長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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 このまま晒し物にしては可哀想と、思わず受け取った封筒は、微かに良い香りがした。

「ありがとうございます」

 少女は明るい笑顔を見せると、一度お辞儀をして、軽やかな足取りで友人の元へと戻り、預けていたらしい鞄を受け取りながら、可愛い声ではしゃいでいる。

 心の底で、圭は感動していた。初めて、少女に会ったような気がしたのだ。

 この女学校に入って直ぐ、百合子に関わったせいだろうか、女学生に対して、歪んだ認識を持ってしまっていた。それが漸く払拭されたのである。

 と、のんびり感動している場合ではない。周囲からの視線があからさまになってきた。

 手紙を受け取ったのは迂闊だったかも知れない。この子からは受け取るけれど、あの子は駄目。という不公平は圭の好みではない。

 封筒を周りから見られぬように鞄で隠して、玄関に駆け込み、靴を仕舞っている時、背後に人の気配を感じた。

「一限目の授業の後、中庭に来て」

 小さいがはっきりとした声は、園子のものであった。背筋が冷えそうなほど、冷たい声であった。

「分かりました」

 昨日の口止めでもしようと言うのか。

 園子なら、百合子のようなふざけた真似はすまいと、行くことを即断した。



 国語の授業の後、園子をちらと見るとまだ、ゆったりと座ったままであった。先に行けということだろうと、圭は静かに、教室を出た。

 大きな花、小さな花、赤い花、白い花。

 少女に一番似合うのは、桃色の五分咲きの薔薇だろう。

 眺めているには良いのだか、服に匂いが染み付きそうで、少々憂鬱である。強い匂いは好きではない。

 なかなか園子は現れない。

 さては、次の授業をエスケィプさせるつもりではなかろうか。教師が圭を不良と見做せば、発言は軽んぜられる。それが、目的であろうか。

 背後で音がした。振り向こうとした時、突然、口を塞がれ、嫌な刺激臭と共に、意識が遠のいていくのを感じた。
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