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「───あっ!」
バートと同じ場所にずぶりと牙を突き立てられて、ロゼリアの身体が跳ねる。
「ふっ……あ………」
じゅる、と響いた水音と、それと同時に甘く痺れて蕩けそうになっていく身体に、ロゼリアは必死でレイヴィスの腕を掴む。
「レ…ヴィスさ、ま……からだ……へん……」
痺れるような感覚はどんどん大きくなって、ロゼリアは乱れて荒くなる息を何とか整えようと息を飲み込む。
ずるっと牙が引き抜かれる感覚すら甘い痺れとなって背中を駆け上がっていく。
「んんっ」
「抗うな。そのまま、快楽に身を委ねれば良い」
そう言われて、今まで牙を埋められていた首筋をちゅっと吸われて、ロゼリアはでも、とレイヴィスを見上げる。
「こわい、の。私、どうなるの……?血を全部吸われて、しんじゃうの……?」
瞳を潤ませて震えているロゼリアに、レイヴィスは死なない、と呆れたように息を落とすと、ロゼリアを抱き締める。
「確かに俺たちは血を貰う。だが吸いつくして命を取るなんて事はしないし──そもそも嫁になれと言っただろう。それは、一緒に生きるという事だ」
そうだろ?とレイヴィスに目尻を親指の腹で拭われて、ロゼリアは視線を彷徨わせてから、小さく頷いた。
「血を吸われたから、私もヴァンパイアになっちゃった…の?」
「まだなってない。人間が──ロゼリアがヴァンパイアになるには、確かに血も貰うが、逆にロゼリアにも俺の血を摂取して貰わなければならない」
「私が、レイヴィス様の血を……?」
「様は要らない、と言っただろ。 お互いの血を交ぜて──そうすると、ロゼリアはこちら側になる。今すぐにとは言わないが、いずれは────」
そこで言葉を切ったレイヴィスの髪に、ロゼリアは手を伸ばしてそぉっと撫でてみる。
レイヴィスの髪の手触りはシルヴァの時よりサラサラとしていて──けれどレイヴィスからはシルヴァに抱き着いた時に香って来ていたのと同じ、甘さを含んだ爽やかな香りがしている。
その香りに、甘く痺れたままの身体が、また少しだけ熱を持った気がした。
けれどきちんと聞いておかなければと、ロゼリアは熱を逃がす様に一度息を落とすと、レイヴィスの瞳を見返す。
「私が良い匂いって、どういうこと、ですか…?」
「極まれに、いるんだよ。ヴァンパイアが虜になるような美味い血の持ち主ってのが」
「……私の、血が?」
「とんでもなく良い匂いがする。猫のマタタビと一緒だな──初めて会った時、ロゼリアは怪我をしていただろう?」
「えぇ、転んで、膝を擦りむいて……」
「あの時、俺はお前の血の匂いに誘われたんだ」
「え──?」
その時近くにいたのは本当に偶々だったらしいが、以降ロゼリアの匂いを覚えたレイヴィスは、ロゼリアが屋敷に近づく度に狼に姿を変えて出て来ていたらしい。
ロゼリアはヴァンパイアの方って嗅覚がすごいのね…と感心すると同時に、怪我をした時にやたら舐められたのはそういう事だったのかしらと、妙に納得をした。
「あの時、子犬……あ、子狼の姿だったのは、なぜですか?そのまま、人の姿のまま来てくれたらもっとおしゃべりだって出来たのに……」
「狼になる時は多少姿をいじれるが、元の姿は変えられないからな」
こんな大人の姿より、動物の、しかも子供の方が警戒しないだろ?と言われて、ロゼリアは小さく首を傾げた。
「レイヴィス様の姿なら……大丈夫そうですけど……だって、」
とても綺麗だから……と続けようとして、ロゼリアははっと口を噤むと、慌てて違う質問を口にする。
「あ、あの、ヴァンパイアは、不死だっていうのは本当ですか?」
「まぁ、本当だな。さっきのあいつも今頃はぴんぴんしてるだろうよ──どうでも良いが、普通にしゃべれ」
「普通ですけど……」
「シルヴァの時と同じ口調で、だ」
「で……でも、レイヴィス様とは……」
「レイヴィス」
「う……レイヴィス、とは、初めましてで……」
じろりと睨むような視線を向けられて、ロゼリアは何度か口を開いたり閉じたりして、そして諦めたように一度口を閉じると、今のところ最後になる質問をする。
「え、と。じゃあ血を交ぜたら、私もヴァンパイアになってしまう、の──?」
「そうだな。永遠に俺と共に生きる事になる──嫌か?」
さらりと髪を撫でられて、その綺麗な顔で切なそうな表情なんてされてしまったロゼリアは、うっかり「嫌だなんてとんでもない」と言いそうになって、ぐぐっと踏みとどまる。
「嫌、というか……だって、今日初めて言葉を交わしたのに……。嫌かどうかすら、分かりませ……分からないもの」
「だが、少なくともこうしていても、嫌だとは思っていないのだろう?」
そこでロゼリアは今自分がベッドの上で、とんでもなく綺麗な男性に圧し掛かられている状態だという事実に気付いて──激しく今更なタイミングでぼふんっと顔を真っ赤に染めた。
「だ…だって、レイヴィス様が押したから……!それに、レイヴィス様は…レイヴィスは、シルヴァだし……。そもそも、何だか身体がふわふわして、うまく動けないし……」
「ふわふわするのは、まぁ血を吸うとそうなるからだが──シルヴァとなら、良いのか?」
ロゼリアは獣の方が好きなのか、といたく真面目な顔で何やら齟齬がありそうな事を言われて、ロゼリアはだって、とレイヴィスの髪に手を伸ばす。
「私にとってこの色の持ち主はシルヴァで……ふわふわであったかくて、大好きで──。だから、その、いきなりシルヴァがレイヴィスで、領主様で。しかもヴァンパイアでした。と言われても……」
「ロゼリアの中では俺は犬のままって事か」
ふむと頷いたレイヴィスは、ニヤリと口端を上げる。
「ならば、まずはしっかりと俺を分からせなくてはいけないな」
「……ふぇ?」
++++++++++
「あっ……やぁっ……!」
首筋を、赤い体液をまた啜られて、話してる間に落ち着いてきたように思えていた甘く蕩けるような感覚を引き戻されて、ロゼリアの背が跳ねる。
「やっ…やだ、レイヴィ、ス……っ!」
啜られる度にじんわりとした痺れが頭の真ん中から全身に広がって行って、思考も身体の力も、何もかもが奪われて行く。
レイヴィスの胸を押し返そうとしていた手が、パタリとシーツの上に落ちた。
口付けも、胸を触る手も、そこから撫でる様に滑っていく指も、全てが甘い疼きとなってロゼリアを襲う。
ロゼリアの可愛らしい抵抗がおさまって、羞恥で染まっていた身体が快楽に染まり始めた頃、
レイヴィスはゆっくりとロゼリアの秘烈をなぞって充分に潤っている事を確認すると、つぷりと中に指を挿し入れた。
「あっ…んっ……」
くちゅりと水音が響いて、ロゼリアの口から吐息が零れる。
指を動かす度に中から溢れ出て来る蜜に誘われるように、レイヴィスは指を2本、3本と増やしていく。
「あんっ…やっ……なか、いっぱい……」
「まだいっぱいなんかじゃないだろ」
これからが本番だと、レイヴィスがロゼリアの中で指を遊ばせれば、ロゼリアの口からはただただ甘いだけの声が零れ落ちる。
ヴァンパイアの吸血時には、人間にとって催淫効果のある何かが分泌されるらしい。
『らしい』というのは誰も実際にそうだという事を調べた事がないからで、けれどヴァンパイアたちは自分たちのその行為で人間がどうなるかを『知っている』。
生娘であるロゼリアの反応にも、苦痛を感じさせる色は見えない。
けれどレイヴィスはロゼリアの乱れた前髪をそっと払うと、ロゼリアの耳元で「痛くはないか?」と囁く。
既に結構な時を生きているレイヴィスも今までに何度も女の血を啜り、抱いてきた。
だから痛むはずがない、という事は実体験としても分かっている。
それでもロゼリアに対しては、いつの頃からか何もかも慎重を期すようになってしまっていた。
極上の血を持つ人間だからだろうと、最初は思っていた。
ロゼリアは気付いてはいないが、日課とまではいかないながら、それなりの頻度で村までロゼリアの様子を見に行ったりもしていた。
餌として、逃がすには惜しすぎる子供。だから子狼に変じてまで様子を見ていた大事な餌だ。
けれどそれだけではない何かが、いつの間にかレイヴィスの中で確かに育っていた。
吸血行為は、別に老若男女誰に行っても問題はない。要は血が摂取出来れば良いのだ。
年齢を重ねるとあまり美味くはなくなるので、実際のところよっぽどの枯渇状態でもなければ老人には手を出す物好きはいないが。
そして催淫効果の事を考えると、レイヴィスはやはりそれなりな年齢の女性にしか手を出す気になれなかった。
──中には幼女や同性を好んで狙う者もいるらしいが。
レイヴィスもこれまでにも何度かロゼリアの血を頂いてしまおうかと思った事はある。
それくらいロゼリアは良い匂いで、初めて会った時に口にした僅かな味は、酷く甘美なものだった。
けれど屈託なく笑うロゼリアを前にすると、結局無理矢理襲うような事は出来ずに本物の狼のように"少しずつ成長する”などという面倒な変化までして『シルヴァ』としてロゼリアに会っていた。
ロゼリアが年頃になって来て、さてどうやって『レイヴィス』として近づこうかと考え始めていた矢先、ロゼリアが指先に怪我をして、美味そうな匂いを振りまいて歩いていた。
しかも微かに同族の匂いをさせて──
けれどこの辺りの者ならば格下であろうと、レイヴィスはあの時確かに事態を舐めていたのだ。
まさかあんな風に掻っ攫われるとは思ってもいなかった。
町をあげての収穫祭が近いせいか、領主としての仕事が山積みだったのも悪かった。
恐らくはそのタイミングだからこそ、あの男はロゼリアを連れて行ったのだろう。
ロゼリアが村を離れると知って、身体中の血が怒りで沸騰するかと思う程だった。
更にロゼリアの匂いを追って飛び込んだ先で、男に組み敷かれているロゼリアを見た時にはぶつりと自分の中の何かが切れたのを感じて──思わず少しばかり行き過ぎた制裁を下してしまってロゼリアを怯えさせてしまったのは、反省すべき点かもしれない。
そして湖でロゼリアが「いつものシルヴァだ」と笑んだ瞬間に、レイヴィスは唐突に理解したのだ。
いつの間にかレイヴィスの中でロゼリアの存在がとても大きくなっていたのだという事を。
ただの『極上の餌』ではなく、恐らくはこれが『愛』という感情なのだろう、と。
ロゼリアこそが血を交わして、永遠の伴侶にしたい相手なのだ、と。
バートと同じ場所にずぶりと牙を突き立てられて、ロゼリアの身体が跳ねる。
「ふっ……あ………」
じゅる、と響いた水音と、それと同時に甘く痺れて蕩けそうになっていく身体に、ロゼリアは必死でレイヴィスの腕を掴む。
「レ…ヴィスさ、ま……からだ……へん……」
痺れるような感覚はどんどん大きくなって、ロゼリアは乱れて荒くなる息を何とか整えようと息を飲み込む。
ずるっと牙が引き抜かれる感覚すら甘い痺れとなって背中を駆け上がっていく。
「んんっ」
「抗うな。そのまま、快楽に身を委ねれば良い」
そう言われて、今まで牙を埋められていた首筋をちゅっと吸われて、ロゼリアはでも、とレイヴィスを見上げる。
「こわい、の。私、どうなるの……?血を全部吸われて、しんじゃうの……?」
瞳を潤ませて震えているロゼリアに、レイヴィスは死なない、と呆れたように息を落とすと、ロゼリアを抱き締める。
「確かに俺たちは血を貰う。だが吸いつくして命を取るなんて事はしないし──そもそも嫁になれと言っただろう。それは、一緒に生きるという事だ」
そうだろ?とレイヴィスに目尻を親指の腹で拭われて、ロゼリアは視線を彷徨わせてから、小さく頷いた。
「血を吸われたから、私もヴァンパイアになっちゃった…の?」
「まだなってない。人間が──ロゼリアがヴァンパイアになるには、確かに血も貰うが、逆にロゼリアにも俺の血を摂取して貰わなければならない」
「私が、レイヴィス様の血を……?」
「様は要らない、と言っただろ。 お互いの血を交ぜて──そうすると、ロゼリアはこちら側になる。今すぐにとは言わないが、いずれは────」
そこで言葉を切ったレイヴィスの髪に、ロゼリアは手を伸ばしてそぉっと撫でてみる。
レイヴィスの髪の手触りはシルヴァの時よりサラサラとしていて──けれどレイヴィスからはシルヴァに抱き着いた時に香って来ていたのと同じ、甘さを含んだ爽やかな香りがしている。
その香りに、甘く痺れたままの身体が、また少しだけ熱を持った気がした。
けれどきちんと聞いておかなければと、ロゼリアは熱を逃がす様に一度息を落とすと、レイヴィスの瞳を見返す。
「私が良い匂いって、どういうこと、ですか…?」
「極まれに、いるんだよ。ヴァンパイアが虜になるような美味い血の持ち主ってのが」
「……私の、血が?」
「とんでもなく良い匂いがする。猫のマタタビと一緒だな──初めて会った時、ロゼリアは怪我をしていただろう?」
「えぇ、転んで、膝を擦りむいて……」
「あの時、俺はお前の血の匂いに誘われたんだ」
「え──?」
その時近くにいたのは本当に偶々だったらしいが、以降ロゼリアの匂いを覚えたレイヴィスは、ロゼリアが屋敷に近づく度に狼に姿を変えて出て来ていたらしい。
ロゼリアはヴァンパイアの方って嗅覚がすごいのね…と感心すると同時に、怪我をした時にやたら舐められたのはそういう事だったのかしらと、妙に納得をした。
「あの時、子犬……あ、子狼の姿だったのは、なぜですか?そのまま、人の姿のまま来てくれたらもっとおしゃべりだって出来たのに……」
「狼になる時は多少姿をいじれるが、元の姿は変えられないからな」
こんな大人の姿より、動物の、しかも子供の方が警戒しないだろ?と言われて、ロゼリアは小さく首を傾げた。
「レイヴィス様の姿なら……大丈夫そうですけど……だって、」
とても綺麗だから……と続けようとして、ロゼリアははっと口を噤むと、慌てて違う質問を口にする。
「あ、あの、ヴァンパイアは、不死だっていうのは本当ですか?」
「まぁ、本当だな。さっきのあいつも今頃はぴんぴんしてるだろうよ──どうでも良いが、普通にしゃべれ」
「普通ですけど……」
「シルヴァの時と同じ口調で、だ」
「で……でも、レイヴィス様とは……」
「レイヴィス」
「う……レイヴィス、とは、初めましてで……」
じろりと睨むような視線を向けられて、ロゼリアは何度か口を開いたり閉じたりして、そして諦めたように一度口を閉じると、今のところ最後になる質問をする。
「え、と。じゃあ血を交ぜたら、私もヴァンパイアになってしまう、の──?」
「そうだな。永遠に俺と共に生きる事になる──嫌か?」
さらりと髪を撫でられて、その綺麗な顔で切なそうな表情なんてされてしまったロゼリアは、うっかり「嫌だなんてとんでもない」と言いそうになって、ぐぐっと踏みとどまる。
「嫌、というか……だって、今日初めて言葉を交わしたのに……。嫌かどうかすら、分かりませ……分からないもの」
「だが、少なくともこうしていても、嫌だとは思っていないのだろう?」
そこでロゼリアは今自分がベッドの上で、とんでもなく綺麗な男性に圧し掛かられている状態だという事実に気付いて──激しく今更なタイミングでぼふんっと顔を真っ赤に染めた。
「だ…だって、レイヴィス様が押したから……!それに、レイヴィス様は…レイヴィスは、シルヴァだし……。そもそも、何だか身体がふわふわして、うまく動けないし……」
「ふわふわするのは、まぁ血を吸うとそうなるからだが──シルヴァとなら、良いのか?」
ロゼリアは獣の方が好きなのか、といたく真面目な顔で何やら齟齬がありそうな事を言われて、ロゼリアはだって、とレイヴィスの髪に手を伸ばす。
「私にとってこの色の持ち主はシルヴァで……ふわふわであったかくて、大好きで──。だから、その、いきなりシルヴァがレイヴィスで、領主様で。しかもヴァンパイアでした。と言われても……」
「ロゼリアの中では俺は犬のままって事か」
ふむと頷いたレイヴィスは、ニヤリと口端を上げる。
「ならば、まずはしっかりと俺を分からせなくてはいけないな」
「……ふぇ?」
++++++++++
「あっ……やぁっ……!」
首筋を、赤い体液をまた啜られて、話してる間に落ち着いてきたように思えていた甘く蕩けるような感覚を引き戻されて、ロゼリアの背が跳ねる。
「やっ…やだ、レイヴィ、ス……っ!」
啜られる度にじんわりとした痺れが頭の真ん中から全身に広がって行って、思考も身体の力も、何もかもが奪われて行く。
レイヴィスの胸を押し返そうとしていた手が、パタリとシーツの上に落ちた。
口付けも、胸を触る手も、そこから撫でる様に滑っていく指も、全てが甘い疼きとなってロゼリアを襲う。
ロゼリアの可愛らしい抵抗がおさまって、羞恥で染まっていた身体が快楽に染まり始めた頃、
レイヴィスはゆっくりとロゼリアの秘烈をなぞって充分に潤っている事を確認すると、つぷりと中に指を挿し入れた。
「あっ…んっ……」
くちゅりと水音が響いて、ロゼリアの口から吐息が零れる。
指を動かす度に中から溢れ出て来る蜜に誘われるように、レイヴィスは指を2本、3本と増やしていく。
「あんっ…やっ……なか、いっぱい……」
「まだいっぱいなんかじゃないだろ」
これからが本番だと、レイヴィスがロゼリアの中で指を遊ばせれば、ロゼリアの口からはただただ甘いだけの声が零れ落ちる。
ヴァンパイアの吸血時には、人間にとって催淫効果のある何かが分泌されるらしい。
『らしい』というのは誰も実際にそうだという事を調べた事がないからで、けれどヴァンパイアたちは自分たちのその行為で人間がどうなるかを『知っている』。
生娘であるロゼリアの反応にも、苦痛を感じさせる色は見えない。
けれどレイヴィスはロゼリアの乱れた前髪をそっと払うと、ロゼリアの耳元で「痛くはないか?」と囁く。
既に結構な時を生きているレイヴィスも今までに何度も女の血を啜り、抱いてきた。
だから痛むはずがない、という事は実体験としても分かっている。
それでもロゼリアに対しては、いつの頃からか何もかも慎重を期すようになってしまっていた。
極上の血を持つ人間だからだろうと、最初は思っていた。
ロゼリアは気付いてはいないが、日課とまではいかないながら、それなりの頻度で村までロゼリアの様子を見に行ったりもしていた。
餌として、逃がすには惜しすぎる子供。だから子狼に変じてまで様子を見ていた大事な餌だ。
けれどそれだけではない何かが、いつの間にかレイヴィスの中で確かに育っていた。
吸血行為は、別に老若男女誰に行っても問題はない。要は血が摂取出来れば良いのだ。
年齢を重ねるとあまり美味くはなくなるので、実際のところよっぽどの枯渇状態でもなければ老人には手を出す物好きはいないが。
そして催淫効果の事を考えると、レイヴィスはやはりそれなりな年齢の女性にしか手を出す気になれなかった。
──中には幼女や同性を好んで狙う者もいるらしいが。
レイヴィスもこれまでにも何度かロゼリアの血を頂いてしまおうかと思った事はある。
それくらいロゼリアは良い匂いで、初めて会った時に口にした僅かな味は、酷く甘美なものだった。
けれど屈託なく笑うロゼリアを前にすると、結局無理矢理襲うような事は出来ずに本物の狼のように"少しずつ成長する”などという面倒な変化までして『シルヴァ』としてロゼリアに会っていた。
ロゼリアが年頃になって来て、さてどうやって『レイヴィス』として近づこうかと考え始めていた矢先、ロゼリアが指先に怪我をして、美味そうな匂いを振りまいて歩いていた。
しかも微かに同族の匂いをさせて──
けれどこの辺りの者ならば格下であろうと、レイヴィスはあの時確かに事態を舐めていたのだ。
まさかあんな風に掻っ攫われるとは思ってもいなかった。
町をあげての収穫祭が近いせいか、領主としての仕事が山積みだったのも悪かった。
恐らくはそのタイミングだからこそ、あの男はロゼリアを連れて行ったのだろう。
ロゼリアが村を離れると知って、身体中の血が怒りで沸騰するかと思う程だった。
更にロゼリアの匂いを追って飛び込んだ先で、男に組み敷かれているロゼリアを見た時にはぶつりと自分の中の何かが切れたのを感じて──思わず少しばかり行き過ぎた制裁を下してしまってロゼリアを怯えさせてしまったのは、反省すべき点かもしれない。
そして湖でロゼリアが「いつものシルヴァだ」と笑んだ瞬間に、レイヴィスは唐突に理解したのだ。
いつの間にかレイヴィスの中でロゼリアの存在がとても大きくなっていたのだという事を。
ただの『極上の餌』ではなく、恐らくはこれが『愛』という感情なのだろう、と。
ロゼリアこそが血を交わして、永遠の伴侶にしたい相手なのだ、と。
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