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番外編
【拍手お礼③】巡る時の中で-2
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少女たちに人気の物語のように、ものすごくカッコいい人が突然目の前に現れた、なんてロマンチックな事ではない。
ただ声の主と思しき男の人が思ったよりも近くに立っていた事と、リリーナが知るどんな人よりも頭が高い位置にあった事に、少し驚いただけで──
「……あれ?」
日に焼けた精悍な顔立ちを見た瞬間に、リリーナの胸の奥でまた何かがぱちんと弾けて、何故か胸がぎゅうっと苦しくなって、そして瞳からぽろりと、涙が零れた。
「え? あれ??」
やだ、何でだろう、ごめんなさい、と涙を拭っていたリリーナは、目の前のその人からむずっと腕を掴まれて、またひゃっと悲鳴を上げた。
「相変わらず、すぐ泣く」
ぼそりと呟かれた言葉に、え? と返して、けれどそのまま無言でズンズンと門扉に向かって歩いていくその人に、リリーナは混乱したままついて行く。
腕を掴まれているからついて行くしかなかった、という方が正しいのかもしれない。
その人はあっさりと門扉の鍵を開けて、屋敷の敷地内に足を踏み入れた。
「あ、あの……今、改装中って………」
「あぁ。だけど今日は作業が休みだから、問題ない」
その人がリリーナの腕から手を離して門扉にまた鍵をかけ直している間、リリーナは止まってくれずにぽろぽろと零れ続けている涙を必死で拭っていた。
けれどちっとも止まる気配のない涙に、ごしごしと擦る手に力を込めていたリリーナのその手が、大きくて温かいものに包まれた。
「あんまり擦るな」
「でも、あの………」
ゆっくりと、その人の大きな手がリリーナの頬に添えられて、そっと目元を拭われる。
心が、震えた。
嬉しい
また会えた
もっと触れて欲しい
貴方に、触れたい──
ふと持ち上がったリリーナの手に、その人は自然と顔を寄せる。
そぉっとその人の頬に触れた瞬間、リリーナは全身に甘い痺れが走ったような気がした。
ぴくんっと小さく跳ねたリリーナの指先に僅かに口端を上げたその人は、姿勢を直してリリーナの手を取ると、こっちだと歩き始める。
「少し変わってしまったが──まぁ、気に入らなければ戻せば良い」
そんな事を言われて首を傾げようとした時、リリーナは見えた光景にあっと声を上げた。
ぱちん、とまた胸の奥で何かが弾けた。
思わず走り出したリリーナの手をその人がすぐに離してくれたから、リリーナはそのまま走っていく。
ジャスミンではなくなってしまったのね
またそんな風に思って、庭園の入り口──庭園へと誘う為の最初のアーチを見上げる。
残念な気持ちを抱えたまま、リリーナはアーチを通り抜けて庭園へと足を踏み入れた。
色々な花が植えられている賑やかな花壇の間を抜けて、小さな子供が遊べるくらいの、低い庭木で作られたほんの小さな迷路の先に壁のように配されている背の高い木々の前で、一度足を止めた。
深呼吸をしてからゆっくりと一歩を踏み出して、木の間に作られている薔薇のアーチを通り抜ける。
さぁっと風が駆け抜けて、リリーナの髪を舞い上げていった。
ぱちん、ぱちん、と、炭酸水の小さな気泡のように、胸の奥で次々と弾けていく。
「あぁ──……」
リリーナの口から吐息のような声が漏れる。
アーチの先にあった光景に、
満開の"フェリーナ"に、
リリーナの瞳からまた、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
これが見たかったの
あなたと一緒に、
ラザロが作ってくれた、私たちの薔薇を──
「初めてその目で見た、感想は?」
「綺麗、です……とても……。この庭で、見たかったんです。フェリクス様と、私の──……?」
リリーナは、ふと口を押える。
今、わたし、何を言ったの?
さっきからずっと感じていた心の声──まるで自分ではない誰かが自分の中にいるような感覚を、リリーナはようやく変だ、と思った。
どうして、初めて来たこの町の事を知っているの?
どうして、初めて来たこのお屋敷の庭を知っているの?
どうして、この薔薇を作った人の名を知っているの?
この庭で薔薇を、
”フェリーナ”を 見たがっていたのは、誰──?
次々と湧いてきた疑問に、リリーナはふらりと一歩、後退る。
とん、と背中が硬いものにぶつかって、そして途端、ふわりと温かいもので包み込まれた。
「やっと、見つけた──リィナ」
ぱちん! と、胸の奥で大きく弾けた。
自分を包み込んでいる"温かいもの"がさっきの男の人で、その人に抱き締められているのだと理解したリリーナの耳元で絞り出す様に囁かれた言葉に、リリーナの身体をまた甘い痺れが駆け抜ける。
「……ちがい、ます……わたしは、リリーナで……」
「あぁ──悪い、リリーナ……。呼び間違えたら、すまない」
「親しい人は、リリィって……」
「リリィ……か。じゃあ今度は、この庭に百合も植えるか」
きゅっと抱きしめている腕に力が込められて、リリーナは息を飲む。
「あ、あの……貴方、は………」
「あぁ」
そうだなと呟きが落ちて、そして背中からするりと温もりが離れる。
それを少し寂しく思った時にはくるりと身体の向きを変えられていて、リリーナはその男の人と向き合っていた。
「騎士団所属で、今はこの領地に置かれている鍛錬所で指南役を任されている。フェルディナント・ノディエだ」
「フェルディナント、さま……」
「"さま"は要らない」
そっと唇に指をあてられて、愛おしげに見つめられて、リリーナはまた湧き上がってきた感情に飲まれそうになって、その感情のままに目の前の見知らぬ──少なくともリリーナは初対面のはずの──その男の人に縋り付きそうになる自分を、必死に抑える。
「……あの、おかしい女だと、思わないでくれますか?」
思われるわけがないと、どこかで分かっている。
けれど、リリーナは不安になってブラウスの胸元をきゅっと握った。
「内容によるな」
面白そうに口端を上げたその人──フェルディナントを、リリーナはそっと見上げる。
「わたし、ずっとずっと前から……この町には今日初めて来たのに、この町を、今初めて貴方に会ったのに、貴方を──知っている気がするんです……貴方もわたしを、知っているの……?」
指先が白くなるくらいにブラウスを握りしめているリリーナの手を、フェルディナントはゆっくりとブラウスから離させると、その手をゆるりと握る。
「知ってる。ずっと……探してた」
「ずっと……?」
「そう。リリーナが生まれる前から──生まれるよりも、ずっと前から……ただ一人を、お前を、探していた」
握られた手が持ち上げられる。
「リリーナよりも、おかしい男だ」
指先に唇を寄せられて、リリーナの身体が震えた。
「貴方が探していたのは……わたし………?」
フェルディナントは答えずに、小さく笑う。
「リリーナは、覚えているか?」
そんな事を聞かれて、リリーナは小さく首を振った。
この人が、何を言っているのか分からない
なのに心が──自分の中の誰かが、叫んでいる
「おぼえて……いません………分からない………だけど………」
また零れ始めた涙を、手を握られているのとは逆の手でそっと拭われる。
「だけど、『知ってる』の………温かくて愛しくて、切なくて哀しくて………わたしは、そんな誰かを……きっと貴方を……ずっと前から、待ってた……」
「お前は、覚えているはずが、ないんだけどな」
そんな呟きとともに、強く腕を引かれて、抱き締められる。
リリーナは途端に胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるみたいに痛くなって、全身溶かされるみたいに熱くなって、
そして狂おしいほどの愛しさを覚えて、もう抗う事が出来ずに、縋りつくようにフェルディナントの背に腕を回した。
「リィナ────リリーナ……」
「フェルディナントさま………ふぇる、さま………」
息が止まってしまいそうなくらい強く抱き締められて、抱き締め返して、
そして二人は自然と顔を寄せる。
リリーナは一度だけ付き合った、二月で終わってしまった彼とは、重ねるだけのキスしか経験した事がなかった。
ドキドキはしたけれど、それが良いものに思えなくて、それ以上をやんわりと拒んでしまっていた。
二月で振られたのはその辺りもあっての事だろう。
なのに今、フェルディナントから与えられるキスを当たり前のように受け入れている。
啄む様な軽いキスを繰り返すリズムも、重ねる角度を変えるタイミングも、絡められる舌の熱さも、一つ一つを思い出させるように繰り返されるそれらを、陶然と受け取めている。
「ふっ………ん………」
吐息と、飲み込み切れなかった唾液を口端から零れさせたリリーナの頬を包んで、フェルディナントが笑う。
「そんな顔すんな、馬鹿……」
「ら、て……ふぇるさま……」
「さまは要らない、と言ったはずだが」
「ふぇるさまは、ふぇるさま、です……ね、ふぇるさま……もっと……」
とろりと微笑んだリリーナに、フェルディナントはくしゃりと自身の前髪を掻き上げる。
「何十年ぶりで、いきなり外でってのは……まずいよなぁ?」
唸るフェルディナントを笑うように風がくるりと吹き抜けた。
その風に“フェリーナ”の幾らかの花びらと香りがふわりと舞い上がって、そして二人を祝うように”フェリーナ”がさわさわと唄った──
~ Fin. ~
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
お読み頂きましてありがとうございました!
この後アオ〇ンに至ったのかはご想像にお任せしますが、何十年ぶり(と言ってるけど多分100年くらい)に加えてリリーナさんは(また)処女なので、フェルディナントさんが耐えられた事を祈るのみです。
もうこの二人を書くことはないと思うので、ついでに三分で考えた設定をぶちまけておきます。
少しは補完になると良いのですが…。
・フェルディナントは元フェリクスだけど、フェルディナントとして歩んだ人生もあるのでちょっぴり柔らかくなってます。
細マッチョなイメージ。歳は25歳。
・現ヴァルデマン伯爵が庭(薔薇)だけ残して旧伯爵邸を取り壊してここにも何か施設を作ろうとしてたので、
フェルディナントが庭公開を条件に屋敷を買い取ってしまいました。
・リリーナのママさんはリアラさんではありませんが、関係者のつもりです。
ヴァルデマン伯爵領を訪れて記憶の鍵が開いたらしく、結婚後に当時の事を夢で見るようになった。
何となく転生者の自覚はある感じ。元とは性格も容姿も全然違います。パパさんは完全に無関係。
挨拶に来たフェルディナントと話して「お前か……」て言われるはず。
・フェリクスが全部覚えてて、リィナが覚えてないのは、神様的なナニかさんからの罰絡み。
本当はフェリクスさんは転生の輪から外されるはずだったけど……というような厨二的な感じ。詳細は細かすぎてアレなので割愛。
・この二人の前に一回転生してるんだけど、そこでは会えなかった。なのでフェリクスはしょっぱなで割と絶望してる。
そのせいでフェルディナントはややヤンデレ。閉じ込めて出さない系。
だけどまだそこまで酷くはないので、リリーナ的には心配性とか過保護で済むレベル。
というような感じでした。お粗末さまでございました!
ただ声の主と思しき男の人が思ったよりも近くに立っていた事と、リリーナが知るどんな人よりも頭が高い位置にあった事に、少し驚いただけで──
「……あれ?」
日に焼けた精悍な顔立ちを見た瞬間に、リリーナの胸の奥でまた何かがぱちんと弾けて、何故か胸がぎゅうっと苦しくなって、そして瞳からぽろりと、涙が零れた。
「え? あれ??」
やだ、何でだろう、ごめんなさい、と涙を拭っていたリリーナは、目の前のその人からむずっと腕を掴まれて、またひゃっと悲鳴を上げた。
「相変わらず、すぐ泣く」
ぼそりと呟かれた言葉に、え? と返して、けれどそのまま無言でズンズンと門扉に向かって歩いていくその人に、リリーナは混乱したままついて行く。
腕を掴まれているからついて行くしかなかった、という方が正しいのかもしれない。
その人はあっさりと門扉の鍵を開けて、屋敷の敷地内に足を踏み入れた。
「あ、あの……今、改装中って………」
「あぁ。だけど今日は作業が休みだから、問題ない」
その人がリリーナの腕から手を離して門扉にまた鍵をかけ直している間、リリーナは止まってくれずにぽろぽろと零れ続けている涙を必死で拭っていた。
けれどちっとも止まる気配のない涙に、ごしごしと擦る手に力を込めていたリリーナのその手が、大きくて温かいものに包まれた。
「あんまり擦るな」
「でも、あの………」
ゆっくりと、その人の大きな手がリリーナの頬に添えられて、そっと目元を拭われる。
心が、震えた。
嬉しい
また会えた
もっと触れて欲しい
貴方に、触れたい──
ふと持ち上がったリリーナの手に、その人は自然と顔を寄せる。
そぉっとその人の頬に触れた瞬間、リリーナは全身に甘い痺れが走ったような気がした。
ぴくんっと小さく跳ねたリリーナの指先に僅かに口端を上げたその人は、姿勢を直してリリーナの手を取ると、こっちだと歩き始める。
「少し変わってしまったが──まぁ、気に入らなければ戻せば良い」
そんな事を言われて首を傾げようとした時、リリーナは見えた光景にあっと声を上げた。
ぱちん、とまた胸の奥で何かが弾けた。
思わず走り出したリリーナの手をその人がすぐに離してくれたから、リリーナはそのまま走っていく。
ジャスミンではなくなってしまったのね
またそんな風に思って、庭園の入り口──庭園へと誘う為の最初のアーチを見上げる。
残念な気持ちを抱えたまま、リリーナはアーチを通り抜けて庭園へと足を踏み入れた。
色々な花が植えられている賑やかな花壇の間を抜けて、小さな子供が遊べるくらいの、低い庭木で作られたほんの小さな迷路の先に壁のように配されている背の高い木々の前で、一度足を止めた。
深呼吸をしてからゆっくりと一歩を踏み出して、木の間に作られている薔薇のアーチを通り抜ける。
さぁっと風が駆け抜けて、リリーナの髪を舞い上げていった。
ぱちん、ぱちん、と、炭酸水の小さな気泡のように、胸の奥で次々と弾けていく。
「あぁ──……」
リリーナの口から吐息のような声が漏れる。
アーチの先にあった光景に、
満開の"フェリーナ"に、
リリーナの瞳からまた、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
これが見たかったの
あなたと一緒に、
ラザロが作ってくれた、私たちの薔薇を──
「初めてその目で見た、感想は?」
「綺麗、です……とても……。この庭で、見たかったんです。フェリクス様と、私の──……?」
リリーナは、ふと口を押える。
今、わたし、何を言ったの?
さっきからずっと感じていた心の声──まるで自分ではない誰かが自分の中にいるような感覚を、リリーナはようやく変だ、と思った。
どうして、初めて来たこの町の事を知っているの?
どうして、初めて来たこのお屋敷の庭を知っているの?
どうして、この薔薇を作った人の名を知っているの?
この庭で薔薇を、
”フェリーナ”を 見たがっていたのは、誰──?
次々と湧いてきた疑問に、リリーナはふらりと一歩、後退る。
とん、と背中が硬いものにぶつかって、そして途端、ふわりと温かいもので包み込まれた。
「やっと、見つけた──リィナ」
ぱちん! と、胸の奥で大きく弾けた。
自分を包み込んでいる"温かいもの"がさっきの男の人で、その人に抱き締められているのだと理解したリリーナの耳元で絞り出す様に囁かれた言葉に、リリーナの身体をまた甘い痺れが駆け抜ける。
「……ちがい、ます……わたしは、リリーナで……」
「あぁ──悪い、リリーナ……。呼び間違えたら、すまない」
「親しい人は、リリィって……」
「リリィ……か。じゃあ今度は、この庭に百合も植えるか」
きゅっと抱きしめている腕に力が込められて、リリーナは息を飲む。
「あ、あの……貴方、は………」
「あぁ」
そうだなと呟きが落ちて、そして背中からするりと温もりが離れる。
それを少し寂しく思った時にはくるりと身体の向きを変えられていて、リリーナはその男の人と向き合っていた。
「騎士団所属で、今はこの領地に置かれている鍛錬所で指南役を任されている。フェルディナント・ノディエだ」
「フェルディナント、さま……」
「"さま"は要らない」
そっと唇に指をあてられて、愛おしげに見つめられて、リリーナはまた湧き上がってきた感情に飲まれそうになって、その感情のままに目の前の見知らぬ──少なくともリリーナは初対面のはずの──その男の人に縋り付きそうになる自分を、必死に抑える。
「……あの、おかしい女だと、思わないでくれますか?」
思われるわけがないと、どこかで分かっている。
けれど、リリーナは不安になってブラウスの胸元をきゅっと握った。
「内容によるな」
面白そうに口端を上げたその人──フェルディナントを、リリーナはそっと見上げる。
「わたし、ずっとずっと前から……この町には今日初めて来たのに、この町を、今初めて貴方に会ったのに、貴方を──知っている気がするんです……貴方もわたしを、知っているの……?」
指先が白くなるくらいにブラウスを握りしめているリリーナの手を、フェルディナントはゆっくりとブラウスから離させると、その手をゆるりと握る。
「知ってる。ずっと……探してた」
「ずっと……?」
「そう。リリーナが生まれる前から──生まれるよりも、ずっと前から……ただ一人を、お前を、探していた」
握られた手が持ち上げられる。
「リリーナよりも、おかしい男だ」
指先に唇を寄せられて、リリーナの身体が震えた。
「貴方が探していたのは……わたし………?」
フェルディナントは答えずに、小さく笑う。
「リリーナは、覚えているか?」
そんな事を聞かれて、リリーナは小さく首を振った。
この人が、何を言っているのか分からない
なのに心が──自分の中の誰かが、叫んでいる
「おぼえて……いません………分からない………だけど………」
また零れ始めた涙を、手を握られているのとは逆の手でそっと拭われる。
「だけど、『知ってる』の………温かくて愛しくて、切なくて哀しくて………わたしは、そんな誰かを……きっと貴方を……ずっと前から、待ってた……」
「お前は、覚えているはずが、ないんだけどな」
そんな呟きとともに、強く腕を引かれて、抱き締められる。
リリーナは途端に胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるみたいに痛くなって、全身溶かされるみたいに熱くなって、
そして狂おしいほどの愛しさを覚えて、もう抗う事が出来ずに、縋りつくようにフェルディナントの背に腕を回した。
「リィナ────リリーナ……」
「フェルディナントさま………ふぇる、さま………」
息が止まってしまいそうなくらい強く抱き締められて、抱き締め返して、
そして二人は自然と顔を寄せる。
リリーナは一度だけ付き合った、二月で終わってしまった彼とは、重ねるだけのキスしか経験した事がなかった。
ドキドキはしたけれど、それが良いものに思えなくて、それ以上をやんわりと拒んでしまっていた。
二月で振られたのはその辺りもあっての事だろう。
なのに今、フェルディナントから与えられるキスを当たり前のように受け入れている。
啄む様な軽いキスを繰り返すリズムも、重ねる角度を変えるタイミングも、絡められる舌の熱さも、一つ一つを思い出させるように繰り返されるそれらを、陶然と受け取めている。
「ふっ………ん………」
吐息と、飲み込み切れなかった唾液を口端から零れさせたリリーナの頬を包んで、フェルディナントが笑う。
「そんな顔すんな、馬鹿……」
「ら、て……ふぇるさま……」
「さまは要らない、と言ったはずだが」
「ふぇるさまは、ふぇるさま、です……ね、ふぇるさま……もっと……」
とろりと微笑んだリリーナに、フェルディナントはくしゃりと自身の前髪を掻き上げる。
「何十年ぶりで、いきなり外でってのは……まずいよなぁ?」
唸るフェルディナントを笑うように風がくるりと吹き抜けた。
その風に“フェリーナ”の幾らかの花びらと香りがふわりと舞い上がって、そして二人を祝うように”フェリーナ”がさわさわと唄った──
~ Fin. ~
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
お読み頂きましてありがとうございました!
この後アオ〇ンに至ったのかはご想像にお任せしますが、何十年ぶり(と言ってるけど多分100年くらい)に加えてリリーナさんは(また)処女なので、フェルディナントさんが耐えられた事を祈るのみです。
もうこの二人を書くことはないと思うので、ついでに三分で考えた設定をぶちまけておきます。
少しは補完になると良いのですが…。
・フェルディナントは元フェリクスだけど、フェルディナントとして歩んだ人生もあるのでちょっぴり柔らかくなってます。
細マッチョなイメージ。歳は25歳。
・現ヴァルデマン伯爵が庭(薔薇)だけ残して旧伯爵邸を取り壊してここにも何か施設を作ろうとしてたので、
フェルディナントが庭公開を条件に屋敷を買い取ってしまいました。
・リリーナのママさんはリアラさんではありませんが、関係者のつもりです。
ヴァルデマン伯爵領を訪れて記憶の鍵が開いたらしく、結婚後に当時の事を夢で見るようになった。
何となく転生者の自覚はある感じ。元とは性格も容姿も全然違います。パパさんは完全に無関係。
挨拶に来たフェルディナントと話して「お前か……」て言われるはず。
・フェリクスが全部覚えてて、リィナが覚えてないのは、神様的なナニかさんからの罰絡み。
本当はフェリクスさんは転生の輪から外されるはずだったけど……というような厨二的な感じ。詳細は細かすぎてアレなので割愛。
・この二人の前に一回転生してるんだけど、そこでは会えなかった。なのでフェリクスはしょっぱなで割と絶望してる。
そのせいでフェルディナントはややヤンデレ。閉じ込めて出さない系。
だけどまだそこまで酷くはないので、リリーナ的には心配性とか過保護で済むレベル。
というような感じでした。お粗末さまでございました!
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