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エピソード25
セシルのカード(1)
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――ユリアへ。
元気にしていますか?
ボクとヴィンセントは海の見える街まで来ました。
この前、海を見たことないって言ってたでしょう?
ヴィンセントがこの街の風景が描かれた素敵なカードを買って来てくれたんです。
だから送ります。いつか、一緒にいろんな場所を旅出来たらいいですね……
ここまで書いて、ボクはふと羽ペンを止めた。
「……送るって、どうやって?」
鮮やかな青いカードを見下ろして、ひとりごちる。
絵の美しさに舞い上がって、
早速、ユリアに当てて手紙を書いたけれど、
そもそも送りつける方法がないことに気付いたのだ。
「あの森、招待されていないと入れないみたいだったし。
あ、でも、食べ物は届いてたから一応外とは繋がってるんだよね?
うーん、取引先の相手、聞いておけば良かった……」
ジジと、手元に置いていたランプから、
芯の燃える音が立つ。それに外の波の音が重なった。
ボクはペンのインクを落とすと、椅子から立ち上がる。
ベッド脇の窓を押し開ければ、湿った風が頬を撫でた。
満天の星空の下には、大きく黒い海が広がっていた。
夜の海はちょっと怖いと思う。
雨の日はもっと怖い。何本の稲光が砂浜や波に立つからだ。
ついでに、この辺りの風はベタついていて髪の毛がぺしゃんこになるし、
街の住人たちは無駄に陽気でうるさくて、お節介焼きばかりだった。
宿屋にいてもなんやかやと見知らぬ人間に声をかけられるから、
鬱陶しくて、ボクはヴィンセントに頼んで街から離れた岬の家を借りて貰った。
「なんとか出来ないかな。
ヴィンセントが帰ってきたら、相談してみるか……」
夜の眷属なら眷属らしく、
使い魔だとかいたら良かったのに。
死徒なんて、本当に動き回る死体でしかない。
まあ、臭くないだけマシだけど。
「せめて、ハルさんに手渡せればなあ」
「どうして僕?」
「だって、なんとなく瞬間移動とか出来そうだし……」
彼は旅していると言っていたから、
ひょんな場所で再会出来ないかな、なんてことを思ったわけだけど。
「――って、うわぁああ!? は、ははは、ハルさん!?」
ふと、声に振り返ったボクは、部屋の闇に溶けるようにして
ハルさんが立っているのに気付いて、腰を抜かしそうになった。
「ど、ど、ど、どうやってここに!? まさか、瞬間移動……」
「普通に玄関から入ったよ」
「え、でも、玄関には鍵が……」
「うん。壊した」
抑揚のない声で、彼は答える。
ボクは唇を引き攣らせた。
「あの……普通にチャイム鳴らしてくれれば、開けましたよ」
「中にいるのが分かったから」
そういう問題じゃないんだけど、
まあ、彼に言っても詮無いことかもしれない。
「ええと、ボクに何か用があった……ってこと、ですよね?
どうかしたんですか?
あ! ちょうどボクもあなたに渡したいものがあって……」
「それって、そこのカードのことかな」
ハルさんがちらりとデスクの上を見やる。
ボクは大きく頷いた。
「そうなんです! ちょうどユリアに書いていて。
でも送り方が分からなかったから、
ハルさんに届けて貰えたらなって思っていたんですよ」
「いいよ。その代わりに、僕のことを助けて欲しい」
ハルさんがゆっくりとこちらに近づいてくる。
空気が震えて、明かりが揺れた。
「手伝う? もちろんですよ!」
彼の雰囲気はいつもよりもずっと死の香りが濃くて、
何処か夜の海に似ていると思う。
「何でも言ってください!
ハルさんにもユリアにも、たくさんお世話になったし……」
「ありがとう。それじゃあ……
ヴィンセントに死んで貰いたいんだ」
元気にしていますか?
ボクとヴィンセントは海の見える街まで来ました。
この前、海を見たことないって言ってたでしょう?
ヴィンセントがこの街の風景が描かれた素敵なカードを買って来てくれたんです。
だから送ります。いつか、一緒にいろんな場所を旅出来たらいいですね……
ここまで書いて、ボクはふと羽ペンを止めた。
「……送るって、どうやって?」
鮮やかな青いカードを見下ろして、ひとりごちる。
絵の美しさに舞い上がって、
早速、ユリアに当てて手紙を書いたけれど、
そもそも送りつける方法がないことに気付いたのだ。
「あの森、招待されていないと入れないみたいだったし。
あ、でも、食べ物は届いてたから一応外とは繋がってるんだよね?
うーん、取引先の相手、聞いておけば良かった……」
ジジと、手元に置いていたランプから、
芯の燃える音が立つ。それに外の波の音が重なった。
ボクはペンのインクを落とすと、椅子から立ち上がる。
ベッド脇の窓を押し開ければ、湿った風が頬を撫でた。
満天の星空の下には、大きく黒い海が広がっていた。
夜の海はちょっと怖いと思う。
雨の日はもっと怖い。何本の稲光が砂浜や波に立つからだ。
ついでに、この辺りの風はベタついていて髪の毛がぺしゃんこになるし、
街の住人たちは無駄に陽気でうるさくて、お節介焼きばかりだった。
宿屋にいてもなんやかやと見知らぬ人間に声をかけられるから、
鬱陶しくて、ボクはヴィンセントに頼んで街から離れた岬の家を借りて貰った。
「なんとか出来ないかな。
ヴィンセントが帰ってきたら、相談してみるか……」
夜の眷属なら眷属らしく、
使い魔だとかいたら良かったのに。
死徒なんて、本当に動き回る死体でしかない。
まあ、臭くないだけマシだけど。
「せめて、ハルさんに手渡せればなあ」
「どうして僕?」
「だって、なんとなく瞬間移動とか出来そうだし……」
彼は旅していると言っていたから、
ひょんな場所で再会出来ないかな、なんてことを思ったわけだけど。
「――って、うわぁああ!? は、ははは、ハルさん!?」
ふと、声に振り返ったボクは、部屋の闇に溶けるようにして
ハルさんが立っているのに気付いて、腰を抜かしそうになった。
「ど、ど、ど、どうやってここに!? まさか、瞬間移動……」
「普通に玄関から入ったよ」
「え、でも、玄関には鍵が……」
「うん。壊した」
抑揚のない声で、彼は答える。
ボクは唇を引き攣らせた。
「あの……普通にチャイム鳴らしてくれれば、開けましたよ」
「中にいるのが分かったから」
そういう問題じゃないんだけど、
まあ、彼に言っても詮無いことかもしれない。
「ええと、ボクに何か用があった……ってこと、ですよね?
どうかしたんですか?
あ! ちょうどボクもあなたに渡したいものがあって……」
「それって、そこのカードのことかな」
ハルさんがちらりとデスクの上を見やる。
ボクは大きく頷いた。
「そうなんです! ちょうどユリアに書いていて。
でも送り方が分からなかったから、
ハルさんに届けて貰えたらなって思っていたんですよ」
「いいよ。その代わりに、僕のことを助けて欲しい」
ハルさんがゆっくりとこちらに近づいてくる。
空気が震えて、明かりが揺れた。
「手伝う? もちろんですよ!」
彼の雰囲気はいつもよりもずっと死の香りが濃くて、
何処か夜の海に似ていると思う。
「何でも言ってください!
ハルさんにもユリアにも、たくさんお世話になったし……」
「ありがとう。それじゃあ……
ヴィンセントに死んで貰いたいんだ」
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