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体育祭の一幕。
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時は少し遡り、体育祭。星乃視点です。
~~~~~
「はぁ……はぁ……」
体育祭の昼休み。
あたしは渡り廊下でひとり、壁に寄りかかっていた。
身体が熱い。重い。思うように動かない。
額に手を当ててみる。
自分で触ってみても正直よく分からないが、熱があるんじゃないかと思う。
「あーもう、なんでこんな時に限って……」
午前中の競技までは、騙し騙し参加することができた。体調が悪いことなんて忘れるくらいに、むりやりテンションを上げて臨んでいた。
だけど昼休みになった途端、ギリギリで繋いでいたその糸は切れてしまったらしい。
「行かなきゃ……なのに……」
応援合戦の最終練習がもう始まっているはずだ。応援団である自分が行かないわけにはいかない。
浅間くんのダンスを見てあげないと……。それに、あの子のことも……。
「星乃先輩……?」
「……えっ?」
床をジッと見つめてしまっていた視線を上に向けると、そこにはたった今思い浮かべた男の子がいた。
「あ、あの、大丈夫ですか? ボ、ボク、先輩が遅いから探しに来て……その……」
あたふたと慌てて喋り出す男の子。相変わらず、人との話すのが得意ではないらしい。
でも、その仕草からはあたしのことを心配してくれているのがよく分かった。
クラスの子にむりやり応援団に立候補させられたらしい彼は、とても恥ずかしがり屋で引っ込み思案な男の子。
応援団なのに大きな声を出すこともできなくて。あたしが一緒に大声を出す練習をしていた。
浅間くんと同じ、白軍の問題児のひとり。
そして、あたしの可愛い可愛い後輩だ。
そんな彼に、あたしは笑って言う。
「探しに来てくれてありがとう後輩くん。あたしは大丈夫だから。さ、早く行こっか」
「えっ、で、でも先輩……体調悪いんじゃ……」
「あはは、そんなわけないって。今日は体育祭だよ? こんな日に風邪引くとか、そんなにバカじゃないよ。それに、あたしがいなきゃ勝てないでしょ?」
大丈夫。笑えてる。先輩らしく出来てる。
可愛い後輩の前だから。
少しくらいカッコつけても許してほしい。
「で、でも……」
「ほら、はやく行くよっ」
あたしは彼の手をとって走りだす。
そんなに心配そうな顔しないでよ。
大丈夫。大丈夫なんだよ。
君が、後輩くんが探しに来てくれたから。
カッコつけたいあたしはこんなにチカラが出たんだから。
君のおかげで、走り出せるんだから。
✳︎
なんとか、ここまで来た。
これから最終競技である「選抜リレー」が行われる。
両軍の点数に差はあまりない。だから、絶対にこのリレーは勝たなければならない。
あたしの走順はアンカーのひとつ前。
団長の夏目先輩にバトンを繋ぐのが、あたしの仕事。体育祭最後の仕事だ。
隣のレーンにいるのは、あまり話したことのない紅軍の女の子。
本当はここに藤咲さんがいるはずだったけど、彼女は怪我をしてしまった。
藤咲さんと競えないのは残念だ。
だけど、こう言っては性格が悪いと思うけれど。今のあたしにとっては好都合だった。
もう意識も朦朧として。ふらふらして。
立っているのもやっとだけど。
藤咲さんが相手じゃなければ。あたしはいつも通りに走ることさえできれば勝てるはずだから。
あと150m。グラウンド半周。
それを走りきれば終わり。
「ようしっ……!」
あたしは両手で頬を叩く。
白いハチマキをキツく結びなおす。
これで準備は完了。
そうして数分後、選抜リレーが始まった。
「星乃ちゃんっ、あとお願い!」
「任せて!」
バトンを受けとって走りだす。
辛いことに、リレーはデッドヒートを繰り広げていた。
ほぼ同時にバトンを受けとった、紅軍の女の子がすぐ隣にいる。
体育祭は最後の大盛り上がりを迎えていた。何を言ってるかはわからないけれど、応援の声がたくさん、たくさん聞こえる。
最初の100mは良かった。
あたしは紅軍を突き放して、一位に躍り出た。
あとはこのまま団長にバトンを託すだけ……!
だけど……気が抜けてしまったのだろうか。
膝がガクンと折れるのが分かった。
「えっ……?」
ヤバい。倒れる。転んだらもう、立ち上がれる気がしない。
頭が真っ白になった。
歓声ももう、まったく耳に入らない。
身体が悲鳴を上げていた。
もうダメだと叫んでいた。
負けるの?
あたしのせいで?
あたしが意地を張って。休もうとしなかったから。他の子にこの役目を譲っていれば……もしかしたら……。
負けたくない。
負けるわけにはいかない。
あたしのせいで負けるなんて、あってはならない。
団長のために、勝ちたかった。ずっと体育祭に参加できなかった団長に、勝ちを届けたかった。
藤咲さんとの勝負に勝ちたかった。
浅間くんと一緒に、たくさん練習した。
後輩くんとも、たくさん、たくさん練習した。
負けるわけにはいかないのに。
ここで負けたら、みんなが笑顔になれないのに。
あたしの身体は地面に落ちていく————。
「————星乃先輩!! 頑張れぇ!!!!」
「————っっ!!」
倒れる寸前、声が聞こえた。
ひどく上擦った声。ひっくり返って、裏声になっている。
すごくすごく、情けない声。
藤咲さんを助けた、浅間くんの声とは大違い。
でも、聞こえたから。
この大歓声の中。誰が何を叫んでいるかなんて、まったく分からないのに。
その声は、あたしに届いた。
応援してくれる人がいる。
それだけで人は、あたしは、いくらだってチカラが湧いてくるんだ。
「……大きな声、出せるじゃん。後輩くん」
グッと、足にチカラを込める。
なんとか体勢を立て直す。
そして走った。
無我夢中に。
厚い霧に覆われていた世界が、一気に晴れた。
「団長っ!!」
「よくやった。星乃くん」
「はい!」
優しく微笑む団長に、あたしは一位でバトンを繋いだ。
それから応援席の彼に向かって。
どびきりの笑顔で。Vサインを送った。
後のことを言う必要はないだろう。
高校2年。人生で一度きりの体育祭は終わりを告げた————。
~~~~~
「はぁ……はぁ……」
体育祭の昼休み。
あたしは渡り廊下でひとり、壁に寄りかかっていた。
身体が熱い。重い。思うように動かない。
額に手を当ててみる。
自分で触ってみても正直よく分からないが、熱があるんじゃないかと思う。
「あーもう、なんでこんな時に限って……」
午前中の競技までは、騙し騙し参加することができた。体調が悪いことなんて忘れるくらいに、むりやりテンションを上げて臨んでいた。
だけど昼休みになった途端、ギリギリで繋いでいたその糸は切れてしまったらしい。
「行かなきゃ……なのに……」
応援合戦の最終練習がもう始まっているはずだ。応援団である自分が行かないわけにはいかない。
浅間くんのダンスを見てあげないと……。それに、あの子のことも……。
「星乃先輩……?」
「……えっ?」
床をジッと見つめてしまっていた視線を上に向けると、そこにはたった今思い浮かべた男の子がいた。
「あ、あの、大丈夫ですか? ボ、ボク、先輩が遅いから探しに来て……その……」
あたふたと慌てて喋り出す男の子。相変わらず、人との話すのが得意ではないらしい。
でも、その仕草からはあたしのことを心配してくれているのがよく分かった。
クラスの子にむりやり応援団に立候補させられたらしい彼は、とても恥ずかしがり屋で引っ込み思案な男の子。
応援団なのに大きな声を出すこともできなくて。あたしが一緒に大声を出す練習をしていた。
浅間くんと同じ、白軍の問題児のひとり。
そして、あたしの可愛い可愛い後輩だ。
そんな彼に、あたしは笑って言う。
「探しに来てくれてありがとう後輩くん。あたしは大丈夫だから。さ、早く行こっか」
「えっ、で、でも先輩……体調悪いんじゃ……」
「あはは、そんなわけないって。今日は体育祭だよ? こんな日に風邪引くとか、そんなにバカじゃないよ。それに、あたしがいなきゃ勝てないでしょ?」
大丈夫。笑えてる。先輩らしく出来てる。
可愛い後輩の前だから。
少しくらいカッコつけても許してほしい。
「で、でも……」
「ほら、はやく行くよっ」
あたしは彼の手をとって走りだす。
そんなに心配そうな顔しないでよ。
大丈夫。大丈夫なんだよ。
君が、後輩くんが探しに来てくれたから。
カッコつけたいあたしはこんなにチカラが出たんだから。
君のおかげで、走り出せるんだから。
✳︎
なんとか、ここまで来た。
これから最終競技である「選抜リレー」が行われる。
両軍の点数に差はあまりない。だから、絶対にこのリレーは勝たなければならない。
あたしの走順はアンカーのひとつ前。
団長の夏目先輩にバトンを繋ぐのが、あたしの仕事。体育祭最後の仕事だ。
隣のレーンにいるのは、あまり話したことのない紅軍の女の子。
本当はここに藤咲さんがいるはずだったけど、彼女は怪我をしてしまった。
藤咲さんと競えないのは残念だ。
だけど、こう言っては性格が悪いと思うけれど。今のあたしにとっては好都合だった。
もう意識も朦朧として。ふらふらして。
立っているのもやっとだけど。
藤咲さんが相手じゃなければ。あたしはいつも通りに走ることさえできれば勝てるはずだから。
あと150m。グラウンド半周。
それを走りきれば終わり。
「ようしっ……!」
あたしは両手で頬を叩く。
白いハチマキをキツく結びなおす。
これで準備は完了。
そうして数分後、選抜リレーが始まった。
「星乃ちゃんっ、あとお願い!」
「任せて!」
バトンを受けとって走りだす。
辛いことに、リレーはデッドヒートを繰り広げていた。
ほぼ同時にバトンを受けとった、紅軍の女の子がすぐ隣にいる。
体育祭は最後の大盛り上がりを迎えていた。何を言ってるかはわからないけれど、応援の声がたくさん、たくさん聞こえる。
最初の100mは良かった。
あたしは紅軍を突き放して、一位に躍り出た。
あとはこのまま団長にバトンを託すだけ……!
だけど……気が抜けてしまったのだろうか。
膝がガクンと折れるのが分かった。
「えっ……?」
ヤバい。倒れる。転んだらもう、立ち上がれる気がしない。
頭が真っ白になった。
歓声ももう、まったく耳に入らない。
身体が悲鳴を上げていた。
もうダメだと叫んでいた。
負けるの?
あたしのせいで?
あたしが意地を張って。休もうとしなかったから。他の子にこの役目を譲っていれば……もしかしたら……。
負けたくない。
負けるわけにはいかない。
あたしのせいで負けるなんて、あってはならない。
団長のために、勝ちたかった。ずっと体育祭に参加できなかった団長に、勝ちを届けたかった。
藤咲さんとの勝負に勝ちたかった。
浅間くんと一緒に、たくさん練習した。
後輩くんとも、たくさん、たくさん練習した。
負けるわけにはいかないのに。
ここで負けたら、みんなが笑顔になれないのに。
あたしの身体は地面に落ちていく————。
「————星乃先輩!! 頑張れぇ!!!!」
「————っっ!!」
倒れる寸前、声が聞こえた。
ひどく上擦った声。ひっくり返って、裏声になっている。
すごくすごく、情けない声。
藤咲さんを助けた、浅間くんの声とは大違い。
でも、聞こえたから。
この大歓声の中。誰が何を叫んでいるかなんて、まったく分からないのに。
その声は、あたしに届いた。
応援してくれる人がいる。
それだけで人は、あたしは、いくらだってチカラが湧いてくるんだ。
「……大きな声、出せるじゃん。後輩くん」
グッと、足にチカラを込める。
なんとか体勢を立て直す。
そして走った。
無我夢中に。
厚い霧に覆われていた世界が、一気に晴れた。
「団長っ!!」
「よくやった。星乃くん」
「はい!」
優しく微笑む団長に、あたしは一位でバトンを繋いだ。
それから応援席の彼に向かって。
どびきりの笑顔で。Vサインを送った。
後のことを言う必要はないだろう。
高校2年。人生で一度きりの体育祭は終わりを告げた————。
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