長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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求婚

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 山上は今日、勇一郎の取材の手伝いに出ていた。夕方には戻ると言っていたから、相談すべく戻ると、玄関前では女学生がひとり立っていた。

 長い髪を一つお下げにして女学校の制服を生真面目に着こなしている。清水女学校の制服だ。桃色の頬が愛らしい。

「どなた?」

「私、菊池朝子きくちあさこと申します。こちらに山上先生がお住まいと伺いまして、不躾とは思いましたが……あら?」

 朝子の目は、圭を捉えていた。

「長瀬華子様……いえ、違うわ。弟様?」

 男と認識されたためだろうか、圭の表情は明るい。

「は、はい。姉をご存知で?」

「お話ししたことはございませんが、一方的に存じております。とても美しい方で……。

 あ、先生」

 頬が更に紅潮し、瞳が輝く。

「君は、菊池朝子!」

「覚えていて下さったのですね、嬉しい」

「覚えているもなんも、毎日毎日職員室に帰りの挨拶に来るのは、君だけだ。

 大森さんの姪ってのは君か」

「はい。伯父様に無理を言って教えて頂きましたの。

 先生、お願いです。私を先生のお嫁様にして下さいませ」

 単刀直入な申し出に、圭の目は真ん丸、勇一郎はニヤニヤ笑いを続け、当の山上は顔をほんのり赤く染めつつ、戸惑っているのは一目瞭然であった。

「な、なにをいきなり」

「私、決めましたの。

 先生が突然いなくなって、とても悲しかった。
 
 幸い、伯父様がご存知で、こうして再会できましたのもきっと、運命なのですわ。ですから、告白しようと、決めましたの」

「生徒と結婚はしないよ」

 朝子の表情は瞬時に暗くなり、肩を落とした。

「それでは私、一生お嫁に行けませんの?」

「英和、生徒でも猶予期間を過ぎれば良いんじゃなかったっけ?」

「あ、ああ、さ……二年」

「二年!」

 再び笑顔が戻った。その変わり様は山上への信愛の情が滲み出ているようで、微笑ましくもある。

「では、二年後にもう一度申し込みをさせて頂きますわ。それまでは、花嫁修業に励みます。 

 では、ごきげんよう」

「待ちなさい。もう暗くなる。送って行こう」

 男らしく言うと、先々歩き出し、朝子は皆に一礼すると、足取り軽く追い駆けた。

「なんで英和の奴、あの子の家の方向知ってんだろうな」

「好きな人に覚えて貰うため、毎日職員室か。可愛いな」

「素敵な方ですね」

 さっきまでの暗い表情はどこへやら、圭は明るく笑っていた。
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