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番外編

交接 (後編)

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 ソフィアの中からゆっくりと出て行くグラートの後を追うように、どろりと白濁が溢れ出す。
 ひくん、と震えたソフィアの眦に唇を寄せて、グラートはそっとソフィアを抱き起した。

「赤ちゃん……来てくれた……」

 自身でも下腹に刻んだ淫紋が消えている事を確認して、そぉっと愛おしそうにそこを撫でるソフィアにグラートも目を細める。

「三月程、だったか」

 ソフィアの手に重ねるようにして、グラートもまたソフィアの腹に手を当てる。
 当然まだ何も分かりはしないけれど、淫紋の消えたそこには確かに二人の子が宿っているのだろう。
 フローラから聞いていたサキュバスの妊娠期間を確認したグラートに、ソフィアもこくんと頷く。

「何だかドキドキするね。男の子かな、女の子かな。グラートさんの子だから、やっぱり男の子かしら」
 
 気が早いかな、とはにかむ様に微笑んだソフィアにグラートも笑みを返して、けれど何かに気づいたようにソフィアを見つめて、そしてあー……と視線を逸らす。

「……あのな、ソフィア」
「?」

 小首を傾げたソフィアにグラートはガシガシと頭を掻いて「いや、何でも……」と呟いて、けれどすぐに「いや、やっぱり」とソフィアに――ソフィアの腹に視線をやって難しい顔をする。
 何だか様子のおかしいグラートに、幸せそうに笑んでいたソフィアの顔が僅かに曇る。

「グラートさん……?」

 その視線から宿ったばかりの子供を気にしていることは分かったけれど、グラートにしては珍しく言い淀む様子にまさか本当は子供を作りたくはなかったのかしら、なんて考えてしまったソフィアが不安そうにグラートを見上げると、グラートは即座に違うと手を振る。
 
「子供が出来た事は嬉しい。それは本当だ。そうじゃなくて――――生まれるまでの間の事、なんだが」

 グラートはそこで一度言葉を切って咳払いをすると姿勢を正した。
 そしてそっとソフィアの唇を撫でる。

「口とか手で、して貰っても良いか?」
「…………え?」
「さすがに三月も発散出来ないままなのは困る。勿論具合が良くないとか、気分がのらない時は無理しなくて良いが、せめて週に三回――いや、出来れば日に一回は頼みたいが……」

 きょとんと瞬いていたソフィアは、そこでようやくグラートが何を言っているのかを理解した。

「あの、グラートさん」
「あぁ、やっぱり毎日は多いよな? それなら週に五回くらいでも……」

 最初の三回はどこに行ったの、とおかしく思いながら、ソフィアはもう一度グラートの名を呼んで、そしてちゅっと触れるだけのキスをする。

「多分口からでも精気は貰えるけど……出来ればちゃんと、こっち・・・から欲しい、です」

 白濁と愛液にまみれたままのそこを擦り付けるようにされて、今度はグラートがぱちりと瞬く。

「いや、だが妊娠中はしちゃいけないんじゃないのか……?」
「それは人族の話で……私はサキュバスだから」

 グラートがぽかっと口を開けた様にふふ、と小さく笑って、ソフィアはグラートに抱きついてその胸に頬を寄せる。

「いつも通りに食事が出来ないと、赤ちゃんも困ると思うわ。だから……」
「抱いて良いのか?」
 
 ソフィアの言葉を遮るように言ったグラートに、ソフィアはうん、と頷く。
 その辺りも一応母さんに確認をしておいたのと笑ったソフィアに、グラートはほっと息を落とした。

「でもやっぱり少しこわいから……その、あんまり激しいのは……」
「あぁ、そうだな。生まれてくるまではゆっくりするとしよう」

 頬を包み込まれて、優しい口づけを落とされてソフィアはほっとしながら目を閉じる。
 と、ふわりとベッドに横たえられた。

「グラートさん?」
「いや、抱いて良いんだと安心したら、シたくなった」

 良いよな? と覆いかぶさってくるグラートに苦笑を溢して、ソフィアはグラートの背に腕を回す。

「優しくで、ね」

 勿論だと口付けられて、そうしてゆっくりと挿ってくるグラートに、ソフィアは甘い吐息を溢して身を委ねた。



「ん……あっ、あ……」

 先程までの激しさとは打って変わって、こんなにも穏やかな交わりもあるのかと驚くくらいに、ソフィアはゆっくりじっくりと高められた。

「グラートさん……気持ち良い……」

 腰を揺らしながらソフィアの額や頬や首筋――あちこちに戯れるように唇を寄せていたグラートは、ソフィアのその言葉に目を細めると唇を塞ぐ。
 小さな音を立てながら繰り返される軽いキスの合間に愛を囁き合って、包み込むように抱き締められる。
 そのままゆるゆると揺すられて小さく立つ水音に甘い声が重なって、そうしてとん、とん、と優しく、けれどそれまでよりも少し強めに奥を叩かれて、ソフィアはふるりと体を震わせた。
 グラートを包み込んでいるソフィアの花襞が、その合図に反応してしっとりとグラートの剛茎へと絡みつく。

「射精すぞ」

 逞しい腕で宝物を扱うように抱き締められて、ソフィアの中でグラートがぐぅっと質量を増した。
 グラートさんには物足りないんじゃ……と思っていたけれど、きちんと感じてくれていたのだと安堵して、ソフィアも来て、とグラートの背に回した腕に力を込める。
 そうしてこの後自身の中で広がるであろう熱を思いながら、ソフィアがグラートに足を絡めたのと同時にグラートの熱が注がれた。 

「あっ……?」

 どぷ、と注がれた瞬間にソフィアが戸惑ったような声を上げて、グラートにしがみついた。

「どう……っ!?」

 ソフィアの様子に違和感を覚えてどうしたと問おうとしたグラートは、ぐんっと引っ張られるような感覚に慌ててソフィアの両脇に手をついた。
 そのままぐっと腕を突っ張って、小さく呻く。

 そうして程なくして吐精を終えたグラートは、しばらく何かに堪えるようにじっとした後に、はーっと大きく息をついた。

「……もがれるかと思った」

 ぼそりと呟いて、ひどく疲れたように前髪を掻き上げたグラートをソフィアは呆然としたまま見上げる。

「だい、じょうぶ……?」

 そっとグラートの頬を撫でたソフィアにグラートは何とか、と苦笑を零す。

 ――グラートが精を放った瞬間、その精がすごい勢いでソフィアの中へと飲み込まれたのだ。
 最後の一滴まで絞り取られるような勢いで、吐精が終わっても欲しがっている・・・・・・・のを感じたくらいだった。
 けれどそれはソフィアが求めている、という感じではなく――

「ソフィアじゃない、よな?」

 グラートから確認するように問われて、ソフィアはゆるゆると首を振る。

「私、じゃ……あっ」

 また小さく声を上げたソフィアが、ふっと自身の腹を抑える。

「お腹の中が……あったかい……」

 そぉっと確かめるように腹を撫でるソフィアの手に、グラートも手を重ねる。

「生まれたてで、腹ペコだったって事か……?」
「そう、なのかしら……」

 子を宿すのは当然初めての事だから、ソフィアにも今何が起こったのかよく分からない。
 けれど自分の糧にはなっていないから、宿ったばかりのこの子が欲したのは間違いないだろうと腹を撫でる。

「……食いしん坊さんかしら」
「ちびのくせに、随分食いやがる」

 まだ戸惑ったまま、けれど小さく笑ったソフィアにひょいと肩を持ち上げてみせると、グラートもソフィアの腹を撫でる。

「おい、ちび。まだ食うか?」

 答えはあるはずもなかったけれど、足りてなかったら可哀想だからなと覆い被さって来るグラートを、ソフィアもまたそうねと笑って抱き止めた。


 けれどその後いくら注いでも、分かる程に飲み込まれる事はなくなった。
 ただ日に一・二度、ソフィアはお腹の中がぽっと温かくなるのを感じる事から、少しずつは飲んでいるようだという事が分かった。
 正直なところお腹の中の子がグラートの精気を直接飲んでいるのか、ソフィアを通して飲んでいるのかはソフィアにもよく分からなかったけれど、母子共にグラートの精気が必要である事には変わりがない。
 ちびの為にもたっぷり注がないとな、とグラートの休暇中はほとんどの時間を抱き合って過ごして、そうして十日目。
 グラートの休暇の最終日に、二人はソフィアの実家へと無事に妊娠したことを報告しに行った。
 ディーノもフローラもとても喜んで、そして十日目にして既にほんのりと膨らみ始めているソフィアの腹を見てフローラがにやにやと笑った。

「さすがグラートくん。これなら二月くらいで生まれるんじゃない?」
「え?」

 小さく首を傾げたソフィアに、フローラはにやにや続行で続ける。
 ディーノはあーうーと唸ったかと思ったら、席を外してしまった。
 その背中を見送ってから、フローラはにっこりと笑みを浮かべて僅かにソフィアに顔を寄せる。

「サキュバスの妊娠期間はね、貰える精の量で変わるのよ」
「え……」
「大体が三月くらいだけど、二月くらいで生まれたって話も聞くから、ソフィアもそんなものじゃないかしら?」

 楽しみねぇとソフィアの腹を撫でているフローラにそうなのね、と返しつつ、ソフィアはちらりとグラートを見上げる。
 ソフィアの視線に気づいたグラートはにやりと、少しばかり不穏で、そしてとても嬉しそうな笑みを見せた。


 それからも毎日たっぷりと精を与えられて、一月が経った頃にはソフィアのお腹はぽっこりと膨らんでいた。
 そうして二月手前――フローラの知る中では最短記録だと爆笑を貰って、ソフィアは元気すぎる男の子を産んだ。

 ソフィアの出産から一月程の後、ディーノたち家族は「色々あったからこの街には長く居すぎた」と別の街へと越して行った。
 寂しくはあったけれど、定期的に手紙のやり取りは出来ているし、グラートの両親も街の人たちもソフィアと生まれたばかりの赤ん坊をあれこれと気に掛けてくれている。
 何より我が子が可愛すぎて、ソフィアは小さな息子に夢中になった。
 グラートが少しばかり自分の息子に嫉妬してしまう事もあるので、ソフィアは家事に息子の世話に夫との語らい・・・にと、何だかんだと日々忙しい。
 けれどその忙しさ全てが愛しくて、幸せだ。

「グラートさん。あの日私と出逢ってくれて、私を愛してくれて、ありがとう」

 すやすやと眠る息子の髪を優しく撫でながらぽつりとそう言ったソフィアに、グラートは何を言うと笑う。

「俺こそ、こんなに満たされた生活が出来るようになるなんて思ってなかった――ソフィアがあの日のあの時間、あの場所に現れなければ、俺は今も店の女たちだけを頼りに、それでも発散し切れない欲を抱えたまま一人で生きていただろう。あの日の出逢いに感謝するのは、俺の方だ」

 背中から抱き締められて、ソフィアの肩に顔を埋めるようにしたグラートの大きな身体にそっと背を預ける。

「ありがとう、ソフィア。愛してる」

 そう囁かれて、ソフィアは顔を傾けてすり、とグラートの頭に頬を擦り付ける。
 グラートが顔を上げて、二人の視線が絡んだ。
 ソフィアが小さく笑ってそっと目を閉じると、すぐに唇が重ねられる。
 身体の向きを変えられて、もう一度重なって――

「私も、愛しています」

 僅かに唇が離れた隙間でそう囁き返したソフィアを、グラートが抱き上げる。
 すやすやと眠り続けている息子の様子をちらりと確認して、そうして隣の寝室へと移動した。


 翌年ソフィアは二度目の淫紋を刻んだ。
 広いと思っていた二階建ての一軒家が狭く感じるようになって、そうしてもっと大きな家に引っ越す事になるのは数年後のこと――



 ~ Happily ever after ~



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
これにて真・完結になります。
お読みくださいましてありがとうございました(。ᵕᴗᵕ。)
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