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皇国への道中にて
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「手をお貸ししましょうか?」
儀礼的に差し出された手に、緩く首を振り、ケイは一人で馬車に乗り込んだ。
まさか皇子と同じ馬車に乗せられるとはな、と思いつつ、示された場所に座る。
護衛兵を隣に座らせて平然としている皇子をヴェール越しに眺め、そして隣にお淑やかに座る皇国の侍女にちらりと視線を送った。
これは、どういう状況なのだろうか。
***
帝国の至宝と謳われる美貌を隠したまま、ケイは華やかな音楽に送られて、輿に乗せられ広間から馬車のある王宮の門まで連れられてきた。
下賜された宝物を誇り、スルタンにどれほど評価されたかを人に見せつけることは至極当然の話であったから、ケイは見世物のごとく運ばれることに、特に何とも思わなかった。
しかし辿り着いた先に、美しさより堅固さと実用性を重視した馬車が一台しかなかったことに、ケイは首を傾げた。
六人で乗ってもゆとりがあるであろう大きさではあったが、なぜ、一台しかないのであろうか。
「帝国の首都を出るまでは、同じ馬車に乗って頂きます」
居心地悪そうにそっと同乗者を伺っているケイの戸惑いを察したのか、皇子が自然に口を開いた。意味が分からず首を傾げるだけのケイに、皇子は困ったように苦笑する。
「馬車の数と警護の関係です。帝国の潤沢な人材と財力に比べ、我が皇国は余裕のある国ではありません。ですから、不要なものは極力削っておりますので、馬車は今回は一台しかないのです」
肩をすくめ、整った容姿に芝居掛かった戯けた表情を浮かべて、皇子は笑う。
「まさか人数が増えるとは思っておりませんでしたので、来る時に他の者を乗せて共に来た馬車は、返してしまいまして。
皇国との国境で、待っていて貰っております。帝国への入国は、かなりの税が掛かりますし、条件も厳しいですから」
懐事情を含めてあっさりと説明してみせた皇子は、ごく自然な流れで馬車の窓に手をかけ、窓を開いた。
すぅっと、温い風が吹き込んでくる。
地面を駆ける蹄の音と、馬の嘶きの音が、大きくなった。
「皇国の男達は、歩くより先に馬に乗り、歩くことと同じように馬を駆けさせます。今回も、皆馬に乗っております。私も、馬の方が具合が良いほどですよ」
馬を駆けさせる男達を少し羨ましそうに眺める皇子に軽い驚きを感じながらも、ケイには気になることが出来た。
そうだとしても、他の女達は、どうしたのだろうか。
不思議に思ったケイが、ちらり、と隣の侍女に目をやると察したように皇子がまた口を開いた。
「あぁ、基本的に侍女は連れてこなかったのです。
我が国の女性は家を守るべきとされ、あまり外に出ることを良しとされておりません。
それに、留学生として連れてきた中に侍女として働いていた者もおりましたので、この度は彼女達にぎりぎりまで働いて貰いました」
なるほど、とケイが納得をして頷いていると、柔らかな表情を端麗な美貌に乗せていた皇子が、瞳にふいに辛辣な光を浮かべた。
「ふふっ、声も出すことが出来ぬほど、緊張してみえますか?それとも……北の蛮族とは、口もききたくありませんか?」
「いえ、まさか!」
慌てて口を押さえるが、既に時は遅く。
思わずといったように溢れたケイの高い否定の声に、皇子は少しだけ怪訝そうに眉を動かした。おそらくは、聞いたはずのないケイの声に聞き覚えがあることへの違和感だろう。
「スルタンの至宝の方よ、失礼ながら、……あなたは」
儀礼的に差し出された手に、緩く首を振り、ケイは一人で馬車に乗り込んだ。
まさか皇子と同じ馬車に乗せられるとはな、と思いつつ、示された場所に座る。
護衛兵を隣に座らせて平然としている皇子をヴェール越しに眺め、そして隣にお淑やかに座る皇国の侍女にちらりと視線を送った。
これは、どういう状況なのだろうか。
***
帝国の至宝と謳われる美貌を隠したまま、ケイは華やかな音楽に送られて、輿に乗せられ広間から馬車のある王宮の門まで連れられてきた。
下賜された宝物を誇り、スルタンにどれほど評価されたかを人に見せつけることは至極当然の話であったから、ケイは見世物のごとく運ばれることに、特に何とも思わなかった。
しかし辿り着いた先に、美しさより堅固さと実用性を重視した馬車が一台しかなかったことに、ケイは首を傾げた。
六人で乗ってもゆとりがあるであろう大きさではあったが、なぜ、一台しかないのであろうか。
「帝国の首都を出るまでは、同じ馬車に乗って頂きます」
居心地悪そうにそっと同乗者を伺っているケイの戸惑いを察したのか、皇子が自然に口を開いた。意味が分からず首を傾げるだけのケイに、皇子は困ったように苦笑する。
「馬車の数と警護の関係です。帝国の潤沢な人材と財力に比べ、我が皇国は余裕のある国ではありません。ですから、不要なものは極力削っておりますので、馬車は今回は一台しかないのです」
肩をすくめ、整った容姿に芝居掛かった戯けた表情を浮かべて、皇子は笑う。
「まさか人数が増えるとは思っておりませんでしたので、来る時に他の者を乗せて共に来た馬車は、返してしまいまして。
皇国との国境で、待っていて貰っております。帝国への入国は、かなりの税が掛かりますし、条件も厳しいですから」
懐事情を含めてあっさりと説明してみせた皇子は、ごく自然な流れで馬車の窓に手をかけ、窓を開いた。
すぅっと、温い風が吹き込んでくる。
地面を駆ける蹄の音と、馬の嘶きの音が、大きくなった。
「皇国の男達は、歩くより先に馬に乗り、歩くことと同じように馬を駆けさせます。今回も、皆馬に乗っております。私も、馬の方が具合が良いほどですよ」
馬を駆けさせる男達を少し羨ましそうに眺める皇子に軽い驚きを感じながらも、ケイには気になることが出来た。
そうだとしても、他の女達は、どうしたのだろうか。
不思議に思ったケイが、ちらり、と隣の侍女に目をやると察したように皇子がまた口を開いた。
「あぁ、基本的に侍女は連れてこなかったのです。
我が国の女性は家を守るべきとされ、あまり外に出ることを良しとされておりません。
それに、留学生として連れてきた中に侍女として働いていた者もおりましたので、この度は彼女達にぎりぎりまで働いて貰いました」
なるほど、とケイが納得をして頷いていると、柔らかな表情を端麗な美貌に乗せていた皇子が、瞳にふいに辛辣な光を浮かべた。
「ふふっ、声も出すことが出来ぬほど、緊張してみえますか?それとも……北の蛮族とは、口もききたくありませんか?」
「いえ、まさか!」
慌てて口を押さえるが、既に時は遅く。
思わずといったように溢れたケイの高い否定の声に、皇子は少しだけ怪訝そうに眉を動かした。おそらくは、聞いたはずのないケイの声に聞き覚えがあることへの違和感だろう。
「スルタンの至宝の方よ、失礼ながら、……あなたは」
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