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第二章
友情の始まりかもしれない
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「まあっ!それはリリアナ様の侍女たちの言うことは当然ですわ!」
アリス様がくっきりとした深いブルーの目を大きく見開いて言った。その横でフワフワの明るい茶色の髪を今日は少女の様に緩やかに編んで横に流したローラ様と薄紫の瞳が大人びて知的な印象を与えるグレース様も大きく頷いている。
「そうですわね。仮にも公爵家の御令嬢が1か月近くも旅に行かれるのですから、用意はしっかりしていかなければいけませんわ。」
グレース様が淑やかながらも、まるで年下の妹にでも言い聞かせるように重ねてくる。そう言われて、そういえばシエルには公爵という爵位があったのだったと思いだした。普段、シエルの事をグラシャム公爵と呼ぶ人は居ないから。
確かに郊外へ避暑に出掛ける程度なら良くあるだろうけど、王都に屋敷を構えている貴族の令嬢達が長期間の旅に出るのは珍しい。もしあるとしたら地方へ嫁ぐ時くらいかもしれない。
今日は侯爵家の御令嬢であるローラ様のお宅にお呼ばれして、アリス様、グレース様と一緒にお茶を頂いていた。良いお天気で日差しが少し強いので、大きく屋根の張り出したテラスの内側に席を設えて、4人で円形テーブルを囲んでいる。掃き出し窓を開け放って風通しを良くしたテラスに気持ちの良い風が時折通り抜ける。庭より少し高くなったその場所からは侯爵家の広大で見事に作り上げられた美しい庭が良く見えた。
「ああ、麗しい大魔法使い様とずっとお二人で旅行なんて羨ましい!」
ローラ様が何を想像したのか色白の頬をほんのりと赤らめてため息をついた。
「ローラ!今はリリアナ様の旅の支度のお話をしていたのでしょう?」
アリス様が幼馴染みのローラ様へ思わずいつもの気安さが出たのか名前を呼び捨てにしてた窘めた。というか、こちらの方が通常のお二人のやり取りなのだろう。なんか、微笑ましい。
「でも確かに羨ましいですわ。大魔法使い様とずっと御一緒...。ですがあの完璧の美貌がずっと一緒というのもそれはそれで気絶しそうです。」
そう言うとグレース様もほっと溜息をついた。だから、何を想像されて?
「グレース様まで...。」
アリス様がすまなさそうにこちらを見る。
「いいえ、私としてはずっと一緒に暮らしているので大魔法使い様と一緒なのは今更なのですけど。旅行に関しては初めてなのでとても楽しみです。」
まあ、普通だったら婚約中とはいえ結婚前の男女が一緒に旅行なんて行かないでしょうから、あまり声を大にして言うものではないのでしょうけど。
私とシエルはもともと血縁関係は無いとはいえ世間には親子として一緒に暮らしていた訳なので、本当に今更としか言いようがない。
「そうよね。普通だったらまだ婚約中の男女二人が一緒に旅行なんて世間から許されるものではないですよね。でも何と言っても相手はあの大魔法使い様で、リリアナ様は王妃様の大のお気に入りですから。誰も文句なんか付けられません。この前もリリアナ様の噂話をしていた某夫人が...。」
「ローラ!」
かなりのぶっちゃけ話を明るく朗らかに笑顔で話してくださったローラ様をアリス様が慌てて遮った。
でもそんな中途半端なところで話を止められても気になって仕方がない。私が上目遣いに訴えると、グレース様が仕方がないといった風情でため息をついてローラ様の代わりに話してくれた。
「あくまでも私が聞いた話ですけど...。先日行われたある夜会でリリアナ様の事を悪く言っていた某夫人が王妃様のお茶会から完全に出入り禁止になったそうですわ。まあ、当然の報いだとは思いますけど。王妃様がリリアナ様の事を御身内のように可愛がっていらっしゃるのは王都の貴族なら誰でも知っていることですもの...。」
「なんでも、その某夫人とやらは若い頃に国王様のお妃候補の一人だったそうですので、王妃様と張り合う気持ちもあったのではとのもっぱらの噂ですけど。」
アリス様が本当はこんなことリリアナ様にお聞かせしたくなかったんですとブツブツ言いながらも付け足した。
「アリス様、ありがとうございます。私は気にしていませんから。」
まあ、私がシエルの実の娘ではないというのは隠していなかったので、本当の親子ではないと知っている人は知っていたと思う。(だいたい、麗しの大魔法使い様が現在独身なのは世のご婦人方は当然知っていたでしょうし。)そうは言っても仮にも父と娘として暮らしてきた二人が婚約したのだから眉をひそめる人も多いのだろうことは私にも想像は付いた。ありがたいことに私に直接そう言ってくる人はいないので気にしてはいなかったけれど。
むしろ、私の自称母親を自認している王妃様がなんかご迷惑を掛けて申し訳ございませんとしか言いようがないです...。私はははは...と心の中で乾いた笑いを上げるしかなかった。
「ほら、リリアナ様はきっと気にされないと言ったじゃないの。」
ローラ様がしたり顔でアリス様に文句を言った。
「ローラってば!」
アリス様は赤くなってローラ様に文句を言っている。
「?」
なんでしょう?不思議に思っているとグレース様がうふふっと魅惑の微笑みで説明してくださった。
「実はリリアナ様のお茶会に呼んでいただいた後、幼い頃から仲の良かったローラ様とアリス様のお茶会に私も呼んでいただいて3人で一度集まったんですの。」
「本当はリリアナ様もお誘いしたかったんですけど、大魔法使い様とのご婚約が発表されたばかりでしたし、お忙しいかと思ってその時は声をお掛けしなかったんです。」
アリス様がグレース様のお話に付け足した。
「リリアナ様のお陰で私もお二人と仲良くなれてお礼を申し上げますわ。」
グレース様がふふふっと綺麗な菫色の目を嬉しそうに細めて淑やかに笑った。
「それで、当然リリアナ様のお話になったのですけど...。」
どうやら、私の茶会がきっかけで多少知り合いではあったけど親しいというほどではなかったグレース様とローラ様、アリス様は、シエルのファンという点で話が合って意気投合したらしい。
当然、その娘であり婚約者になってしまった私の事が話題になるのは自然な流れだろう。
「リリアナ様は本当に妖精のように可愛らしくて、着こなしのセンスもよろしくていらっしゃるし、大魔法使い様と並んでいると本当に絵になると思います。ですが一方でお話をしていると、とても落ち着きがあってなんというか包容力がおありになって、私たちの下らない話を広い心で聞き流してくださるような気がする、という私たち3人の一致した意見だったんです。」
グレース様はそう言うとまたふふふっと今度は悪戯っぽいお顔で笑われた。
「まあ...。」
ローズ様とアリス様のお顔をみると二人も同じように笑っていた。
「確かに、私を育ててくれた乳母にはいつも中身が老けていると言われますわ...。」
実際、中身は一度は寿命を全うした身ではありますから...。若いお嬢様方のお話は楽しく聞かせていただいているかもしれませんが...。
「まあ、老けている?なるほど、確かに見た目は美しい金髪にこぼれそうな明るいグリーンの目でお人形のように可愛らしいから、きっとその落差が魅力的なんですね。」
これは褒められたと取っていいのだろうか?
「それを言うならローラ様は明るくて砂糖菓子のように甘くて可愛らしい様子をされていますけどはきはきと気持ちのいい話し方が魅力的ですし、アリス様はとても艶やかな黒髪に零れ落ちそうな大きな目をされて可愛らしいですけど、とてもしっかり者で頼りになりそうです。グレース様は美しい薄紫の瞳が物静かでたおやかな女性らしい印象ですが、とてもお話上手で意外とまとめ役ですわ。落差が魅力的というなら皆さまも同じですね?」
「まあ...。」
グレース様が少し驚いた顔をして声を上げた。そして、4人で円形テーブル越しにお互いの目を見ると次の瞬間一緒にぷっと噴き出した。
「ふふふふっ...。」
「リリアナ様ってば...。」
「もう、私たち...きっと周りから見たら。」
「お互いに褒めあって...。」
「ちょっと、恥ずかしい人達ですね...。」
そう私が言うとみんな一斉に我慢できずに大笑いになった。
少し離れた場所に控えていたローラ様付きの侯爵家の侍女たちがいったい何事かと驚いた顔をしていた。
ひとしきり笑いあってお茶とおしゃべりを楽しんだ後、私が旅から帰ったら旅の話を聞かせて欲しいのでまた4人で集まりましょうと約束をしてお茶会はお開きになった。私は長年の夢だった仲の良いお友達を得ることに成功したのかもしれないとその日はかなり上機嫌だった。
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