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第4章:婚約しちゃいました!
57.え、ちょっとそこまでです!
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「それだけ? ねぇ、ダイナ。俺のこの傷心をごめんなさい一言で済ますんだ? 大切な相手に身に覚えもないことを疑われたのに、たった一言だけ?」
オーウェンは身を乗り出し、
「俺、仕事中だったんだよね。そりゃライトの跡取りだからね、多少は好きに動けるからさ、不意にこうしてダイナが訪ねてきたって対応ができたんだけど。でも仕事は滞っちゃうわけだ。あぁ、俺って可哀想じゃない?」
「あ、あのね、その……私」
私は目を伏せました。
オーウェンが侍従の仕事を辞めライト家に戻るのと入れ替わりで、私はイーディス様について王宮の離宮に上がりました。
王宮勤めは大変とか忙しいなどといったイメージがありますが、実際は侯爵家に勤めていた時よりもずいぶん余裕があります。
イーディス様のお住まいの離宮がこぢんまりとしている、ということもありますが、理由は別にあります。
なんと侯爵邸の1.5倍もの人員が配置されているのです!
さすが王家といったところです。
人手が多いと、一人の担う仕事量は減りますよね。
ですので、今はそれなりに休みが取れます。
しかも私はイーディス様付き侍女のナンバー2(出世したんです!)。
用事があるので午後は抜けます!も以前に比べて、比較的にしやすいのです。
今日もそんな感じで、ライト家を訪問しちゃったわけです。
連絡なしの訪問はどうかなって思いましたが、思いを止めることはできませんでした。
でも、貴族の社会では事前連絡なしでの呼び出しは、あまり褒められることではありません。
お互い責任のある立場ですし、仕事の都合ってものがありますしね。
ここは完全に私の不手際です。
「ごめんね、オーウェン。私の我儘で無理させちゃったね。次から忙しかったら断ってくれて良いから」
「はぁ……。違うよ、ダイナ。そんな言葉が聞きたいわけじゃない」
オーウェンはため息をつきました。
そして私の頬を手の甲で撫で、期待に満ちた瞳で私を見つめます。
……わかってます。
ここで言うべき言葉くらい。
ただ照れ臭いだけです。
6回も転生していても、何度体験していても、これは慣れません……。
「ありがとう、オーウェン。あなたに会えて嬉しい。仕事も忙しいのに、何よりも優先してくれて、私のわがままに付き合ってくれた。本当に幸せよ。あなたのことが好きよ。……誰よりも愛おしく思うわ」
「……最初っからそう言ってくれたら、ねぇ?」
オーウェンは満面の笑みを浮かべ、私の首筋に顔を埋めます。
――あれ?
なんとなくですが、オーウェンの右手が不穏な動きをしているような……。
胸元になんとな……いいえ、確信です!!!
「ちょ、オーウェン、ね、うん。ちょっとストップ! これ以上はだめ。ね!」
私は全力でオーウェンを押し離します。
と同時に、視界の隅にもぞりと動く影が!
振り返ると、オーウェンの秘書であり補佐役の男性が、申し訳なさそうに小さくなって佇んでいます。
「人がいるわ。ね、オーウェン!」
ほんのちょっぴり涙が出そうです。
見られてしまいました。恥ずかしすぎる。
オーウェンはライト家の唯一の後継者ですが、敵対する者も多く、護衛やら秘書官やらが常について回っています。
当然、私と会う時も例外ではありません。
どこかしらにいるわけで。
すっかり忘れていましたが。
「えー。俺は気にしないけど」
「……私は気にするわ」
「見せつけてやれば良いじゃん」
そういうわけには!!
貴族や富裕層っていうのは羞恥心なんてものが、私のような庶民とズレていることも多々あります(貴族が恥を感じるのは自分よりも身分の上の者だけ、という考えも現代でも残っています。じゃなきゃ召使いにトイレのお世話をさせませんよね)。
ですから、主人があれやこれやを召使いの前でやらかすことも、なくはないのです。
けれどオーウェンはその生い立ちから、貴族としてではなく庶民として育てられましたから、基本的には私と感覚が変わらないはずなのですが……。
「オーウェン。わざとでしょ」
「当然。なんでダイナのかわいい姿を目的もなく他の男に見せなきゃいけないんだ?」
「じゃあ、なんで……」
「ダイナ、秘書官は祖父さんの手の者だ」
オーウェンは私の唇に軽くキスをし、抱き寄せます。
「祖父さんは、孫息子の結婚相手こそは間違いのない女性を選ぼうと躍起になってるんだ。娘と同じ過ちは繰り返させないってね」
んなことさせるか、とオーウェンはつぶやきました。
オーウェンは身を乗り出し、
「俺、仕事中だったんだよね。そりゃライトの跡取りだからね、多少は好きに動けるからさ、不意にこうしてダイナが訪ねてきたって対応ができたんだけど。でも仕事は滞っちゃうわけだ。あぁ、俺って可哀想じゃない?」
「あ、あのね、その……私」
私は目を伏せました。
オーウェンが侍従の仕事を辞めライト家に戻るのと入れ替わりで、私はイーディス様について王宮の離宮に上がりました。
王宮勤めは大変とか忙しいなどといったイメージがありますが、実際は侯爵家に勤めていた時よりもずいぶん余裕があります。
イーディス様のお住まいの離宮がこぢんまりとしている、ということもありますが、理由は別にあります。
なんと侯爵邸の1.5倍もの人員が配置されているのです!
さすが王家といったところです。
人手が多いと、一人の担う仕事量は減りますよね。
ですので、今はそれなりに休みが取れます。
しかも私はイーディス様付き侍女のナンバー2(出世したんです!)。
用事があるので午後は抜けます!も以前に比べて、比較的にしやすいのです。
今日もそんな感じで、ライト家を訪問しちゃったわけです。
連絡なしの訪問はどうかなって思いましたが、思いを止めることはできませんでした。
でも、貴族の社会では事前連絡なしでの呼び出しは、あまり褒められることではありません。
お互い責任のある立場ですし、仕事の都合ってものがありますしね。
ここは完全に私の不手際です。
「ごめんね、オーウェン。私の我儘で無理させちゃったね。次から忙しかったら断ってくれて良いから」
「はぁ……。違うよ、ダイナ。そんな言葉が聞きたいわけじゃない」
オーウェンはため息をつきました。
そして私の頬を手の甲で撫で、期待に満ちた瞳で私を見つめます。
……わかってます。
ここで言うべき言葉くらい。
ただ照れ臭いだけです。
6回も転生していても、何度体験していても、これは慣れません……。
「ありがとう、オーウェン。あなたに会えて嬉しい。仕事も忙しいのに、何よりも優先してくれて、私のわがままに付き合ってくれた。本当に幸せよ。あなたのことが好きよ。……誰よりも愛おしく思うわ」
「……最初っからそう言ってくれたら、ねぇ?」
オーウェンは満面の笑みを浮かべ、私の首筋に顔を埋めます。
――あれ?
なんとなくですが、オーウェンの右手が不穏な動きをしているような……。
胸元になんとな……いいえ、確信です!!!
「ちょ、オーウェン、ね、うん。ちょっとストップ! これ以上はだめ。ね!」
私は全力でオーウェンを押し離します。
と同時に、視界の隅にもぞりと動く影が!
振り返ると、オーウェンの秘書であり補佐役の男性が、申し訳なさそうに小さくなって佇んでいます。
「人がいるわ。ね、オーウェン!」
ほんのちょっぴり涙が出そうです。
見られてしまいました。恥ずかしすぎる。
オーウェンはライト家の唯一の後継者ですが、敵対する者も多く、護衛やら秘書官やらが常について回っています。
当然、私と会う時も例外ではありません。
どこかしらにいるわけで。
すっかり忘れていましたが。
「えー。俺は気にしないけど」
「……私は気にするわ」
「見せつけてやれば良いじゃん」
そういうわけには!!
貴族や富裕層っていうのは羞恥心なんてものが、私のような庶民とズレていることも多々あります(貴族が恥を感じるのは自分よりも身分の上の者だけ、という考えも現代でも残っています。じゃなきゃ召使いにトイレのお世話をさせませんよね)。
ですから、主人があれやこれやを召使いの前でやらかすことも、なくはないのです。
けれどオーウェンはその生い立ちから、貴族としてではなく庶民として育てられましたから、基本的には私と感覚が変わらないはずなのですが……。
「オーウェン。わざとでしょ」
「当然。なんでダイナのかわいい姿を目的もなく他の男に見せなきゃいけないんだ?」
「じゃあ、なんで……」
「ダイナ、秘書官は祖父さんの手の者だ」
オーウェンは私の唇に軽くキスをし、抱き寄せます。
「祖父さんは、孫息子の結婚相手こそは間違いのない女性を選ぼうと躍起になってるんだ。娘と同じ過ちは繰り返させないってね」
んなことさせるか、とオーウェンはつぶやきました。
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