるからネ」
「面白いことってなんですか!」
「ないしょ、内緒!」
「ん~!」
「ごめんなさいネ!」
「え~い、まあ、いいや!当たってって砕けろ、です!」
倫子女史の集中度が変わってくる。
「いい、意識の集中よ!」
「カエルもミミズもご免!」
「!!!!!!!!」
何もかも消し飛んだ。すべてが消し炭色に、ブラックアウトした。
いまはICUにおくられ、輸血と点滴がつながっている。挿管もされていて、なんだか痛々しかった。
ただ眠っている真一がひとり、起きている真一がもう一人、そこにいるだけである。肉体をもったベッドの痛々しい真一と、幽体をもった変幻自在の真一がいる。
「さて、どうしたもんだろう!」
戻ってみれば、真一は逆にどうすればいいのか分からなくなった。肉体とのコンタクトが難しい。肉体と幽体。頭と腹部にそれぞれ二本のシルバー・コードがくっついている。この二本が伸びたり縮んだり、切れることなしに存在している。
「さて、さて、一体どうしたらいいんだ?」
腕組みをした真一が困って振り向くと、倫子がそこにいた。何事も急なのが常である。
「シルバー・コードは自分自身を無にしていくのが大事よ!」
相変わらず美しい?倫子がそこにいた。
「あっ、リンさん! そこに居たんですね!」
「ごめんなさい、真ちゃんお待たせ! え~と、真一くんよりも真ちゃんのほうが可愛いので、こっちにしておくわネ!」
真一は年上であるにもかかわらず、結局は青少年風に呼ばれて苦笑した。倫子女史は三十代半ばでも、とにかく人格者であるのには間違いはなかったのである。
「やっとこっちに戻って来れたわね。どう、面白かった、それとも退屈だった!」
「そうですねぇ? 桔梗の妖精やコスモスの妖精たちは、実に小さくて可愛かったです。とくに桔梗の精の子供の歌声は、素晴らしかった。魂が震えました。もう二度と聞けないでしょう!」
「そう、良かったわね。私も本当に良かったわ!」
「それと図書館でアカシック・レコードに出会えたこと。これも良くも悪くもヤッパリ良かったです!」
「良かった! 真ちゃんがそこまで分かってくれて。アカシック・レコードってわかる人にしか分からないからね。ありがとうと言わせてもらうわネ!」
もう直ぐ終わりがくる。そんな気がした。長いようで短かった。また、短いようで長かったのも事実だ。スペイン人女医のトンチンカンもなぜか懐かしい。この人も倫子女史に、どこか似ているような気がする。
「最後にえ~と、名前だけ三人、覚えておいて欲しいんだけど、良いかしら?」
「はあ、構いませんが………」
「もちろん、黙ってても解るのには違いないんだけど、肉体として目を覚ましてからの話ネ」
「はい!………どうぞ!」
「いい、まずは女医の大谷先生。それから看護師の御子柴さん。最後に准看護師の西山さん、この三人よ!」
「わかりました。三人ですね!」
「さいしょに医者の大谷先生。つぎに看護師の御子柴さん。そして准看護師の西山さん。西山さんなんて輸血用の血液パックをぶちまけるなんて良くやるから、忘れることもないわネ!」
「よみがえってもとに戻ったら、高次脳機能障害で阿呆になってた、と言うんじゃないんですか!」
「だいじょうぶ、大丈夫。信じる者は救われる! え~と、向こうへ帰ったら面白いことが待ってるからネ」
「面白いことってなんですか!」
「ないしょ、内緒!」
「ん~!」
「ごめんなさいネ!」
「え~い、まあ、いいや!当たってって砕けろ、です!」
倫子女史の集中度が変わってくる。
「いい、意識の集中よ!」
「カエルもミミズもご免!」
「!!!!!!!!」
何もかも消し飛んだ。すべてが消し炭色に、ブラックアウトした。
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