人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード30

別れの詩(うた)

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 翌夜、オレたちはハルの言っていた古城へ移動した。
 そこは、本当に窓1つ無い真っ暗な空間で、
 こんなことでも無ければ絶対に足を踏み入れることはなかった場所だ。

 一見、かび臭く湿気ているのだろうと思われたが、
 不思議と空気は澄んでいた。
 小まめに掃除がされているお陰だろう。
 調度品1つとってもホコリの気配はなく、鼠もいなかった。

 数ヶ月分の食料と共に、オレたちは居住区に腰を落ち着けた。
 それから、ヴィンセントのケガが癒えるまで、
 オレとユリアは命がけの肉体労働に勤しんだ。
 つまり――古城の罠の確認だ。

 数週間かけて、一部屋一部屋、罠が生きているかどうかをチェックした。
 本来ならばオレは大人しくしているべきなのだろうが、
 人手が足りないのだから仕方ない。
 確認作業を終える頃には、オレはちょっとやつれていた……



「大丈夫か、バン」

 作業を終えて汗を流した朝、
 城の中をうろついていると、
 暗闇から現れたヴィンセントに声をかけられた。

「はは……さすがに疲れたわ」

「悪いな。全部、任せてしまって」

「なんで謝るんだよ。
 あんたは本番のために力を温存しておかねぇとだろ?」

「……そうだな」

 苦笑をこぼす。
 それからヴィンセントはオレの肩を軽く叩いた。

「お前も、今日くらいは1日ゆっくり休め。
 明日からは更に忙しくなる」

 ヴィンセントのケガも治り、
 後は、ここへ1月をおびき寄せるのみとなった。
 ハルの話によれば、翌日から1月に何やら仕掛けるらしい。
 ヤツがここへやって来るのはいつか、正確には分からなかったが、
 緊張した日々が続くことは確かだ。
 
「……分かってる」

 比較的、穏やかに過ごせる日は今日が最後だろう。

「そいや、さ。
 ……ユリアのこと見なかったか?」

 会話が切り上がる前に、
 オレはヴィンセントに尋ねた。

「ユリア? いや、見ていないが……」

「そうか。ありがと」

 ヴィンセントと別れると、オレはユリアを探して再び城の中を歩き回った。
 ロウソクの光が点々と続く真っ暗な廊下は、しんと冷えている。

 1月が現れたら、オレはヤツを倒すまでユリアに会えない。
 もしも作戦が失敗したら、先ほど作業の時に交わした
 事務的な会話が最後の言葉になってしまう。
 だから、その前に会いたかった。……触れたかった。
 もう心の整理は出来たからだ。

「部屋にもいねぇし……アイツ、どこ行ったんだよ……」

 小1時間ほどうろつき、オレは肩を落として自室を目指した。

 もしかしたら、ハルと話しているのかもしれない。
 少ししたら、また彼の部屋を訪ねてみよう。
 そんなことを考えながら、自室の扉を開く。
 すると――

「遅い。何処に行っていた?」

 声に顔をあげれば、
 ベッドで横になっていたシロが目に飛び込んでくる。

「シロ? なんで、お前……っ」

 歩み寄れば、シロは1度尻尾を振ってからベッドを下りた。
 そのまま、何も言わずオレを抱きしめてくる。

「……おい?」

「……」

 かかとが浮くほど、強く抱かれた。
 柔らかな毛に、鼻先がむずむずする。

「なんだよ? 何か用があるんじゃねぇの」

「……もう済んだ」

 シロは短く言った。
 ついでオレを腕の中から開放すると、ふいと顔を背け出入り口の方へ向かう。
 その腕をオレは両手で掴んだ。

「待てよ。
 ……お前、何か勝手なことしようとしてんな?」

「勝手? いちいち貴様にお伺いが必要なのか?」

「はぐらかすな。オレが気付かないとでも思ったのか?
 お前、自分が思うよりもずっとウソつけねぇタイプだぞ」

 腕を振り払われる。
 続いて、シロはオレを見下ろすと鼻に皺を寄せた。

「……1月との戦いの最中、不測の事態が起こっては命取りだ。
 身体に2人の主がいるのは、リスクでしかない」

「だから、なんだよ」

「……」

「……消えるつもりで、オレにお別れでも言いに来たってか?
 やっぱ勝手じゃねえか。
 ……あのな。ユリアもそんなこと望んでねぇだろ」

「アイツは腑抜けだからな。
 物事を合理的に考えられない」

「違ぇよ。
 お前が消える必要がないからしてねぇんだよ」

 オレはシロの前に回り込む。

「それに、お前が消えちまうのは……オレも困る」

 鋭い眼差しが、戸惑いに揺れる。
 オレはシロを見上げると、続けた。

「前に言ったよな。オレ。
 お前のこと、ユリアの一部として大切に思ってるって。
 あれ、撤回させて欲しい」

「撤回だと?」

「ああ。
 オレは……ユリアの一部としてじゃなくて、
 お前自身のことも、大切に思ってるから」
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