長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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 「今日とは限らないだろう?」

「まぁ、そうですな」

「麻上君、人に恨みを買った覚えは?」

「それなりにあります」

 真剣な表情に、勇一郎は苦笑した。

「私は融通が利かない性格なので、嫌われていたと自覚しています」

「不真面目学生に。だな。

 ってこたぁ、遊郭にわざと置いていくってのは、ありそうなことだな。

 そういや、顔を見た奴がいるんだろう?」

 大森は頷いた。

「ですが、一瞬だけだったそうで、はっきりは覚えていないと。ただ、綺麗な顔だったとだけ」

「まぁ、現場不在証明アリバイに関しては、ここにいる三人皆が証言するから」

 勇一郎の言葉に頷いた後、圭から、中学の時、仲の悪かった生徒の名を聞いて、帳面に書き留めた。

「殺されたのが可哀想な娘でね。

 父親が事業に成功して、社交界に出入りするようになった。で、娘を学習院に入れたものの、四年の時に破産してね。

 男とは口も利くなと躾けられた箱入りが、次の日からは客を取らされるんだから、堪ったもんじゃありませんぜ。

 金に困ったとは言え、自分の娘を売るなんざ、わしには信じられん所業ですわ」

「あれ? 大森さん娘いたっけ? 男の子三人じゃ」

 突然、大森が相好を崩した。

「姪がいるんです。妹の子ですが、可愛くてねぇ。やはり、男の子とは違いますな。家に来ると華やぎます。かみさんも可愛がっていましてね。

 あ、いや、息子も可愛いですが」

 言いながら、山上を見てにやりと笑った。

「ところで山上さん、決まった方はおありで?」

 山上はへの字口で、首を横に振った。

「実は姪が、先生に懸想していましてね」

「は? 俺は知りませんが」

「清水女学校の五年です。

 昨日帰ってからずっと泣き通しだと聞いて、心配になって事情を聞いたら、山上先生が突然辞められ、もう会えないと、もう、目を真っ赤にしてですな。

いやぁ、なんというかもう、いじらしくてねぇ。

 どうでしょう、山上さん。伯父のわしが言うのもなんですが、器量もなかなかの、優しい子なんですよ。花嫁修業もしとりますし」

「生徒は駄目ですよ」

 山上はきっぱりと言い切ると、周りのニヤニヤ笑いを睨んだ後、下を向いた。

「生徒に手を出す教師なんて、厭でしょう? 親御さんにしても」

「しかしそりゃ、ずるいですよ。女学生は沢山おるのに、教わった子は駄目なんて」

「せめて三年は開けないと」

 大森が笑顔になった。

「そりゃ、そうですな。三年あれば花嫁修業も完璧になるでしょうし。

 いやぁ、山上さんは立派な先生ですな。あの子も見る目がある」

 いや、大森さん。と、山上は必死に言い訳をしようとするが、全く聞いてはいない様子だった。
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