大魔法使いの愛娘~もう生まれ変わるのは遠慮します!~

佐間瀬 友

文字の大きさ
51 / 52
第二章

旅の始まり~田園風景にて~

しおりを挟む
王都を出て少し走ればのどかな田園風景が広がってくる。乳母が嫁いだ村のような果樹園や、私にはよく分からない農作物が整然と植えられた畑が馬車の通る一本道の両側に整然と広がっている様子は美しかった。すれ違う馬車や人もほとんどなく、畑で農作業をしている人々が遠くに小さく見えるのみだ。

「ねえ、あれは?何かしら?」

「あれは、バンジュの畑だな。」

植えている農作物が違えば色合いも変わる。それが私には物珍しくて隣に座るシエルにいちいち聞いてしまう。シエルはそれに対して面倒がらずにひとつひとつ答えてくれていた。

しかも、私が聞く質問に全て淀みなく答えてくれる。
何十回目かの質問に答えてもらった後、思わず隣で馬車を操るシエルの整い過ぎた横顔を思わずまじまじと眺めた。

「どうした?」

その視線にシエルが不思議そうに聞いてくる。

「シエルは本当に何でも知っているのね。」

もちろん、とっても知識が豊富なことは知ってはいたけれど。こう、何でもスラスラ答えてもらうと本当に知らないことは無いのではと思えて来る。

「まあ、長く生きているからな。」

「でも、長く生きているだけでは田畑に植わっている農作物や、花や木の名前まで全部答えられないでしょう?」

やはり、魔法使いたるもの色々な知識があるものなのかしら?

「以前はずっと旅をしていたからな。王都から出たことがない人間よりは色々な物を見聞きしている。」

「そうなの?」

前世に森の奥の屋敷で暮らしていた時、シエルは時々ひとりで出掛けることはあった。でも、それほど長く屋敷を離れることは無かったと思う。今も王宮勤めでいつも忙しそうで、旅なんて無縁だと思っていたので少し驚く。

「ああ。リリアナと出会う前はあまり一所に長居することはなかったな。アムズベルフの国王が代替わりをすれば挨拶のために王都へ顔を出すようにはしていたが。」

それって、かなり長いスパンですよね。
でも、それなら旅が好きなのかしら?今回の旅はシエルにとっては短くて旅とは言えないのかもしれない。

「じゃあ、もっと長い旅に出たい?」

もしかして、一ヶ所にとどまる生活はそんなに苦痛なのかしら?確か以前、私の為に王都で大人しく仕事に就いていると言っていたけれど。でも、シエルの答えは全く違ったものだった。

「いや?別に旅が好きだった訳ではない。たしかに以前は仕事で呼ばれれば様々な国に行っていたし、その国にとどまって欲しいと言われることもあったが、長く居れば居ただけ、色々と政治的なものに巻き込まれることもあるからな。それが煩わしくて、特に長くいたい場所がなかったからと言うだけだ。」

「本当に?あの、時々ならひとりで旅に行っても構わないけど....。」

「ひとりで?なぜ?」

あれ?間違えた?

「えっと、じゃあ少しなら私も付き合うけれど。」

でもせっかく王都にお友達もできたし、もちろん今回の旅はとっても楽しみにしていたけど、あまり長期間なのはちょっと。

「いや、だから私は旅が好きな訳ではない。リリアナが側に居れば別にどこでも構わない。」

真顔でそう言われて思わず顔がぼっと熱くなる。おかしい。そんな話をしていたつもりではなかったのだけれど。

話が変な方に進んでしまい、そう言えばシエルと二人っきりだとか、狭い御者台の上に並んで揺られているためずっと体が密着していたこととか、シエルの服装がいつもと違いかなり質素な役人風な装いだけど何を着ても似合っているとか、改めて色々な事が押し寄せてきた。思わず狭い御者台の上で慌ててシエルから少しでも離れようとして体勢を崩す。

「リリアナ!」

危なくシエルに片腕で抱き止められて事なきを得た。

「ご、ごめんなさい...。」

恥ずかしいやらすまないやらでそのまま硬直してしまう。
シエルは器用に片手で手綱を操ると馬車を止めた。

「大丈夫か?」

「は、はい。」

私のぎこちない返事を聞いて、明らかにほっとした様子のシエルに両腕でそっと抱き締められる。

「出発も朝早かったからな、疲れたか。後ろの荷台で少し休むか?」

特に疲れていたわけではなかったけれど、自分のせいで馬車から転げ落ちそうなった居たたまれなさから大人しくシエルの申し出に従うことにした。

荷台の荷物の間に、旅慣れない私が横になれる程度の隙間が作られていた。予定ではこの場所は王都で待つ我が家の家人や友人たちへのお土産が積み上げられることになっていた。今は柔らかな毛布が敷かれているその場所にそっと横になるとシエルが静かに馬車を出発させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...