長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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男 ニ

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 「警察に行くと、下男を脅したそうだね」

「脅したのではありません。

 女学校で密かに犯罪が行われていました。園子さんに容疑がかかっています。まだ、警察は彼女の存在に気はついていませんが、そのままにはしているわけにもいきません」

 園子。と、富山は呟くと、荒い息を吐きながら、園子は、園子はと繰り返す。

「富山男爵?」

「園子は、死んだ。帰って来て間もなく、急に苦しみ始めて……」

「死んだ? なぜ?」

「分からん。理由は分からん」

「分からんって、医者は」

「医者は、今呼びに行かせた」

「今? 今って、何時間経ってるんです?」

「とにかく帰ってくれ。園子は死んだんだよ。その、犯罪とやらに関わっているかどうかなど、もう、分かりゃしない。

 まさか君、無責任にも、根拠も無い容疑を掛けて、園子を警察に訴えるつもりかね?」

 玄関脇の小さな灯りに照らされて、鬼のような形相の富山が浮かび上がる。

「無責任と言うならば、警察に黙っていることでしょう」

「犯罪とはなんだね?」

「簡単に言えば、拐かしです。女学生を娼館に送り込んでいた容疑がある」

「証拠がどこにある! 証拠を出したまえ!」

「私が被害に遭いました」

「君、いい加減にしたまえよ君! 男爵家の娘に、妙な言いがかりをつけて、なにが目的だ? 金か?」

 品の無い言いがかりだな。と心の中で思う。富山という男にとって大切なのは、男爵という爵位、そして金なのか?

「落ち着いて聞いて下さい。黙っていましたが彼は、麻上元男爵です」

「麻上男爵!!」

 じろじろと不躾に、富山が圭を見回す。

 麻上元男爵家は先代は勤め人で、決して裕福ではなかったが、富山男爵家とは違い、家柄華族であった。身分大事の富山が、黙っていられるはずはなかった。

「し、失礼しました」

「いいえ、驚かれるのも無理はありません。

 我々も、軽い気持ちで来たわけでもないのです」

「は、はぁ、しかし」

「今日、警察に聞かれた際は、園子さんの関わりは黙っていました。本人に確認するまでは。と。しかし、いつまでも隠してはおけません」

「どうか、どうかあの、葬式が終わるまでは」

 さっきまでの尊大な態度は捨て、必死の様子で年下の圭に頼む姿は、気の毒に思えるほどだった。

「無理です」

 隼人が決心したように口にした。

「葬儀中に警察に彷徨かれると面倒でしょうが、これは、犯罪ですから。

 ただ、確実に園子さんが関わっているとは限りません。

 帰ろう」

 隼人が踵を返す。

「お忙しい中、失礼致しました」

 圭は頭を下げると、隼人を追い掛けた。

 歩きながら、窓の向こうを確認する。二人の存在を気にしたのか、人影は見えなくなっていた。



 「気付いた?」

 車の中で勇一郎を待っている時、隼人が緊張を含んだ声で問うてきた。

「若い男性がいました。富山男爵は、屋敷内に若い男性はいないと仰っていましたのに」

「客だとしても、娘が危篤の時に彷徨くのは不自然だ。一体何者か?」

 答えは、勇一郎が運んできた。

 聞いたことを忘れる前に。と車の中では一切口を利かず、必死に帳面を文字で埋めている。

 人から噂を集める際に、帳面に書き込みながら聞くのはタブーである。話し手は警戒し、重要な話はしなくなるのだ。と。

 ミミズののたくったような文字を帳面に散らかしながら、後で面白い話をしてやる。と、勇一郎は笑った。
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