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chapter4
step.30-4 メイドとお邪魔者
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お店は先ほどよりも随分と静かになっていた。
限界まで酔っ払った人は所構わず寝ていて、理性的な人はちゃんと終電で帰ったようだ。
ニャン太さんとバイトふたりは、すでに片付けを始めていた。
「ニャン太、お酒買ってきたよ」
「おお~! ありあ――あれ……? なんでその人がここに?」
振り返ったニャン太さんが、将臣を見て眉根を寄せる。
「道端でたまたま会ったんだよ」
「ふぅん……?」
帝人さんの説明にニャン太さんが小首を傾げつつ、将臣に席を用意する。
腰を下ろした彼は、キョロキョロと辺りを見渡して呻いた。
「……おい、ここは動物園か何かか?」
「開口一番がそれってズイブンねぇ。はい、どうぞ。残り物で申し訳ないんだけど……」
と、カンナギさんが和やかに食事の乗ったプレートを運んでくる。
「……ち、痴女だ」
「あ……?」
「キレッキレっすね、彼。痴女て」
笑顔のまま青筋を浮かべる彼女に、コータくんさんがお腹を抱えて笑った。
「いいよいいよ~、もっと言ってやってくださーーあべし!」
言葉の途中でカンナギさんの拳がめり込む。
と、座り込んだコータくんさんに将臣が眉根を寄せた。
「ちょっと待てよ、そこの」
「痛つつつ……。あ、オレっすか?」
「お前、さてはニワカだな? ザコはあべしなんて言わねぇんだよ」
「お兄さん、オタクっすか」
「オタクじゃねぇよ! 教養だろ!」
ドンッとテーブルを叩く。
「それで、ええと……将臣くん、だっけ」
近くの椅子を引っ張ってきて、帝人さんが将臣の前に座った。
「とりあえず、君がさっき訊いてきた質問ふたつに応えようか」
足の間でゆるりと手を組み、穏やかな笑みを浮かべると彼は口を開く。
「伝くんはまだ類と付き合ってる。メイドは俺の趣味でも類のものでもない。今日はここで仮装パーティをしていたから着替えただけだ。……他に質問は?」
将臣は手にしていたプレートをテーブルに置くと、背もたれに身体を預けた。
足を広げて、腕を組み、帝人さんを睨みつける。
「……あんたは誰だよ。伝とどういう関係だ? 随分と親しげだったけど……大学の人間じゃないだろ」
「俺は類の恋人だよ」
「は……?」
間髪入れずに告げられた言葉に、将臣が口を半開きにした。
「あのヤロー、金髪の他にもいたってことか……!?」
バッと身体を起こすと、彼は僕を見た。
サッと目線を逸らす。……だって、前は説明するのが面倒だったんだ。どうせ、おかしいとか別れろしか言わないし。
「伝! さすがにおかしいって自分でも気付いてるんだろ!? いい加減、目を覚ませよ!」
「覚ますもなにも……おかしいなんて思っていないし」
視線はそのままに答える。
「ああ、クソ、やっぱお前、ぜってー洗脳されてる! アイツにしこたまエロいこと仕込まれて――」
「だから、洗脳なんてされてないってば!」
後半部分は否定できないけれども。
「なんで顔赤らめてんだよ」
「え? いや、そんなことは――」
「その通り!」
ハッとして顔を上げたのと、ニャン太さんが背後から抱きついてきたのは同時だった。
彼はちゅっと見せつけるように僕の耳朶にキスをすると、続けた。
「デンデンはボクらなしじゃ生きてけない、エッチな身体になっちゃったの!だからもう、デンデンのことは諦めてよ!」
「に、ニャン太さ……」
「ってか、キミひとりじゃデンデンのこと満足させるのはムリだから。こっちは4人いるわけだし!」
「4!? 3ではなく4!? どこまで増えてく気だ!?」
「どこまでって……初めからデンデンは類ちゃんの4人目の恋人だけど」
「――伝ッッッ!?」
僕は目線を彷徨わせてから、自身を両腕で抱きしめるようにして頷く。
「じ、事実、なのか。そんな……4人も相手に……くんずほぐれつだなんて……あの純朴な伝が……映画のキスシーンで顔真っ赤にして目を潤ませてた伝が……」
「今も変わらないけどね」とニャン太さん。
4人としたことはないが、この際、人数を訂正しても無意味なのでやめる。
将臣は額に手を当てると長い溜息をついた。
「……なあ、伝。こんなわけわかんねぇ奴らとツルんで、セックスしまくって、貴重な人生をムダにしていいわけがないんだ。お前には、ボロボロにされて捨てられて、ガバガバになったケツ自分で慰めるしかない未来が見えねぇのか?」
「見えないよ」
両手を広げて熱弁する彼に、僕は首を振る。
「あーそうだよな。DVされてるヤツとか、洗脳されてるヤツとか、被害者側は気付かないもんだって言うしな!クソ、俺がちんたらしているうちに伝が快楽漬けの肉便器にされちまった……っ」
彼の口に拳をご馳走したい。と思ったのは僕だけじゃなかったようで、僕を抱きしめるニャン太さんがピクリと反応した。
その時だ。
――笑顔で将臣を見つめる帝人さんからゾクリとする冷気を感じたのは。
長く不自然な間の後、彼は口を開いた。
「……君の言いたいことは、それだけかな?」
「……ああ」
低く頷く将臣に、彼はゆっくりと足を組む。
それから瞼を閉じると、スゥ、と息を吸い、次いで柔和な表情のまま将臣を見つめた。
「…………君さ、馬鹿にするのも大概にしてくれないかな。笑い出したくなるくらい不愉快なんだけど」
穏やかな声色だった。
けれどそれは、陽気で胡乱な店内の空気を一瞬で凍りつかせる力を持っていた。
限界まで酔っ払った人は所構わず寝ていて、理性的な人はちゃんと終電で帰ったようだ。
ニャン太さんとバイトふたりは、すでに片付けを始めていた。
「ニャン太、お酒買ってきたよ」
「おお~! ありあ――あれ……? なんでその人がここに?」
振り返ったニャン太さんが、将臣を見て眉根を寄せる。
「道端でたまたま会ったんだよ」
「ふぅん……?」
帝人さんの説明にニャン太さんが小首を傾げつつ、将臣に席を用意する。
腰を下ろした彼は、キョロキョロと辺りを見渡して呻いた。
「……おい、ここは動物園か何かか?」
「開口一番がそれってズイブンねぇ。はい、どうぞ。残り物で申し訳ないんだけど……」
と、カンナギさんが和やかに食事の乗ったプレートを運んでくる。
「……ち、痴女だ」
「あ……?」
「キレッキレっすね、彼。痴女て」
笑顔のまま青筋を浮かべる彼女に、コータくんさんがお腹を抱えて笑った。
「いいよいいよ~、もっと言ってやってくださーーあべし!」
言葉の途中でカンナギさんの拳がめり込む。
と、座り込んだコータくんさんに将臣が眉根を寄せた。
「ちょっと待てよ、そこの」
「痛つつつ……。あ、オレっすか?」
「お前、さてはニワカだな? ザコはあべしなんて言わねぇんだよ」
「お兄さん、オタクっすか」
「オタクじゃねぇよ! 教養だろ!」
ドンッとテーブルを叩く。
「それで、ええと……将臣くん、だっけ」
近くの椅子を引っ張ってきて、帝人さんが将臣の前に座った。
「とりあえず、君がさっき訊いてきた質問ふたつに応えようか」
足の間でゆるりと手を組み、穏やかな笑みを浮かべると彼は口を開く。
「伝くんはまだ類と付き合ってる。メイドは俺の趣味でも類のものでもない。今日はここで仮装パーティをしていたから着替えただけだ。……他に質問は?」
将臣は手にしていたプレートをテーブルに置くと、背もたれに身体を預けた。
足を広げて、腕を組み、帝人さんを睨みつける。
「……あんたは誰だよ。伝とどういう関係だ? 随分と親しげだったけど……大学の人間じゃないだろ」
「俺は類の恋人だよ」
「は……?」
間髪入れずに告げられた言葉に、将臣が口を半開きにした。
「あのヤロー、金髪の他にもいたってことか……!?」
バッと身体を起こすと、彼は僕を見た。
サッと目線を逸らす。……だって、前は説明するのが面倒だったんだ。どうせ、おかしいとか別れろしか言わないし。
「伝! さすがにおかしいって自分でも気付いてるんだろ!? いい加減、目を覚ませよ!」
「覚ますもなにも……おかしいなんて思っていないし」
視線はそのままに答える。
「ああ、クソ、やっぱお前、ぜってー洗脳されてる! アイツにしこたまエロいこと仕込まれて――」
「だから、洗脳なんてされてないってば!」
後半部分は否定できないけれども。
「なんで顔赤らめてんだよ」
「え? いや、そんなことは――」
「その通り!」
ハッとして顔を上げたのと、ニャン太さんが背後から抱きついてきたのは同時だった。
彼はちゅっと見せつけるように僕の耳朶にキスをすると、続けた。
「デンデンはボクらなしじゃ生きてけない、エッチな身体になっちゃったの!だからもう、デンデンのことは諦めてよ!」
「に、ニャン太さ……」
「ってか、キミひとりじゃデンデンのこと満足させるのはムリだから。こっちは4人いるわけだし!」
「4!? 3ではなく4!? どこまで増えてく気だ!?」
「どこまでって……初めからデンデンは類ちゃんの4人目の恋人だけど」
「――伝ッッッ!?」
僕は目線を彷徨わせてから、自身を両腕で抱きしめるようにして頷く。
「じ、事実、なのか。そんな……4人も相手に……くんずほぐれつだなんて……あの純朴な伝が……映画のキスシーンで顔真っ赤にして目を潤ませてた伝が……」
「今も変わらないけどね」とニャン太さん。
4人としたことはないが、この際、人数を訂正しても無意味なのでやめる。
将臣は額に手を当てると長い溜息をついた。
「……なあ、伝。こんなわけわかんねぇ奴らとツルんで、セックスしまくって、貴重な人生をムダにしていいわけがないんだ。お前には、ボロボロにされて捨てられて、ガバガバになったケツ自分で慰めるしかない未来が見えねぇのか?」
「見えないよ」
両手を広げて熱弁する彼に、僕は首を振る。
「あーそうだよな。DVされてるヤツとか、洗脳されてるヤツとか、被害者側は気付かないもんだって言うしな!クソ、俺がちんたらしているうちに伝が快楽漬けの肉便器にされちまった……っ」
彼の口に拳をご馳走したい。と思ったのは僕だけじゃなかったようで、僕を抱きしめるニャン太さんがピクリと反応した。
その時だ。
――笑顔で将臣を見つめる帝人さんからゾクリとする冷気を感じたのは。
長く不自然な間の後、彼は口を開いた。
「……君の言いたいことは、それだけかな?」
「……ああ」
低く頷く将臣に、彼はゆっくりと足を組む。
それから瞼を閉じると、スゥ、と息を吸い、次いで柔和な表情のまま将臣を見つめた。
「…………君さ、馬鹿にするのも大概にしてくれないかな。笑い出したくなるくらい不愉快なんだけど」
穏やかな声色だった。
けれどそれは、陽気で胡乱な店内の空気を一瞬で凍りつかせる力を持っていた。
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