人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード20

陽だまりと地図(5)

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 拳を握り締め、ユリアは力強く言い放った。

「あー……もう、そんな経ったのか」

 人狼のことや、仕事ですっかり忘れていたが、
 確かにそんな約束をしていた気がする。

「えっ? あれ!?
 なんだか反応、薄くありませんか!?」

「いや、そんなことねぇけど」

「そんなことありますよ!
 前のバンさんなら……
 僕が誘ったら、凄くエッチな顔でニヤッてしてくれたのに!」

「そんな顔してたか……?」

 多分にユリアの願望も入っている気がする。

「ってか、それで茶を一気飲みしたわけか」

「そりゃそうですよ。残したらもったいないじゃないですか。
 せっかくバンさんが淹れてくれたのに……」

 律儀なヤツだなあ、と感心していると、
 ユリアはオレに歩み寄って、こちらの顔を覗き込むようにした。

「それよりも、ですよ。やっぱり何かおかしいです。
 何処か心あらずと言いますか。
 僕はこんなに楽しみにしてたのに……」

 やがて彼は思案を巡らすようにしてから、
 ハッと勢い良く顔を上げた。

「もっ、もしかして、僕に飽きちゃったんですか……!?」

「飽きてねぇよ」

「本当ですか? 楽しみにしてました?」

「してた、してた」

 不安げにするユリアの頭を撫でてやるが、
 彼は、ジトッとオレを見つめてくる。

「……凄く軽くないですか」

「いつもと変わんねえけど」

 すっかり忘れていたなんて、口が裂けても言えない。
 オレは曖昧に笑って、ポリポリと頭をかく。

 すると、急に担ぎ上げられた。

「おわっ……! ちょ、ユリア!?」

「まあ……いいです。体に聞けば分かりますし」

 彼は大股でベッドに向かうと、オレを放った。

「お、おい……?」

「今日はバンさんは横になっててください。
 全部、僕がしますから」

 ユリアがオレの体を跨ぐと、
 ギシリとベッドが軋んだ音を立てた。

「ま、待て待て待て待て!」

 急いたようにシャツへと伸ばされた手を、
 オレは慌てて止めた。

「どうして待つの?……嫌?」

「嫌じゃねえよ。でも……」

 ユリアの記憶は、人狼にダダ漏れだ。
 ということはーー……

「でも?」

 鼻息荒く、ユリアが続きを促す。
 オレは言葉に詰まった。

 男娼時代の頃は、人前ですることなんて何度もあったし、
 それを拒絶することもなかった。
 むしろ金払いが良かった分、ノリノリでやってた気がする。

 それなのに、今のオレは……なんというか、イヤだと思っている。
 今更だ。ヤツの話しぶりから、今までのことは全部筒抜けだし、
 なんなら、ヤツにヤられたこともある。

 だけど、イヤだ。
 ……この感情は、なんなんだろう。

「やっぱり、嫌なんでしょう?」

 ユリアがしゅんと眉根を下げる。
 オレは彼から手を離すと、
 枕を引っ張り寄せ、顔の上に乗せた。

「……これなら、いいぞ」

「え……」

 ユリアが戸惑っているのが、声音で伝わってくる。

「ど、どうして顔隠すんですか!?」

「それは……」

「それは?」

「は…………恥ずかしい、から」

 オレは考えた末に、告げた。

 ――ムリがある。
 そんなことは自分で分かっている。

 今まで、躊躇いなど皆無で、しゃぶりついていたのに、
 急に羞恥心を訴え出すだなんて、
 ますますユリアの疑いを深めてしまうに決まって――

「ば、ばばばばば、バンさん……!
 どうしたんですか、そんな……そんな……っ、
 可愛らしいことっ……!」

 え?

「でも、でもですよ、そんなこと言われたら……
 その枕、なんとしてでも、どかしたくなっちゃいますから……!」

「わぁあっ!?」

 破く勢いでシャツのボタンを外され、ズボンを下着ごと引き抜かれた。

「安心してください。ムリにはしません」

 はぁはぁと荒い呼吸が耳に届いて、オレはギクリとした。
 たぶん、オレは……言葉の選択を誤った。

「任せてください。
 恥ずかしいだなんて、思わないくらい……気持ち良くします!!」
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