長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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男 

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 富山男爵家に到着すると、即座に勇一郎は飛び出し、どこへかと消えてしまった。

 一方、隼人は慣れた様子で門に駆け寄ると、力任せに叩く。が、誰も来る様子はない。

「おかしいな」

 立派な長屋門には二部屋あり、外回りを受け持つ下男が二人、住んでいるのだとか。夜遅くに客が来ても忠義者の下男は、先を争うように出て来るそうなのだが、薄暗い今、灯りも点いていない。

 後ろから、女の声が聞こえた。待ってくれ。と、苦しそうな声。  

「だから、おぶってやるって言ったろうが」

「お前さんみたいな爺さんが、背負って走れるわけはあるまい。

 この前といい、今日といい、急なんだよ、富山の旦那は」

 ゼイゼイ言いながら、女は饒舌だった。

 足元を照らす提灯が、圭達の前に現れ、やっと気付いたらしい男が、小さな悲鳴を上げた。

「あ、あ、と、な、長瀬様、申し訳ありません、当家は、その、今、その、あ、あんた、行って行って」

 脇にあるお勝手の鍵を開け、女を通すと、圭達の前を塞ぐように立つ。

「申し訳ありません、本日は込み入っておりまして、明日、いえ、明後日こちらから」

「では私は、この足で警察に向かうしかありませんね」

「そ、それは」

 下男は狼狽え、進退窮まったのか、あたふたするばかりで、どうにもならない、

「どうします? 男爵を呼ぶか、警察を待つか」

 お勝手を開くと、中に入るよう促した。

 狼狽えてはいても、内から鍵を掛けるのは忘れず、すぐに、屋敷に向かって走り出す。

「警察に行かれると困るような覚えがあるのかな?」

「やはり、園子さんの」

「園子さんの件を男爵が知っても、下男にまでは知らせまいよ」

「そうですね。

 しかし、立派なお宅ですね」

 時代掛かった門も屋敷も庭も、重厚で品があり、成金に相応しくはなかった。

「元々は士族の屋敷だったが、没落してね。それを買ったらしい。

 こうして庭はそのままに手入れしているから、美に対する感覚は、優れているのだとは思う。屋敷の中もそのままで、とても美しい」

 硝子窓の向こうに、人が右往左往しているのが見える。使用人の多さがひと目でわかる光景だった。

 年老いた女、若い女、年増女、女ばかりの光景。



 その中に……。



「なんですか、連絡もなしに」

 富山が下男と共に現れた。

「園子さんに聞きたい事があります」

「園子に? 一体」 

「男爵の依頼には関係ありません」
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