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永遠のはじまり 【完】
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「後宮を管理する女官長を、どこかから探して来ねばなるまい」
後宮をあけると正式に決定し、鳳寿は新しい悩みに頭を抱えていた。
「この面子を抑えて、うまく立ち回れる人間はいないか?」
国内のなみいる貴族家から集められた妃嬪とその母親の名簿を見て、華英は冷め切った微笑を浮かべる。
「後宮に放り込んだ各家のお嬢様と奥方様を抑えることができ、あらゆる誘惑と脅迫に屈しず、後宮を管理してくれる者、ですか?そんな人間、そうそう居るわけがないでしょう」
ばっさり切って捨てた華英に、鳳寿が疲れ果てた目を向ける。
「分かっている。だが、探さねば」
「なに、簡単なことですよ。……後宮の管理は、私がいたしましょう」
「は?」
華英の言葉の突飛さに、鳳寿は一瞬思考を止めた後で、苦笑して首を振った。
「華英、それはさすがに無理だろう。後宮は男子禁制が大原則だ」
当然の話だ、と華英を窘めたはずの鳳寿を、華英はくすりと笑った。
にこり、と妖艶な表情を浮かべる。
まるで、男でも女でもないもののような。
「……華英?」
訳のわからぬ恐れに、鳳寿の心臓の音が速くなる。
押し寄せる切迫感のまま何が言いたいのだ、と詰問しようとした鳳寿に、華英はあっさりと告げた。
「ご安心を。私はすでに、男ではございません」
「……え?」
無言のまま、華英が帯に手をかけた。
はらり、はらりと、衣を次々に脱ぎ落とし、最後に下履きが床に落ちる。
そして華英は、一糸纏わぬ姿を晒した。
「ま、さか」
愕然と目を見開いた鳳寿の顔が、絶望に染まる。
カタカタと震えながら、一歩一歩ぎこちなく華英のもとに近づき、跪いた。
「切り落とした、のか」
その股間には、あるべきものが、なかった。
「胡家は、どうするのだ。お前は後継ではないか……!」
「構いませんよ。異母兄達の誰かが姉上と婚姻してくれれば、私よりよほど血の濃い後継が生まれるでしょうから」
混乱して非難するように叫ぶ鳳寿に、華英は淡々とした様子で肩を竦めた。
諦めの悪い鳳寿が事あるごとに、華英を手放そうとするから、わざわざ切り落とす羽目になったのだ、とは言わずに。
「宮廷だけを手中にしたところで、争いの種は潰し切れません。それは、分かっているのでしょう?」
「だがっ」
「鳳寿。じゃあ、あなたに、私より信頼できる人間がいるのですか?」
言い募る鳳寿の名を鋭く呼んで口を閉じさせ、華英は穏やかに問いかけた。
返事に窮する鳳寿を満足げに見つめ、華英は子守唄のように優しく囁く。
「後宮も私にお任せなさい。もう二度と争いなど起きようもない体制を、腐るはずのない世界を、二人で築いてやりましょう」
子に囁きかけるかのような甘やかな声は、奥底に強い信念と激情を孕み、鳳寿の鼓膜を揺らした。
「あなたは妃達に子を産ませなさい。私は嫉妬など致しません。あなたが愛しているのは私だけだと私は確信しておりますから。妃を抱いた後も忘れず私に愛を囁き、抱き締めてくだされば許してあげます」
くすくすと笑いながらも、まるで狂人のような眼差しで、華英は鳳寿を見つめる。
「そして生まれたあなたの子を、私は愛をもって正しく教育しましょう。国と民を狂信する、正しき王者に」
明るい未来の夢を描き、華英は楽しげに目を細めた。
鳳寿はその深淵の見えない闇色の双眸に魅入られ、固まるばかりだ。
「彼らに守られ、発展していくこの国が、永遠に残る私たちの愛の証です。……ねぇ、そうでしょう?愛しい私の王様」
ちゅ、と音を立てて、華英の柔らかな紅唇が、鳳寿の乾いた唇に触れた。
ぐ、と唇を押しつけられ、生気も魂も吸い取るように口腔内を掻き回される。
「華英……」
なすすべもなく床に押し倒された鳳寿は、口の中を弄られて荒く息をしながら、華英を見上げた。
吹っ切れたような顔をする恋人は、興奮に頬を染めながらも、純真な少年のように笑った。
「私はあなたと、この国を生むと決めたのです。私の幸せはここにある。それをあなたも、いい加減認めて下さい」
狂った目で捧げられる愛に、覚悟を決めろと迫られる強引さに、鳳寿は微かな後悔と、そして目も眩むほどの狂喜を覚えた。
「あぁ、そうだな、華英。……ずっとここに、俺の隣にいてくれ」
目の前の白い裸体を骨の軋むほどに抱き締め、その首筋に噛み付いた。
「お前は俺のものだ。もう二度と、手放そうとはせん」
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