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五品目 牛乳寒天
二十一話 閻魔様に捧げる甘露(1)
しおりを挟む「――で、また台所に戻って来たんだアカ」
「桃花は食べることしか頭にない上に、とんでもない〝料理馬鹿〟なんだなアオ」
「い、言っとくけど、これは閻魔様の為に作るんだからね! せっかくいいアイデアが浮かんだんだから、早く作ってみたいじゃない!」
ドンっと脱衣所の冷蔵庫からあるだけ持ってきた牛乳を調理台に並べ、茜と葵は前掛けを腰に結ぶわたしを見て、しみじみといったように呆れた顔をする。
その生暖かい表情に一抹の恥ずかしさは感じるが、しかし我ながら〝料理馬鹿〟が妙にしっくりときてしまった。
未だにまともな記憶は何一つ思い出せていないが、冥土に来る前のわたしもこんな感じでずっと台所に立っていたのは容易に想像がつく。
……きっとその時も、食べてくれる誰かの笑顔を想像して作っていたのだろう。
「ああっ、ちゃんとあった! 本当にこの冷蔵庫はなんでも揃ってて、まるで四次元空間みたいね」
入れた時の鮮度のままいつまでも保存しておけるだけでもチートなのに、容量もまるでブラックホールの如く半端ない。
目当ての品もガサゴソ漁ればすぐに見つかった。
「よし、これでアレが作れるわ」
「ん?? なんだその透明な固まりはアカ?」
「なんかクラゲに似てるアオ。冷蔵庫に入ってたってことは食材? 食べられるのかアオ?」
わたしが冷蔵庫から取り出したもの――棒状のカサカサした無色透明な固まりを、茜と葵は不思議そうにしげしげと見つめる。
「あら、知らないの? これは〝寒天〟よ。今から牛乳寒天を作るの。水を入れたボウルにこうやって寒天を浸して柔らかくしたら、千切ってお鍋に入れて火にかけるのよ」
「「牛乳……寒天……??」」
「ほらこうやって火にかけるの」
料理名を聞いてもピンときていない二匹に実演してみせると、火にかけた寒天が鍋の中でじゅわっと溶けていったところで、目をまんまるにした。
「あのでっかい透明の固まり消えて、液体になったアカ!?」
「桃花! これは一体なんという妖術だアオ!?」
「妖術じゃないわ。ていうか妖術って何よ? そうじゃなくて、寒天は熱で溶ける性質なのよ。さ、溶けきったら次よ」
溶けた寒天にお砂糖を加えて、それも綺麗に溶けたら火を止める。
そしてここからが重要だ。
「それじゃあお待ちかね、ここで主役が登場するわよ! 茜、葵! 牛乳をこのお鍋の中に全部注いで混ぜてちょうだい!」
「「え゛」」
わたしが意気揚々と鍋を指差してそう言うと、二匹は一気に顔色を悪くしてブンブンと激しく首を横に振った。
「……なによ? その真っ青な顔は」
「いやいやいや! 桃花! お前の料理が美味いのは知っているが、さすがにこれはないぞアカ!?」
「そうだアオ! まさかこんな得体の知れない液体を閻魔様にお出しするのかアオ!?」
鍋いっぱいに溶けた寒天を不気味そうに見て、二匹して失礼なことを言う。
「得体が知れなくなんてないわ! 想像出来ないのかも知れないけど、この液体がつるっと喉越し最高の甘味になるのよ!! いいから騙されたと思って、早く牛乳を入れて混ぜなさいっ!!」
「ひぇ、桃花は料理のこととなると容赦ないアカ」
「ああ、お労しや閻魔様だアオ」
「また失礼なことを……」
勝手に閻魔様を憐れんでいる茜と葵に圧をかけて、お鍋に牛乳を入れ混ぜさせる。
あとは容器に液を流して冷蔵庫で冷やし固めれば、つるっと手軽に食べられる優しい甘さが食べやすい、牛乳寒天の完成だ。
「容器は確かアルミ製のバットがあったし、それを使いましょう。あと、茶碗蒸し用の器も使えるかも」
ガサゴソと食器棚を漁り、いくつか拝借する。
今回は何も入れなかったが、みかんを入れた牛乳みかん寒天や、小豆を入れたあずきミルク寒天なんかもオススメである。
「白い液体が冷蔵庫に入っていくアカ」
「本当にこれは料理アオ? 妖術じゃないアオ?」
「……まだ言ってる。だから妖術って何よ?」
未だ疑わしいというように冷蔵庫をじっと睨みつける二匹に苦笑して、わたし達は牛乳寒天の出来上がりを今か今かと待った。
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