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五品目 牛乳寒天
二十二話 閻魔様に捧げる甘露(2)
しおりを挟む「はい。アンタたちが言ってた、得体の知れないものが出来上がったわよ。食べてみなさい。」
冷やし固まるまでの間は各々で好きなことをしていたのだが、いよいよ完成したので食堂に茜と葵を呼び出した。
そしていつもの席に座る二匹の目の前に、茶碗蒸しの容器に入っているツルンと白い牛乳寒天をどんっと置く。
「「…………」」
しかし二匹はいつものようにがっつかず、不審そうにプルンとした牛乳寒天を凝視している。
「これが牛乳寒天……? さっきの液体が固まったのかアカ?」
「まるで見たことのない料理だアオ。甘味って言ってたけど、本当に甘いのかアオ?」
そうやってしばらく牛乳寒天を眺めてはブツブツ言っていたが、やがて決心がついたのか、二匹はスプーンを牛乳寒天へと差し込む。
「「うわっ!?」」
するとプルンッ! と、思わぬ弾力に一瞬怯んだ表情をするが、それでも恐る恐る口に運んだ。
「ど、どう?」
茜と葵の緊張感がこちらにまで伝わり、わたしはごくりと生唾を飲んで見守る。
すると二匹の喉がごっくんと飲み込むような動きをし、そして――。
「――!? なんだコレ!? プルプルで冷たくて甘いアカ!!」
「牛乳の味はしっかりしてるけど、そのまま飲むよりもサッパリしてて、つるっと食べれるアオ!!」
「でしょー? よかったぁ、めっちゃ緊張したぁ! このつるっとした喉越しと、牛乳の優しい甘さが絶妙なのよね」
「「美味いアカ(アオ)!!」」
さっきまでの疑ったような視線はどこへやら。茜と葵は勢いよく牛乳寒天を平らげ、更にはおかわりまで要求してきたので、余計に作った分を渡してやる。
「なるほど、牛乳寒天。確かに一千年振りに口にされるのが甘露とは、これ以上なく閻魔様に相応しいアカ」
「甘露?? 甘味じゃなくて?」
「古来より甘味は不老不死の妙薬と言われていているんだアオ。そしてこれは天の神々にとっても例外じゃないアオ」
「というと?」
「甘味は通常の料理より多く神力を回復させる力を持つ。故に甘味のことを神々は〝甘露〟と呼んで、尊んでいるのだアオ」
「へぇー」
そんな意図は全くなかったが、甘いものがより閻魔様の力になるものだというならば……。
「うん、それならば閻魔様も気に入ってくれるかも知れないわね」
手軽でつるっと食べられるという条件は満たしている上に、そんな高尚な由来まである。
確かに今の閻魔様に食べてもらうにはピッタリの料理だ。早速食べてもらいたい。
「ねぇ、閻魔様は今日も遅くまで裁判なの?」
「そうだアカ。基本閻魔様は就寝以外ずっと裁判所だから、オイラたちも声を掛けるのは一苦労なんだアカ」
「今朝もかなり無理して起きたから、オイラたち、本当はもう……眠いんだ……アオ」
そう言って二匹は大あくびをしたかと思うと、そのまま同時にパッタリと机に突っ伏した。
そしてあっと思う間もなく、「ぐーぐー」と大きないびきが聞こえてくる。
「あらら、こんなところで」
随分と早起きだと思っていたら、やっぱり茜と葵も無理をしていたらしい。
もしかしてわたしが「やることがない、掃除でも手伝わせてくれないと暇だ」と訴えたことを、思った以上に気にしててくれたのかも知れない。
「よいしょっと。あ、思ったよりすごい軽いわ、この子たち」
さすがに食堂でこのまま寝かせておく訳にはいかないので、小鬼たちの部屋に運ぼうと持ち上げたら、思いがけない軽さで驚く。一体この軽さで食べたものはどこに消えたのか。冷蔵庫もブラックホールなら、小鬼たちの胃袋もブラックホールだ。
「まぁでも、これなら二人同時に余裕で運べそうね」
よいしょと両腕に茜と葵を抱えて、部屋に着いたら布団に二匹を並べて寝かせてやる。
ちなみに二匹の部屋はわたしの部屋がある本棟とは別の棟にあって、そこにはかつて大勢の眷属たちが住んでいたのだという。
今は茜と葵だけの寂しい状況だが、それでも変わらず二匹はこの別棟を住処としている。
「ふふ、こうして見ると口は生意気だけど、寝顔は本当に可愛いわね。この子たちってお互い似てるけど、兄弟とかなのかしら?」
閻魔様に生み出された眷属だというなら、兄弟と言って差し支えなさそうだけど、そうなると閻魔様はお父さん??
なんだか似合わない想像に、我ながらプッと笑ってしまう。
「んん……ぐおぉ」
「ぐー、むにゃむにゃ……」
「ぷっ、ふふ、柔らかい」
小鬼たちのまるっとした頬をプニプニつつきながら、頭に浮かぶのは閻魔様のことだ。
「閻魔様、牛乳寒天を見てなんて言うかしら?」
喜んでくれるだろうか?
それともまさか、小鬼たちみたいに警戒される?
ワクワクドキドキ。
こんな気持ち初めてのはずなのに、どこか懐かしい。
茜は閻魔様に声を掛けるのは一苦労だと言っていたが、昨日と同じ時間に渡り廊下で待っていたら会えるだろうか?
「早く閻魔様に食べてほしいな」
ポツンと呟いた言葉は、茜と葵のいびきにかき消された。
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