16 / 102
16話 あなたも私を裏切るのね。
しおりを挟む
レオンがルーゴ伯爵領エレーラを離れて1ヶ月。
季節は夏に移り変わろうとしていた。
この間、レオンからは全く連絡が届かなかった。
かなりな無理難題を投げつけたためにレオンといえども手間取っているんだろうなとは想像できる。
(責任は私にあるものね。だけど)
じれじれと待っているだけの自分に少しくらい気を遣ってもらってもいいんじゃないかと思う。
政略的であっても私は婚約者なのだ。
ほったらかすにも程ってものがある。
「便りがないのは順調なのでしょう。お嬢様はゆったりと構えていらっしゃればよろしいのです」とビカリオ夫人は朝食用のスープをテーブルに置いた。
「事故に遭われてから子爵はずっとお嬢様のそばにいらっしゃいましたし……。もしかしてお一人だとお寂しいのですか?」
「どうかしら」
と関心がないと装ったものの、ビカリオ夫人の言葉が胸にきた。
(言葉にしてみると、そうね。レオンの顔が見れないのは寂しいのかもしれない)
事故に遭いフェリシアに成り代わってからレオンはしばらく私のそばにいてくれた。
不安でたまらなかった時に慰め支えてくれていたのは、血の繋がった家族ではなくビカリオ夫人とレオンだけだったのだ。
(エリアナの時も、あんなに親切な人はいなかったもの……)
政略結婚の相手に対しても自然と思いやりをみせることが出来るのは、ある種の才能だろう。
さすが社交界の女性が夢中になるだけはある。
(だけど)
私はそっと唇に触れる。
(去り際にあんなことされて、気にかけないなんて出来ないでしょ……)
二人の関係が良好だということを周囲にアピールするためのスキンシップや頬や額へのキス程度は許容できる。
でも二人だけの時に唇に……は反則だ。
しかもとても優しかったときた。
(私たちの関係は商売だって言いながらサラッとやっちゃうんだから。勘違いしてしまう)
怖い。
フェリシアとの間には友情しかないと言っていたが、このままレオンが親密な態度、例えそれが演技であったとしてもとり続けでもしたら私は突き放すことができるのだろうか。
(多分、無理ね)
私はきっと惹かれてしまうだろう。
レオンは優れた容姿の持ち主。しかも地位もお金も持っている。
女性ならば誰でもときめいてしまうはずだ。
けれど絶対にそうなってはいけない。
(私の目標を忘れてはいけないわ)
かつての家族に復讐をする。
そのためにはレオンは商売のパートナーであるべきなのだ。特別な感情を抱いてはならない。弱点を作ってはいけない。
(レオンに心許さない)
強く自分を持っておこう。
私はフェリシアではない。エリアナなのだから。
「お食事中、申し訳ございません」
スープが終わりパンに手をかけようとした時、ビカリオ夫人が私に耳打ちした。
「カロリーナ様がまたいらっしゃいました。いかがなさいますか?」
(どうせ大した用じゃないんだろうけど。勘弁して欲しいわ)
なにせ朝早い上に朝食の途中なのだ。
ゆっくりしたい時間ではないか……。
正直面倒くさい。
「フェリシア。私が来たのよ。どうして迎えがないのかしら。これだから平民は嫌だわ」
カロリーナは元気一杯に嫌味を放つ。
今日も絶好調だ。
「不躾なのはお貴族様のカロリーナお姉様の方ではないですか。約束もなく朝1番に人の部屋に押しかけるなんて正気とは思えませんが?」
淑女に訪問予約は必須でしょうに。
「……なんて口の利き方するの。あなたますます酷くなってるわよ。平民云々よりも女性としてどうなのかしら。あの時、死んだ方がルーゴの為に良かったと思わない?」
「いいえ。全く思いません」
(あぁ面倒くさすぎる)
伯爵との面会の後、私は家族の食事に招かれるようになっていた。
伯爵のサグント侯爵令息の婚約者への配慮ということらしい。
まだ家族として認められたわけではないので、居心地の良いものではないけれど、弱みを握られることを避けるために嫌なそぶりを見せず参加していた。
だがそれが裏目に出た。
カロリーナが何かと絡んでくるようになったのだ。
わざわざ私の元へ現れては暴言を吐き、時には使用人に折檻することもあった。
狙っていたレオンに手ひどく振られたストレス解消のいいはけ口とでも思われているのだろう。
(かといって簡単にはやられる気もないけどね)
フェリシアならば言い返すこともできず泣き寝入りするだろうが、私はフェリシアとは違う。
必要以上に摩擦がおこらないように注意しつつ、三度に一度程度で返り討つようにしていた。
(できれば昼間にして欲しかったわ……)
朝はゆっくり過ごしたいではないか。
「それでお姉様はこの堆肥臭い荒屋に何の御用事でいらっしゃったのです? まさか私をいびるためではないでしょう?」
カロリーナは小馬鹿にしたように私を見下し、
「そういえばあなた、レオンから連絡がないんですってね」
「レオン様は立場のある方ですから、お忙しいのです。お姉様のように暇ではないのです」
「ふふふ。強がっちゃって滑稽ね」
手にしていた新聞を広げカロリーナは私に突き付けた。
「この記事、ご覧なさいよ。かわいそうにね、フェリシア。レオンの婚約者になれたと思ったのにねぇ?」
インクの臭いがする真新しい新聞の紙面を食い入るように見つめる。
一面にでかでかと載せられたタイトルには、
『サグント侯爵嗣子・アンドーラ子爵レオン・マッサーナ氏ついに婚約を発表。お相手はリェイダ男爵令嬢!』
とあった。
「やっぱり遊ばれてたのね! そうだと思ってたわ。レオンがあなたを選ぶなんてあり得ないのよ。あなたは捨てられたのよ、フェリシア。ほんといい気味!!」
カロリーナの侮蔑に満ちた言葉も何一つ私には聞こえなかった。
リェイダ男爵令嬢?
初めて聞く名だ。
レオンは利用価値のない私を捨てて乗り換えるのだろうか……。
私を捨てるのね。レオン。
季節は夏に移り変わろうとしていた。
この間、レオンからは全く連絡が届かなかった。
かなりな無理難題を投げつけたためにレオンといえども手間取っているんだろうなとは想像できる。
(責任は私にあるものね。だけど)
じれじれと待っているだけの自分に少しくらい気を遣ってもらってもいいんじゃないかと思う。
政略的であっても私は婚約者なのだ。
ほったらかすにも程ってものがある。
「便りがないのは順調なのでしょう。お嬢様はゆったりと構えていらっしゃればよろしいのです」とビカリオ夫人は朝食用のスープをテーブルに置いた。
「事故に遭われてから子爵はずっとお嬢様のそばにいらっしゃいましたし……。もしかしてお一人だとお寂しいのですか?」
「どうかしら」
と関心がないと装ったものの、ビカリオ夫人の言葉が胸にきた。
(言葉にしてみると、そうね。レオンの顔が見れないのは寂しいのかもしれない)
事故に遭いフェリシアに成り代わってからレオンはしばらく私のそばにいてくれた。
不安でたまらなかった時に慰め支えてくれていたのは、血の繋がった家族ではなくビカリオ夫人とレオンだけだったのだ。
(エリアナの時も、あんなに親切な人はいなかったもの……)
政略結婚の相手に対しても自然と思いやりをみせることが出来るのは、ある種の才能だろう。
さすが社交界の女性が夢中になるだけはある。
(だけど)
私はそっと唇に触れる。
(去り際にあんなことされて、気にかけないなんて出来ないでしょ……)
二人の関係が良好だということを周囲にアピールするためのスキンシップや頬や額へのキス程度は許容できる。
でも二人だけの時に唇に……は反則だ。
しかもとても優しかったときた。
(私たちの関係は商売だって言いながらサラッとやっちゃうんだから。勘違いしてしまう)
怖い。
フェリシアとの間には友情しかないと言っていたが、このままレオンが親密な態度、例えそれが演技であったとしてもとり続けでもしたら私は突き放すことができるのだろうか。
(多分、無理ね)
私はきっと惹かれてしまうだろう。
レオンは優れた容姿の持ち主。しかも地位もお金も持っている。
女性ならば誰でもときめいてしまうはずだ。
けれど絶対にそうなってはいけない。
(私の目標を忘れてはいけないわ)
かつての家族に復讐をする。
そのためにはレオンは商売のパートナーであるべきなのだ。特別な感情を抱いてはならない。弱点を作ってはいけない。
(レオンに心許さない)
強く自分を持っておこう。
私はフェリシアではない。エリアナなのだから。
「お食事中、申し訳ございません」
スープが終わりパンに手をかけようとした時、ビカリオ夫人が私に耳打ちした。
「カロリーナ様がまたいらっしゃいました。いかがなさいますか?」
(どうせ大した用じゃないんだろうけど。勘弁して欲しいわ)
なにせ朝早い上に朝食の途中なのだ。
ゆっくりしたい時間ではないか……。
正直面倒くさい。
「フェリシア。私が来たのよ。どうして迎えがないのかしら。これだから平民は嫌だわ」
カロリーナは元気一杯に嫌味を放つ。
今日も絶好調だ。
「不躾なのはお貴族様のカロリーナお姉様の方ではないですか。約束もなく朝1番に人の部屋に押しかけるなんて正気とは思えませんが?」
淑女に訪問予約は必須でしょうに。
「……なんて口の利き方するの。あなたますます酷くなってるわよ。平民云々よりも女性としてどうなのかしら。あの時、死んだ方がルーゴの為に良かったと思わない?」
「いいえ。全く思いません」
(あぁ面倒くさすぎる)
伯爵との面会の後、私は家族の食事に招かれるようになっていた。
伯爵のサグント侯爵令息の婚約者への配慮ということらしい。
まだ家族として認められたわけではないので、居心地の良いものではないけれど、弱みを握られることを避けるために嫌なそぶりを見せず参加していた。
だがそれが裏目に出た。
カロリーナが何かと絡んでくるようになったのだ。
わざわざ私の元へ現れては暴言を吐き、時には使用人に折檻することもあった。
狙っていたレオンに手ひどく振られたストレス解消のいいはけ口とでも思われているのだろう。
(かといって簡単にはやられる気もないけどね)
フェリシアならば言い返すこともできず泣き寝入りするだろうが、私はフェリシアとは違う。
必要以上に摩擦がおこらないように注意しつつ、三度に一度程度で返り討つようにしていた。
(できれば昼間にして欲しかったわ……)
朝はゆっくり過ごしたいではないか。
「それでお姉様はこの堆肥臭い荒屋に何の御用事でいらっしゃったのです? まさか私をいびるためではないでしょう?」
カロリーナは小馬鹿にしたように私を見下し、
「そういえばあなた、レオンから連絡がないんですってね」
「レオン様は立場のある方ですから、お忙しいのです。お姉様のように暇ではないのです」
「ふふふ。強がっちゃって滑稽ね」
手にしていた新聞を広げカロリーナは私に突き付けた。
「この記事、ご覧なさいよ。かわいそうにね、フェリシア。レオンの婚約者になれたと思ったのにねぇ?」
インクの臭いがする真新しい新聞の紙面を食い入るように見つめる。
一面にでかでかと載せられたタイトルには、
『サグント侯爵嗣子・アンドーラ子爵レオン・マッサーナ氏ついに婚約を発表。お相手はリェイダ男爵令嬢!』
とあった。
「やっぱり遊ばれてたのね! そうだと思ってたわ。レオンがあなたを選ぶなんてあり得ないのよ。あなたは捨てられたのよ、フェリシア。ほんといい気味!!」
カロリーナの侮蔑に満ちた言葉も何一つ私には聞こえなかった。
リェイダ男爵令嬢?
初めて聞く名だ。
レオンは利用価値のない私を捨てて乗り換えるのだろうか……。
私を捨てるのね。レオン。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる