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第二章
旅程
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「ああ~。私もリリアナと一緒に旅行に行きたかったわ!」
王妃様が繊細なレースのハンカチを握りしめて私の前の席で泣き崩れている。もっとも、上げたお顔はお化粧が崩れてないから涙は出ていなかったらしい。
「母上、それは無理というものです。」
第一王子のヴィクトール様が王妃様の隣で呆れたように声を上げた。王妃様譲りの美しい顔立ちは、少し前まで女の子に間違えられそうだったけれど、近頃は凛々しくなり体つきも男の子らしくなってきた。王子として日頃から剣の稽古に励んでいる成果だろう。身長も最近は私と並ぶくらいだ。きっとあっという間に抜かされてしまうに違いない。
「分かっているわ!でも私のリリアナがあんな冷血魔法使いと二人きりで旅行なんて!」
そう言うと、王妃様はまたしくしくと泣き出した。
う~ん、だからシエルとは赤ん坊の時からずっと一緒に暮らしているのだから今更じゃないかしら?
「だいたい、リリアナは母上の物ではないでしょう?あまり、大袈裟に泣き真似をすると父上が嫉妬してまた機嫌が悪くなりますよ。」
王妃様はそれを聞くとビクッとして顔を上げ、回りを見回した。
「脅かさないでよ、今日は夕方まで城で謁見中でしょう?!」
なるほど。シエルと対等に口喧嘩が出来る王妃様にも怖いものがあったらしい。国王様はいつも私の前では笑顔でとても優しそうに見えるけど、王妃様やシエルの話を聞いていると、どうやらそれだけではないようだ。私も失礼がないように気を付けようと心に誓った。
王子が仕方がないといった大人びた表情で溜め息をついた。
「でも、リリアナ。二人きりなのは僕も心配です。いくら大魔法使い様がご一緒とはいえ本当に誰も供に着けないのですか?せめて、護衛もできる腕の立つ侍女をお貸ししましょうか?」
なるほど、さすが王宮。護衛もできる万能な侍女が居るのね。誰かしら?私もあったことのある人かしら?思わず回りの侍女を見渡してしまう。
でも、今回は行き先が前世に暮らした場所だということもあり、出来ればシエルと二人の方が都合が良かった。回りにはシエルが持っている別荘のひとつに向かうと言ってある。シエルの話だと前世に私が使っていた品々が屋敷にはそのまま残っているらしい。さすがに、昔のドレスや装飾品がそのままある屋敷に事情を知らない誰かを連れていくのは避けたかった。
「大丈夫ですよ。シエルが一緒ですし。それに、旅の間は質素な服装でお忍び旅行にするつもりなのでそれも楽しみなんです。」
とはいえ、小型ではあるけど自前の馬車にたぶんそれなりの荷物を積んでの旅行になるだろう。パトリックが考えてくれた設定では、シエルが王室に勤める役人、私が城下町に住む小金持ちの商人の娘で、結婚の報告に親戚の家に行くということになっていた。
結果としてマダムローズモントには今までとは違う、平民の娘に見える服を作ってもらっていた。これがまたマダムの創作意欲をいたく掻き立てたらしく嬉々として製作してくれた。
「ふん、まあ腐ってもあの大魔法使いが一緒にいるんですから大丈夫でしょう。むしろリリアナに何かあったら私が許さないわ!」
どうやら嘘泣きに飽きた王妃様が、背筋を伸ばして侍女が入れ直したお茶を上品に一口飲む。
「一緒に行けないのは残念だけど、その代わり私はリリアナが楽しめる旅程を考えておいたわ。」
「旅程ですか?」
「ええ、ずっと町娘姿の貧乏旅行もつまらないでしょう?途中に夜会の予定を入れておいてあげたから。私の従兄弟が治めている領地を通るように大魔法使いには言っておいたわ。従兄弟にはリリアナの為に夜会を開くように連絡しておいたから楽しみにしておいて。」
「王妃様の従兄弟ですか?」
ということは王族のお一人?
「そうなの。ちょっと変わり者でね、海が見える所に住みたいって言って若い頃に領地を賜って移り住んだの。私は行ったことは無いけど、綺麗な土地らしいわ。確か、リリアナより少し上の娘がいたはずよ。きっと、王宮の夜会とはまた違って楽しめるのじゃないかしら?」
そんな方がいらっしゃるなんて知らなかった。確かに海辺のお屋敷なんてちょっと楽しみかも。海を見たことが無い私は頭の中で想像を膨らませた。
「それで、明日の王宮での夜会は出れるのでしょう?」
「はい、出発は3日後ですから大丈夫です。アデリーナ様もいらっしゃるそうですね。」
明日の夜に、王妃様主催の夜会が王宮にて開かれることになっていた。
「精霊祭の騒動以来ね。結局、貴方のところの家令と婚約したんでしょ?ドルトンがニコニコ顔で報告しに来たわよ。王都に挨拶にも来れないほど没落した伯爵家の跡取りだって聞いたけど、よほど優秀なのね。」
ドルトンとはアデリーナ様の父親にあたるドルトン侯爵のことだ。アデリーナ様とパトリックの結婚が決まった時に、我が家にも大量の品を持ってお礼に来ていた。
「はい。まだ我が家に来てから日は浅いですけど、居なくなられたらかなり困るくらいには優秀だと思います。実家は弟が継ぐそうなのでドルトン侯爵が引退するまでは我が家に居てもらうことになりました。」
もちろん、アデリーナ様と結婚したら通いになるとは思うけど。侯爵家から通ってくる家令って...。本当に良いのかしら。
「アデリーナ様とは私も久しぶりなのでご挨拶が出来たら嬉しいんですけど。」
「そうなの?」
「ええ。シエルの事を怖がっていないか少し心配です。」
精霊祭の前日、シエルが王宮の庭に雷を落とした時アデリーナ様はとても怖がっていたから。
シエルと公式の場で会っても大丈夫かしら?パトリックに確認してみよう。
王妃様が繊細なレースのハンカチを握りしめて私の前の席で泣き崩れている。もっとも、上げたお顔はお化粧が崩れてないから涙は出ていなかったらしい。
「母上、それは無理というものです。」
第一王子のヴィクトール様が王妃様の隣で呆れたように声を上げた。王妃様譲りの美しい顔立ちは、少し前まで女の子に間違えられそうだったけれど、近頃は凛々しくなり体つきも男の子らしくなってきた。王子として日頃から剣の稽古に励んでいる成果だろう。身長も最近は私と並ぶくらいだ。きっとあっという間に抜かされてしまうに違いない。
「分かっているわ!でも私のリリアナがあんな冷血魔法使いと二人きりで旅行なんて!」
そう言うと、王妃様はまたしくしくと泣き出した。
う~ん、だからシエルとは赤ん坊の時からずっと一緒に暮らしているのだから今更じゃないかしら?
「だいたい、リリアナは母上の物ではないでしょう?あまり、大袈裟に泣き真似をすると父上が嫉妬してまた機嫌が悪くなりますよ。」
王妃様はそれを聞くとビクッとして顔を上げ、回りを見回した。
「脅かさないでよ、今日は夕方まで城で謁見中でしょう?!」
なるほど。シエルと対等に口喧嘩が出来る王妃様にも怖いものがあったらしい。国王様はいつも私の前では笑顔でとても優しそうに見えるけど、王妃様やシエルの話を聞いていると、どうやらそれだけではないようだ。私も失礼がないように気を付けようと心に誓った。
王子が仕方がないといった大人びた表情で溜め息をついた。
「でも、リリアナ。二人きりなのは僕も心配です。いくら大魔法使い様がご一緒とはいえ本当に誰も供に着けないのですか?せめて、護衛もできる腕の立つ侍女をお貸ししましょうか?」
なるほど、さすが王宮。護衛もできる万能な侍女が居るのね。誰かしら?私もあったことのある人かしら?思わず回りの侍女を見渡してしまう。
でも、今回は行き先が前世に暮らした場所だということもあり、出来ればシエルと二人の方が都合が良かった。回りにはシエルが持っている別荘のひとつに向かうと言ってある。シエルの話だと前世に私が使っていた品々が屋敷にはそのまま残っているらしい。さすがに、昔のドレスや装飾品がそのままある屋敷に事情を知らない誰かを連れていくのは避けたかった。
「大丈夫ですよ。シエルが一緒ですし。それに、旅の間は質素な服装でお忍び旅行にするつもりなのでそれも楽しみなんです。」
とはいえ、小型ではあるけど自前の馬車にたぶんそれなりの荷物を積んでの旅行になるだろう。パトリックが考えてくれた設定では、シエルが王室に勤める役人、私が城下町に住む小金持ちの商人の娘で、結婚の報告に親戚の家に行くということになっていた。
結果としてマダムローズモントには今までとは違う、平民の娘に見える服を作ってもらっていた。これがまたマダムの創作意欲をいたく掻き立てたらしく嬉々として製作してくれた。
「ふん、まあ腐ってもあの大魔法使いが一緒にいるんですから大丈夫でしょう。むしろリリアナに何かあったら私が許さないわ!」
どうやら嘘泣きに飽きた王妃様が、背筋を伸ばして侍女が入れ直したお茶を上品に一口飲む。
「一緒に行けないのは残念だけど、その代わり私はリリアナが楽しめる旅程を考えておいたわ。」
「旅程ですか?」
「ええ、ずっと町娘姿の貧乏旅行もつまらないでしょう?途中に夜会の予定を入れておいてあげたから。私の従兄弟が治めている領地を通るように大魔法使いには言っておいたわ。従兄弟にはリリアナの為に夜会を開くように連絡しておいたから楽しみにしておいて。」
「王妃様の従兄弟ですか?」
ということは王族のお一人?
「そうなの。ちょっと変わり者でね、海が見える所に住みたいって言って若い頃に領地を賜って移り住んだの。私は行ったことは無いけど、綺麗な土地らしいわ。確か、リリアナより少し上の娘がいたはずよ。きっと、王宮の夜会とはまた違って楽しめるのじゃないかしら?」
そんな方がいらっしゃるなんて知らなかった。確かに海辺のお屋敷なんてちょっと楽しみかも。海を見たことが無い私は頭の中で想像を膨らませた。
「それで、明日の王宮での夜会は出れるのでしょう?」
「はい、出発は3日後ですから大丈夫です。アデリーナ様もいらっしゃるそうですね。」
明日の夜に、王妃様主催の夜会が王宮にて開かれることになっていた。
「精霊祭の騒動以来ね。結局、貴方のところの家令と婚約したんでしょ?ドルトンがニコニコ顔で報告しに来たわよ。王都に挨拶にも来れないほど没落した伯爵家の跡取りだって聞いたけど、よほど優秀なのね。」
ドルトンとはアデリーナ様の父親にあたるドルトン侯爵のことだ。アデリーナ様とパトリックの結婚が決まった時に、我が家にも大量の品を持ってお礼に来ていた。
「はい。まだ我が家に来てから日は浅いですけど、居なくなられたらかなり困るくらいには優秀だと思います。実家は弟が継ぐそうなのでドルトン侯爵が引退するまでは我が家に居てもらうことになりました。」
もちろん、アデリーナ様と結婚したら通いになるとは思うけど。侯爵家から通ってくる家令って...。本当に良いのかしら。
「アデリーナ様とは私も久しぶりなのでご挨拶が出来たら嬉しいんですけど。」
「そうなの?」
「ええ。シエルの事を怖がっていないか少し心配です。」
精霊祭の前日、シエルが王宮の庭に雷を落とした時アデリーナ様はとても怖がっていたから。
シエルと公式の場で会っても大丈夫かしら?パトリックに確認してみよう。
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