48 / 102
48話 覚悟はいい? お父様。
しおりを挟む
「セラノ様!」
背後から苛立ちと焦りの混ざった声がする。
(やっぱり来たのね)
振り返らなくともわかる。
お父様だ。
「何かご用ですか? オヴィリオさん」
お父様は使用人に呼ばれ走ってきたのか、うっすらと額に汗を浮かべ肩で息をしている。
「使用人からセラノ様とアンドーラ子爵様がこちらの部屋へ入室したと報告を受けまして、駆け付けたのです。もしや……」
お父様は私の右手親指の指輪を凝視し、
「それは盟約の証ではありませんか! あなたが継承したのですかっ!?」
「ええ。そうです」
私は右手を掲げる。
陽の光を受けサファイアの碧い輝きと彫金の設えが神々しいほどに輝いた。
お父様は顔を歪め、
「この部屋にはヨレンテの当主しか入ることはできないはずです」
「オヴィリオさんの仰る通り、この部屋は爵位を継げるヨレンテの者しか入れないわ」
「では、どうしてあなたが!! ルーゴの私生児であるあなたが、解錠の方法を知っているのです??」
理由は一つしかないのだが。
ここで私のことを明かしてみたらどうなるだろう?
試してみてもいいかもしれない。
「私がエリアナだからです」
「は????」
時が止まったかのようにお父様は硬直する。
しばらくーー実際のところはほんの数秒だったと思うがーーして、ようやく地を這うような呻き声をもらした。
「セラノ様。エリアナは私の死んだ娘です。数ヶ月前に死んだのです。あなたはご自身が何をおっしゃっていらっしゃるのかお分かりですか? あなたがエリアナですって? ひどい嘘だ。娘を愚弄するのはおやめ下さい。お戯れが過ぎます」
お父様は頭を抱え、愛娘を失い傷ついた父親を演じる。
眉を下げ涙を浮かべるその姿に、なんと愛情が深い父親なのだと見知らぬ者は思うだろう。
けれど。
(なんて茶番。その手で殺めたのに)
殺された張本人としてはその白々しい姿には不快感しかない。
(でも普通はこうだよねぇ……。私は見た目はフェリシアなんだもの。エリアナだって信じれるはずもないわ)
そもそも転生や憑依なんてこの国の価値観ではないのだから。
すぐに信じてくれたレオンは特別なのだ。
とうのレオンはというとお父様の態度に若干苛立ったのか、私の腰に腕を回し、ひたすら険しい表情で睨みつけている。
「なぁオヴィリオ。お前は私の婚約者が嘘を言っている、気狂いとでもいうのか?」
お父様は慌てて否定する。
「ただ死んだ娘と一度も面識の無いフェリシア様が『領主の間』を開封したことに驚いているのです」
上位貴族の怒りをこれ以上買わないようにと、お父様は言葉を選びながら続けた。
『領主の間』で行われる秘義は当主にしか伝えられない。言わば一子相伝だ。
六代女伯爵セナイダ・ヨレンテの配偶者でさえ知らないことなのだ。
「それをなぜフェリシア様がご存じなのですか??」
またこの問答か……と少々うんざりする。
でも私から仕掛けた以上、付き合うしかないのだが。
「オヴィリオさん。だから申し上げましたよね? 私がエリアナだと。エリアナの記憶があるのですよ」
「馬鹿馬鹿しい! あなたはエリアナではない!」
お父様は即座に打ち消した。
愛おしい娘は森の中の領主の墓で眠っている。
「あなたはフェリシアだ! 断じて私の娘ではない!!」
「ですから。エリアナの魂がフェリシアの体に宿ったのです。つまりは私は五代ウェステ伯の子フェリシアであり六代ウェステ女伯の子エリアナであるということです」
淡々と説明するが、きっと聞き入れられないだろう。
私がお父様だとしても荒唐無稽すぎて信じない。
(全部本当のことだけど)
真実は奇なりとは良く言ったものだ。
だがこれ以上は時間も労力も無駄だ。
「信じるか信じないかは、オヴィリオさん、あなたにお任せします。けれど」
私はわざとらしくお父様の顔前に印章と指輪をかざした。
「現実として伯爵の証が私の手にあるということは認めてくださらないと困りますわ」
そう、マンティーノスもウェステ伯爵位も私のものだ。
正当な後継者は、この世でただ一人。
このフェリシア・セラノだけだ。
(お父様。覚悟しなさい)
復讐のために、あの御方の御力で戻ってきた私だけのものなのだ。
背後から苛立ちと焦りの混ざった声がする。
(やっぱり来たのね)
振り返らなくともわかる。
お父様だ。
「何かご用ですか? オヴィリオさん」
お父様は使用人に呼ばれ走ってきたのか、うっすらと額に汗を浮かべ肩で息をしている。
「使用人からセラノ様とアンドーラ子爵様がこちらの部屋へ入室したと報告を受けまして、駆け付けたのです。もしや……」
お父様は私の右手親指の指輪を凝視し、
「それは盟約の証ではありませんか! あなたが継承したのですかっ!?」
「ええ。そうです」
私は右手を掲げる。
陽の光を受けサファイアの碧い輝きと彫金の設えが神々しいほどに輝いた。
お父様は顔を歪め、
「この部屋にはヨレンテの当主しか入ることはできないはずです」
「オヴィリオさんの仰る通り、この部屋は爵位を継げるヨレンテの者しか入れないわ」
「では、どうしてあなたが!! ルーゴの私生児であるあなたが、解錠の方法を知っているのです??」
理由は一つしかないのだが。
ここで私のことを明かしてみたらどうなるだろう?
試してみてもいいかもしれない。
「私がエリアナだからです」
「は????」
時が止まったかのようにお父様は硬直する。
しばらくーー実際のところはほんの数秒だったと思うがーーして、ようやく地を這うような呻き声をもらした。
「セラノ様。エリアナは私の死んだ娘です。数ヶ月前に死んだのです。あなたはご自身が何をおっしゃっていらっしゃるのかお分かりですか? あなたがエリアナですって? ひどい嘘だ。娘を愚弄するのはおやめ下さい。お戯れが過ぎます」
お父様は頭を抱え、愛娘を失い傷ついた父親を演じる。
眉を下げ涙を浮かべるその姿に、なんと愛情が深い父親なのだと見知らぬ者は思うだろう。
けれど。
(なんて茶番。その手で殺めたのに)
殺された張本人としてはその白々しい姿には不快感しかない。
(でも普通はこうだよねぇ……。私は見た目はフェリシアなんだもの。エリアナだって信じれるはずもないわ)
そもそも転生や憑依なんてこの国の価値観ではないのだから。
すぐに信じてくれたレオンは特別なのだ。
とうのレオンはというとお父様の態度に若干苛立ったのか、私の腰に腕を回し、ひたすら険しい表情で睨みつけている。
「なぁオヴィリオ。お前は私の婚約者が嘘を言っている、気狂いとでもいうのか?」
お父様は慌てて否定する。
「ただ死んだ娘と一度も面識の無いフェリシア様が『領主の間』を開封したことに驚いているのです」
上位貴族の怒りをこれ以上買わないようにと、お父様は言葉を選びながら続けた。
『領主の間』で行われる秘義は当主にしか伝えられない。言わば一子相伝だ。
六代女伯爵セナイダ・ヨレンテの配偶者でさえ知らないことなのだ。
「それをなぜフェリシア様がご存じなのですか??」
またこの問答か……と少々うんざりする。
でも私から仕掛けた以上、付き合うしかないのだが。
「オヴィリオさん。だから申し上げましたよね? 私がエリアナだと。エリアナの記憶があるのですよ」
「馬鹿馬鹿しい! あなたはエリアナではない!」
お父様は即座に打ち消した。
愛おしい娘は森の中の領主の墓で眠っている。
「あなたはフェリシアだ! 断じて私の娘ではない!!」
「ですから。エリアナの魂がフェリシアの体に宿ったのです。つまりは私は五代ウェステ伯の子フェリシアであり六代ウェステ女伯の子エリアナであるということです」
淡々と説明するが、きっと聞き入れられないだろう。
私がお父様だとしても荒唐無稽すぎて信じない。
(全部本当のことだけど)
真実は奇なりとは良く言ったものだ。
だがこれ以上は時間も労力も無駄だ。
「信じるか信じないかは、オヴィリオさん、あなたにお任せします。けれど」
私はわざとらしくお父様の顔前に印章と指輪をかざした。
「現実として伯爵の証が私の手にあるということは認めてくださらないと困りますわ」
そう、マンティーノスもウェステ伯爵位も私のものだ。
正当な後継者は、この世でただ一人。
このフェリシア・セラノだけだ。
(お父様。覚悟しなさい)
復讐のために、あの御方の御力で戻ってきた私だけのものなのだ。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
短編集
天冨 七緒
恋愛
異世界の
ざまぁ
逆転劇
ヒロイン潰し
婚約解消後の男共
などの短編集。
一作品、十万文字に満たない話。
一話完結から中編まであります。
長編で読んでみたい作品などありましたら、コメント欄で教えて頂きたいです。
よろしくお願いします。
本当に現実を生きていないのは?
朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。
だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。
だって、ここは現実だ。
※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる