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「寝たか?」
「うん、やっと2人とも」
リートがぐずるから、折角寝てたアリアまで起きちゃうんだもの、と苦笑したロゼリアの腰をレイヴィスが引くと、ロゼリアは甘えるようにレイヴィスの胸に寄り掛かる。
あの後、"見極め期間"はそう長い時間を必要とはしなかった。
一緒に生活をして、意外と食べ物の好みは子供っぽいとか、そのくせお酒は大好きだとか、甘い物はあんまり好きではないようなのにロゼリアが作ったクッキーを全部食べてくれたりだとか、お願いをすればシルヴァの毛並みを思い切り堪能させてくれたりだとか。
町へのおつかい以外村から出た事のなかったロゼリアは、レイヴィスの書斎の、一体どれくらいあるのか分からない程の蔵書に夢中になって、今まで知ることのなかった沢山の事を教えてくれるレイヴィスを尊敬したりもして──。
毎日色んなレイヴィスを知って、言われた通り週に一度はとろとろに溶かされて、口説かれて。
そうしてロゼリアは、二月もしないうちに、すとんとレイヴィスに落ちてしまった。
けれど、レイヴィスと共に生きると決めた後に問題が発覚した。
ヴァンパイアの女性は生殖機能がない──つまり妊娠が出来なくなると知ったロゼリアは、1人でも良いから子供が欲しいと、血を交ぜる事を保留にして貰った。
そうしておよそ半年後、ロゼリアはレイヴィスとの子を身籠って、そして1年程前に無事に出産した。
1人でも良いと思っていたけれど、産まれてきた命は2つ。
しかも男女の双子で、ロゼリアは飛び上がらんばかりに喜んだ。
けれど2人同時の育児というのは想像以上に大変で……
以来、ロゼリアは小さな2人に振り回され続ける日々を過ごしている。
「レイヴィス」
「ん?」
すやすやと寝ている我が子を幸せそうに眺めているレイヴィスの横顔に、ロゼリアは少し緊張気味に呼びかける。
「あの……今日はケーキとお花、ありがとう」
「ロゼリアの20歳の誕生日だ。本当はもっと色々してやりたかったが──」
すまん、と言うレイヴィスに、ロゼリアは首を振る。
「この子たちがいるから、まだお出かけだってあまり出来ないもの。ケーキも準備してくれたし、お花もとても綺麗だし、それだけで充分」
ロゼリアは今日、20歳になった。
レイヴィスは普段中々代わってやれないからと、今日は仕事は全部休み!と宣言して日中に双子の相手をしてくれて、ロゼリアは久しぶりに少しゆったりした気分を味わえたし、いつもより豪華な夕食の後には、町で人気のお店の中でもロゼリアが一番好きなケーキが出て来て、更に大きな花束も贈ってくれた。
レイヴィスは口にしないでいてくれているけれど、本当は早くロゼリアにレイヴィスの血を受け入れて欲しいと思っている事は分かっている。
何よりロゼリアはレイヴィスと共に生きると決めて以降とても幸せで、子供が生まれてからは特に、この人となら永い時を共に生きていけるに違いないという想いが強くなっていた。
本当は産まれたらすぐにでも言おうと思っていたのだけれど、もし血を交わして母乳が止まったらどうしよう、と思うと言い出せず……
結局子供たちは1歳になってしまった。
だからロゼリアは、自分が20歳になった今日、レイヴィスに言おうと決めていた。
「あのね、レイヴィス。今まで待たせてしまって、ごめんなさい」
レイヴィスがふと顔を上げて、ロゼリアを見る。
「ロゼリア……?」
「私に、レイヴィスの血を、ください」
「────っ!」
驚いたように目を瞠ったレイヴィスに、ロゼリアは手を伸ばす。
レイヴィスはロゼリアの手を取ると、ゆっくりとその身体を引き寄せて抱き締めた。
「良いのか?」
「──うん。本当は、産まれた時すぐにでも言えれば良かったんだけど……」
俯いたロゼリアの頭に、レイヴィスが唇を落とす。
「それは仕方がない事だろ。チビ達の事もあったし、ロゼリアの全てを俺が縛り付けるようなものだから、不安もあっただろうしな」
「縛り付けるだなんて……ずっとずっと、レイヴィスと”一緒に生きていく”んでしょう?」
「──あぁ、そうだな」
「今更だけど……絶対、捨てないでね?」
「捨てるわけないだろ。それを言ったら俺の方が捨てられそうだ」
「それこそ、ないわ。レイヴィスが思ってるよりずっと、私はレイヴィスの事が好きよ」
「──シルヴァよりも、か?」
そんな事を言うレイヴィスに、ロゼリアはくすくすと笑う。
「そこはやっぱり、シルヴァかも」
「おい……」
ロゼリアは、途端にむっとしたような、拗ねたような表情を見せたレイヴィスの髪に手を伸ばす。
「嘘よ。どっちも……レイヴィスもシルヴァも、どっちもレイヴィスで、どっちもシルヴァで──だからつまりね。レイヴィスの全部が、大好きよ」
レイヴィスの髪を撫でて微笑んだロゼリアは、次の瞬間ぶわっと抱き上げられて、きゃっと小さな悲鳴を上げた。
レイヴィスはベビーベッドの置いてある子供部屋から飛び出すと自身の寝室に飛び込んで、少し乱暴にロゼリアをベッドに下ろす。
「やっぱやだ、は聞かないぞ」
「うん」
「泣いてもやめないからな」
「うん」
「ロゼリアが俺に飽きても離してやれないぞ」
「飽きないし、離さないで」
「逃げ出してもどこまでも追いかけるからな」
「逃げないわ──もうっ」
まだ何か言おうとするレイヴィスに、ロゼリアは頬を膨らませてレイヴィスの首に腕を回すと、レイヴィスの口をそっと塞ぐ。
「大丈夫だから、レイヴィス──ください」
「うん、やっと2人とも」
リートがぐずるから、折角寝てたアリアまで起きちゃうんだもの、と苦笑したロゼリアの腰をレイヴィスが引くと、ロゼリアは甘えるようにレイヴィスの胸に寄り掛かる。
あの後、"見極め期間"はそう長い時間を必要とはしなかった。
一緒に生活をして、意外と食べ物の好みは子供っぽいとか、そのくせお酒は大好きだとか、甘い物はあんまり好きではないようなのにロゼリアが作ったクッキーを全部食べてくれたりだとか、お願いをすればシルヴァの毛並みを思い切り堪能させてくれたりだとか。
町へのおつかい以外村から出た事のなかったロゼリアは、レイヴィスの書斎の、一体どれくらいあるのか分からない程の蔵書に夢中になって、今まで知ることのなかった沢山の事を教えてくれるレイヴィスを尊敬したりもして──。
毎日色んなレイヴィスを知って、言われた通り週に一度はとろとろに溶かされて、口説かれて。
そうしてロゼリアは、二月もしないうちに、すとんとレイヴィスに落ちてしまった。
けれど、レイヴィスと共に生きると決めた後に問題が発覚した。
ヴァンパイアの女性は生殖機能がない──つまり妊娠が出来なくなると知ったロゼリアは、1人でも良いから子供が欲しいと、血を交ぜる事を保留にして貰った。
そうしておよそ半年後、ロゼリアはレイヴィスとの子を身籠って、そして1年程前に無事に出産した。
1人でも良いと思っていたけれど、産まれてきた命は2つ。
しかも男女の双子で、ロゼリアは飛び上がらんばかりに喜んだ。
けれど2人同時の育児というのは想像以上に大変で……
以来、ロゼリアは小さな2人に振り回され続ける日々を過ごしている。
「レイヴィス」
「ん?」
すやすやと寝ている我が子を幸せそうに眺めているレイヴィスの横顔に、ロゼリアは少し緊張気味に呼びかける。
「あの……今日はケーキとお花、ありがとう」
「ロゼリアの20歳の誕生日だ。本当はもっと色々してやりたかったが──」
すまん、と言うレイヴィスに、ロゼリアは首を振る。
「この子たちがいるから、まだお出かけだってあまり出来ないもの。ケーキも準備してくれたし、お花もとても綺麗だし、それだけで充分」
ロゼリアは今日、20歳になった。
レイヴィスは普段中々代わってやれないからと、今日は仕事は全部休み!と宣言して日中に双子の相手をしてくれて、ロゼリアは久しぶりに少しゆったりした気分を味わえたし、いつもより豪華な夕食の後には、町で人気のお店の中でもロゼリアが一番好きなケーキが出て来て、更に大きな花束も贈ってくれた。
レイヴィスは口にしないでいてくれているけれど、本当は早くロゼリアにレイヴィスの血を受け入れて欲しいと思っている事は分かっている。
何よりロゼリアはレイヴィスと共に生きると決めて以降とても幸せで、子供が生まれてからは特に、この人となら永い時を共に生きていけるに違いないという想いが強くなっていた。
本当は産まれたらすぐにでも言おうと思っていたのだけれど、もし血を交わして母乳が止まったらどうしよう、と思うと言い出せず……
結局子供たちは1歳になってしまった。
だからロゼリアは、自分が20歳になった今日、レイヴィスに言おうと決めていた。
「あのね、レイヴィス。今まで待たせてしまって、ごめんなさい」
レイヴィスがふと顔を上げて、ロゼリアを見る。
「ロゼリア……?」
「私に、レイヴィスの血を、ください」
「────っ!」
驚いたように目を瞠ったレイヴィスに、ロゼリアは手を伸ばす。
レイヴィスはロゼリアの手を取ると、ゆっくりとその身体を引き寄せて抱き締めた。
「良いのか?」
「──うん。本当は、産まれた時すぐにでも言えれば良かったんだけど……」
俯いたロゼリアの頭に、レイヴィスが唇を落とす。
「それは仕方がない事だろ。チビ達の事もあったし、ロゼリアの全てを俺が縛り付けるようなものだから、不安もあっただろうしな」
「縛り付けるだなんて……ずっとずっと、レイヴィスと”一緒に生きていく”んでしょう?」
「──あぁ、そうだな」
「今更だけど……絶対、捨てないでね?」
「捨てるわけないだろ。それを言ったら俺の方が捨てられそうだ」
「それこそ、ないわ。レイヴィスが思ってるよりずっと、私はレイヴィスの事が好きよ」
「──シルヴァよりも、か?」
そんな事を言うレイヴィスに、ロゼリアはくすくすと笑う。
「そこはやっぱり、シルヴァかも」
「おい……」
ロゼリアは、途端にむっとしたような、拗ねたような表情を見せたレイヴィスの髪に手を伸ばす。
「嘘よ。どっちも……レイヴィスもシルヴァも、どっちもレイヴィスで、どっちもシルヴァで──だからつまりね。レイヴィスの全部が、大好きよ」
レイヴィスの髪を撫でて微笑んだロゼリアは、次の瞬間ぶわっと抱き上げられて、きゃっと小さな悲鳴を上げた。
レイヴィスはベビーベッドの置いてある子供部屋から飛び出すと自身の寝室に飛び込んで、少し乱暴にロゼリアをベッドに下ろす。
「やっぱやだ、は聞かないぞ」
「うん」
「泣いてもやめないからな」
「うん」
「ロゼリアが俺に飽きても離してやれないぞ」
「飽きないし、離さないで」
「逃げ出してもどこまでも追いかけるからな」
「逃げないわ──もうっ」
まだ何か言おうとするレイヴィスに、ロゼリアは頬を膨らませてレイヴィスの首に腕を回すと、レイヴィスの口をそっと塞ぐ。
「大丈夫だから、レイヴィス──ください」
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