11 / 12
第11話:ゴブリンとユニークモンスター
しおりを挟む洞窟の奥から響いてきた女性の悲鳴と獣の雄叫び。
それを聞いたシーラは、一瞬硬直したかと思うと、次の瞬間には駆け出していた。その目には恐怖や迷いはなく、ただひたすら怒りに燃えていた。
「おい!シーラ!一人で突っ込むな!」
アレンの叫びは、彼女の耳には届かなかった。シーラは一目散に暗闇の奥へ突入していく。
その場に残された2人だったが、ロナは焦りをにじませながら、耳をピクピクと動かしていた。
「ヤバいのだ。この奥、相当な数のゴブリンの匂いがするのだ。わっちでも、ちょっと引くのだ...」
「はぁ......」
アレンは一つ、大きく息を吐き出す。
竜王であるアレンにとって、ゴブリンは大した相手ではない。むしろ山狼族の方が余程強いくらいだった。そんなアレンだが、洞窟に入ることを少し躊躇していた。
凄く嫌な予感がする。胸騒ぎというか...
ここは本当にゴブリンの巣なのか...?もっと禍々しい何かの気配を感じる。
このまま入っても良いものかと考えたアレンだったが、シーラを放っておく事も出来ないため、決意を固める。
「まあ、考えてもどうしようもないか。なるようになれって感じだな。何より、シーラに一言ガツンと言ってやんねぇとな。」
悪態をつきながらも、アレンは踵を返し、ロナと共に洞窟内へ駆け出した。
洞窟に入ってしばらくすると、少しひらけた空間で、ゴブリンの群れとシーラが交戦している光景が目に入った。
数十人の村人の死体が転がる中、ゴブリンの群れが興奮したようにシーラを取り囲んでいる。
身長は120cm程で肌の色は緑色。それぞれ棍棒や短剣など、恐らく人から奪い取ったものであろう武器で、武装をしていた。
「流石に多すぎやしないかこれ。30体は居るよな。」
【モンスター情報】
モンスター名:ゴブリン
モンスターランク:D
シーラの様子を見ると完全に我を忘れており、魔力を練り上げ、愛剣を構えていた。
「この世から、存在を根絶してやる!! 緋炎ノ斬撃(スカーレットブレイク)!」
その技は横一線に剣を振るう大振りな炎の斬撃。威力は高いが、洞窟などの狭い場所で使うには、あまりに危険すぎる。
案の定、技を放つ前に剣が天井から突き出た岩の突起に当たり、シーラは体制を大きく崩してしまう。その一瞬の隙を、ゴブリンたちは見逃さなかった。
数体のゴブリンが手に持った武器を振り上げ、一斉にシーラへ攻撃を仕掛ける。
アレンは咄嗟に『魔鉄創成』を発動し、助けに入ろうとするが――
「わっちの仲間に手は出させないのだ!雪爪牙(せっそうが)!」
アレンの視界を遮るように、横にいたロナが矢のように駆け出した。
両手から生えているのは、短剣ほどの長さで光り輝く3本の爪。それが山狼族の血を引いているロナの戦闘形態であることを、アレンはすぐに理解する。
ロナは一瞬のうちにゴブリン達の間をすり抜け、爪を振るう。ゴブリン達は断末魔を上げる暇もなく切り裂かれると、その傷口からみるみるうちに凍りついて動きを止めた。
ロナには氷雪系魔法の才能があった。更に山狼族と人間のハーフという事もあり、身体の一部を獣人化させる事ができたのだ。
雪爪牙(せっそうが)は、ロナの山狼族の爪に氷雪系魔法を付与した、言わば魔法爪と呼べる技なのである。
「え......ロナって......こんなに強かったの?」
アレンが驚愕の声を漏らす中、ロナの背後に向けて、猛スピードで突っ込んでくる殺気を察知する。その速さは、スピードが取り柄のロナすら上回っていた。
「――っくそ!」
アレンは驚きを押し殺し、即座に『魔鉄創成』で剣を作り出し、間一髪で迎え撃った。
キンッ!
洞窟内に、甲高く鋭い金属音が鳴り響く。
突っ込んできたのは、ゴブリンだった。しかし、その見た目は他のゴブリン達とは一線を画している。
肌の色は他のゴブリンと同じ緑だが、背丈は190cmほどもあり、布ではなくしっかりとした衣服を着ている。両手に刀を持っていて、その身体は引き締まっており、無数の傷が歴戦の猛者ということを物語っていた。何より、その目には知性と、長き時を生き抜いた化け物が持つ鋭さを宿している。
「おいおい、この依頼どうなってんだよ……やっぱりDランクなんかじゃないよな」
そのモンスターを、そのユニークの存在を、アレンは竜王として生きてきた長き時の中で、確かに知っていた。
「こんなユニークモンスターが出てくるなんてよ......」
【モンスター情報】
モンスター名:マスターゴブリン(ユニーク)
モンスターランク:SS
それは、アレンと同じく長き時を生きる、この世界最強の一角であった。
1
あなたにおすすめの小説
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった
竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。
やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。
それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった!
呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
「もう手遅れだ」
これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。
越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる