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招待
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「前に如月会が出てきたけど、八田百合子を匿うにはいい組織じゃないか?」
「そうかも知れませんが、少女を苦界に落としていた百合子さんを匿うものでしょうか?」
「まだ、八田百合子の罪は世間に知れてない。いざとなれば義兄に罪をなすり付けられたとでも言っておけばだませるだろう。
隼人、明日、取材に行ってみないか。断られるかもしれんが」
答えに詰まる。
百合子を見付けたいとは思うが、やっと自由になれたのだ、せめてもう少し……と、理性の外で考えてしまう。
「どうした?」
訝しげな勇一郎の視線に、我に返った。
「行こう、百合子さんを探しに」
「よっしゃ。
ってことで、明日は頼むぜ、英和。手紙は俺が書いておくから」
「ちょっとまて、本気で俺に女学生と二人きりになれってのか?」
「密室で二人きりになるわけじゃあるまいし、親戚の小父さんの振りをしてれば問題ないだろう?」
「麻上君は」
「申し訳ありません、明日は大事な約束がありまして」
心底申し訳なさそうに、圭が謝る。
「大事な約束? 珍しいな」
珍しいもなにも、ここに来て、圭がひとりで出掛けるのは初めてではないだろうか。
「ランデブーか?」
「違います。安原元帥とのお約束です」
「安原元帥!」
勇一郎と山上が同時に叫んだ。驚くのも無理は無い。
麻上家は元男爵家とは言え、裕福でもなければ、軍人の家系でもない。社交界に力があるわけでもない。軍のトップである元帥との繋がりは、確認できないのだから。
「どういう関係だ?」
「母は刺繍が得意でして、作品をお友達への贈り物にしていました。そのお友達のひとりが元帥の令嬢です。
その方の姪御様の花嫁修業として、刺繍を教えて欲しいと頼まれて、五年前からずっと。つまりはそういう関係です。
その姪御様が結婚式を挙げられるのですが、母の代わりに。と、私宛の披露宴の招待状を頂きました」
「家庭教師か。なるほどね。
安原元帥の孫娘の結婚式かぁ。俺も行きたいなぁ」
わざとらしく溜息をつきながら、勇一郎は圭に視線を向けた。
「私はお断りしようかと思っているのです。関わりがあったのは母であって、私ではありませんし、場違いな立場ではありますから。
ただ、書面でのお断りも失礼ですし、母が、その方の為に刺した作品がありますので」
「そうかも知れませんが、少女を苦界に落としていた百合子さんを匿うものでしょうか?」
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隼人、明日、取材に行ってみないか。断られるかもしれんが」
答えに詰まる。
百合子を見付けたいとは思うが、やっと自由になれたのだ、せめてもう少し……と、理性の外で考えてしまう。
「どうした?」
訝しげな勇一郎の視線に、我に返った。
「行こう、百合子さんを探しに」
「よっしゃ。
ってことで、明日は頼むぜ、英和。手紙は俺が書いておくから」
「ちょっとまて、本気で俺に女学生と二人きりになれってのか?」
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「麻上君は」
「申し訳ありません、明日は大事な約束がありまして」
心底申し訳なさそうに、圭が謝る。
「大事な約束? 珍しいな」
珍しいもなにも、ここに来て、圭がひとりで出掛けるのは初めてではないだろうか。
「ランデブーか?」
「違います。安原元帥とのお約束です」
「安原元帥!」
勇一郎と山上が同時に叫んだ。驚くのも無理は無い。
麻上家は元男爵家とは言え、裕福でもなければ、軍人の家系でもない。社交界に力があるわけでもない。軍のトップである元帥との繋がりは、確認できないのだから。
「どういう関係だ?」
「母は刺繍が得意でして、作品をお友達への贈り物にしていました。そのお友達のひとりが元帥の令嬢です。
その方の姪御様の花嫁修業として、刺繍を教えて欲しいと頼まれて、五年前からずっと。つまりはそういう関係です。
その姪御様が結婚式を挙げられるのですが、母の代わりに。と、私宛の披露宴の招待状を頂きました」
「家庭教師か。なるほどね。
安原元帥の孫娘の結婚式かぁ。俺も行きたいなぁ」
わざとらしく溜息をつきながら、勇一郎は圭に視線を向けた。
「私はお断りしようかと思っているのです。関わりがあったのは母であって、私ではありませんし、場違いな立場ではありますから。
ただ、書面でのお断りも失礼ですし、母が、その方の為に刺した作品がありますので」
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