長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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転校

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「なるほど、俺が結婚しない理由は、君が女学校を卒業するのを待っているからなのか。

 ところで俺は、何時から待っているのだろうね」

 隼人は二十九歳、華子は十七歳。世間がうるさくなるのは男なら、二十五歳辺りだろうか。隼人二十五歳、華子十三歳。

「なんというか、男色の疑いと少女趣味じゃ、どちらがましだろう」

「親が勝手に決めた。でいいではありませんか。

それより、気になる言葉を聞きました」

 隼人の苦情を無視して、少女からの言葉を伝えた。

「俺も、今日聞いたんだ、同じ事。

 勇一から、百合子さんの事を詳しく聞いたんだ。やはり彼女は、女子学習院に通っていたことが分かった。三ヶ月前に転校したらしい。理由は分からない」

「三ヶ月前?

 新学期からですね。女学校最高学年で転校って、変ですね」

「で、二ヶ月前から三人の行方不明者が出ている。三人共裕福な家の娘で、箱入りのお嬢様だ。家出の可能性は低いらしい」

 三枚の写真が机の上に置かれた。確かに美人である。そして、楚々とした可愛らしさも持っている。

「美人ですが、園子さんと百合子さんの方が、美しさの面では勝っているような」

 隼人の目に、真剣な光が宿った。

「君もそう思うかい?」

「はい」

「俺も同じ意見だ。

 美しさ以外に、三人に共通点はない。学年も、住所も。本人同士の関わりもない。

 何故、五人の美少女の内、三人が消えたのか」

『百合子様は関係ないの』

 少女の言葉が蘇る。

 本当に関係ないと思っているのか。百合子を疑っているからこそ、口をついた言葉では無いのか。

「ま、そっちは関係ないから、君は気にしなくても良いよ。

 ただ、百合子さんには気を付けて」

隼人は口元だけで笑って見せた。

「念の為だよ」



 翌朝は初めて、百合子も園子も待ち受けぬ、心落ち着く一日の始まりとなった。昨日までは、百合子の声に阻まれて聞こえなかった声が、鼓膜を震わせる。

 爽やかな挨拶。華やかな笑い声。初夏の日差しに負けぬ、生命力。

 一つ、靴音が近づいて来る。

「あの」

 下級生らしい。何年生かはわからないが、五年生と比べると、幼さが頬の辺りに見られた。

「これを」

 差し出されたのは、一通の封筒だった。薄桃色の蘭の花が描かれている。

 頭を下げているから顔はわからないが、真っ赤に染まった耳が、三つ編みの横に見える。
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