犬だと思って可愛がっていた狼はヴァンパイアだったそうです

桜月みやこ

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06.

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「ん──……」

ふんわりと意識が浮上して、ロゼリアはぱちっと目を開ける。
教会で暮らしていた彼女の朝は早かったし、目覚めも良い方だ。

けれど、今日は何だか部屋がやけに真っ暗で、しかも身体が妙にだるくて重い────

どうしたのかしらと身体を起こそうとしたのにちっとも動けない事に気付いて、ロゼリアはぱちぱちと瞬く。

「ろぜりあ……?」

ふいに頭の上から、どこかぼんやりとした声で名前を呼ばれて、ロゼリアは視線を上げる。
真っ暗だと思っていた部屋は、声の主によって光が遮られていただけで既に明るくなっていたのだと理解した途端、

「──────っ!!」

すぐ傍に、何だかとんでもなく美しい顔があった。
ひぇっと悲鳴を上げそうになって、そしてそこでやっとロゼリアの思考回路がぱちんと繋がる。

「れ……レイヴィス……」
「おはよう、ロゼリア」

まだどこか寝ぼけたような表情で、レイヴィスがふわりと笑う。

どっきんとロゼリアの心臓が飛び跳ねた。

こんな綺麗な顔した人に目の前で微笑まれれば、誰だって心臓の一つや二つ飛んでいくに違いない、と自分に言い訳をしながら、ロゼリアがドキドキとうるさい心臓の辺りを押さえていると、レイヴィスの指に顎を持ち上げられて、ちゅっと啄むようなキスをされた。

「っレイ……ふぇっ!!?」

驚いて身体を離そうとしたロゼリアの、あらぬところがナニかに擦られて、更にぐちゅっと水音まで響いて、ロゼリアの身体が小さく跳ねる。

「えっ?えっ?やだ、なんで……」

涙目でレイヴィスを見上げると、あー…と呟いて、そして意地悪そうにニッと口端を上げた。
レイヴィスはロゼリアの背に腕を回すと、器用にも向かい合って横になっていた体勢からくるんとロゼリアを組み敷く体勢へと変えて、ゆっくりとロゼリアとの距離を埋める。

「やぁっ…!」

ズッと一番奥まで挿り込んできたレイヴィスに、ロゼリアの背が反る。

「もう一回くらいしようと思ってたのに、ロゼリアが寝ちまうから。まだ抜いてなかったし、起きたらすぐ出来るようにそのままにしてた」
「え…え??ずっと?このまま……?」
「そう。だからほら、まだロゼリアの中、俺のがたっぷり残ってるだろ?」
「ひぁっ…!」

レイヴィスの動きに合わせて、ロゼリアの中からぐちゅぐちゅと溢れ出ていく。

「あっ…やぁ……あっ、あんっ」

そのままロゼリアの中を貪り始めたレイヴィスに、ロゼリアはなす術もなく縋りつく。

どうして抜いてくれなかったの、とか、もう一回とか絶対無理だったから、とか、そもそも何で私はこんな状態でぐーすか寝ていられたの、とか、外がとっても明るいみたいだけど一体今は何時なの、とか
レイヴィスにも自分にも言いたい事はたくさんあったはずなのに、
結局朝(多分)からしっかりと、今度は催淫効果なんてものはゼロの状態でとろとろに蕩けさせられて、たっぷりとレイヴィスの白濁を注ぎ込まれて、ロゼリアは再びシーツの海で意識を失う羽目になった。



++++++++++

次に目覚めた時、ロゼリアは広いベッドに1人で眠っていた。
ぐるぐる巻にされていて抜け出すのが少し大変だったけれど、何とか腕を外に出す事に成功する。
腕が自由になればこちらのものだと、ロゼリアは身体を起こそうとして──結局何も出来なかった。

「やだ、なんで………」

呟いたけれど、なんで、なんて答えは決まっている。
涙目でベッドの中でモゾモゾしていると、部屋のドアが開く音がして、そしてレイヴィスが姿を現す。

「ロゼリア、起きてたのか」

大股で近づいてきて、ベッドに上がったレイヴィスに冷えるぞと折角頑張って出した腕をしまわれる。

「……あの、今、何時?」

さっき明るかったはずの外が、何だか薄暗く……どう控え目に見ても夕焼け色に見えて、ロゼリアは恐る恐るレイヴィスに確認をする。

「あぁ、もう夕刻だ。何か食べる物でも持ってこさせよう。食べたいものはあるか?」

あっさり夕刻と言われて、ロゼリアはがくりと肩を落とす。
1日ベッドの中で過ごすなんて、子供の頃に熱を出して以来だ。
ロゼリアのせいではないと言え、今まで規則正しい生活をしていたロゼリアは何だかとても悪い事をしてしまった気分に陥った。

「あんまり食欲はないので……あの、スープとかで……」

ほぼ丸一日食べていないし運動量としてもそこそこのはずだけれど、ロゼリアは何だか物を食べる気になれずに、そう控え目なリクエストをする。

レイヴィスは分かったと頷くと、ロゼリアをひょいと抱き上げて風呂場へと向かった。
そこで少しばかりのいたずら込みで風呂に入れられて、そしてすっきりさっぱりとしたロゼリアが元の部屋に戻ると、ぐちゃぐちゃになっていたベッドシーツはぱりっと気持ちの良い物に変えられていて、テーブルの上には湯気と良い匂いの立ち上るスープと、数種類の果物が乗った皿が置かれていた。

「……あの、レイヴィス」
「どうした」

ロゼリアをベッドに下ろして、スープと果物の皿を持って戻ってきたレイヴィスは皿を一旦ベッド脇のサイドボードに置いて自身もベッドの上に上がると、ロゼリアを後ろから抱きかかえるようにして座る。

「私お屋敷の方達に挨拶とか……しなくて大丈夫?」

深夜に、恐らくはレイヴィスの私室に連れ込まれてからほぼ丸一日が経っていて、しかもあんな恥ずかしいシーツ交換をしてくれて食事の準備までしてくれた、多分使用人さん達に、何も言わないというのは心苦しい、と訴えたロゼリアに、レイヴィスはうっとりとするような微笑みを見せた。

「それは、俺の嫁になるって事で良いのか?」
「え?」
「使用人に挨拶をしたい、なんて、そういう事だろう?」
「えっ!?いえ、ただ、ご迷惑おかけしてすみませんって、そういう……」

嫁。
そういえばそんな話だった、とロゼリアはあわあわとレイヴィスから身体を離そうとして、あっさりと腰を引かれてぽすんとレイヴィスの胸に背中を預ける。

「あの、あの、私、まだ……」

じたばたと、抵抗にならない抵抗をしているロゼリアの身体をひょいと反転させて向かい合うと、レイヴィスはロゼリアの腰に両腕を回して、頬に唇を落とす。

「でも、ロゼリアも良かっただろ?」
「う……」

ぼふんっと音がしそうなくらいに真っ赤になったロゼリアの両頬を包んで上向かせると、レイヴィスは軽く唇を合わせる。

「俺とシルヴァ、どっちが良い?」

啄む様な口付けを繰り返されて、ようやく唇が解放されたと思ったらレイヴィスからそんな事を聞かれたロゼリアは、少し考えると「シルヴァ」と答える。
途端レイヴィスがむっとしたような表情をしたから、ロゼリアはだって、と俯く。

「だって、シルヴァは可愛いしふわふわだし抱き締めるとほわって幸せな気持ちになるけど──レイヴィスは……えっちな事、するし、ドキドキしちゃって全然落ち着かないし……それに、何も、知らないもの」

もじもじとそう言ったロゼリアの髪を一筋掬ってくるりと指先に巻き付けると、レイヴィスはその毛先に唇を落とす。

「何も知らなくはないだろう。身体の相性はかなり良いって事は、分かっただろ?」
「そっ…!そういう事ではなくて……っ!普段どんな風に過ごしてるのかとか、好きな物はとか嫌いな物はとか……そういう、普通、の……」
「シルヴァの好きな物とか、知ってるのか?」
「ゔっ………!」

話しながら、あれ?と思っていた事を突かれて、ロゼリアはレイヴィスから視線を逸らす。
レイヴィスはくっと喉を鳴らすと、ロゼリアの毛先にもう一度唇を落とす。

「俺がどんな風に過ごして、何が好きで何が嫌いで……そういう、俺の普段の事が分かれば、嫁になるんだな?」
「それで好きだと思えば、です」

どうしてお嫁さんになるの前提なの、と唇を尖らせると、ふにっとその唇を指でつっつかれる。

「──分かった。じゃあしばらく屋敷で過ごして、俺を見極めろ。ただし、俺は週に一度ロゼリアの血を貰う」

「え……?それ、は……週に一度、昨日みたいな事、を……?」
「まぁそうなるな。俺にだって口説くチャンスくらいあっても良いだろう?」

それは『口説く』の範囲を超えているのでは……と思ったのに、レイヴィスに見つめられて微笑まれて、何故かロゼリアは反論の一つも出来ずにこくんと頷いてしまった。


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