長瀬萬請負 其の二 祈れる乙女達

岡倉弘毅

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元帥 ニ

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 美沙子の死から、まだ一年経ってはいない。美沙子の死も、普通の死では無かったのだ。

 圭は自分が、東子の幸せにケチを付ける存在では無いかと、不安に思ってもいた。美沙子が妹のように可愛がっていた東子の、幸せの妨げになりたくは無かった。

「なんてことを仰いますの。

 私、美沙子様が大好きです。今でも心からお慕い申し上げておりますわ。ですから、美沙子様の亡き今、ご子息の圭一様に、私の幸せな姿を見て頂きたいのです」

「厭な思いをしたでしょうね。

 お母上にはなんの手落ちも無かったにも関わらず、殺されたと言う事実だけで、非難もあったでしょう。

 しかし、私達はそんな輩とは違います。貴方が、孫娘の幸せの妨げになるなどと考えたなら、招待するわけがありません。

 先代の男爵夫妻は、誰もが羨む仲睦まじい、幸せなお二人でした。私はこの子に、ご夫妻のようになって欲しいと思っています。貴方を通して、お二人がこの子を見守ってくれると、考えているのですよ」

 軍のトップであり、年長者である元帥が、幼い圭を、貴方。と呼ぶのは、元男爵としての立場への敬意なのだろう。そんな心遣いが申し訳なくも、嬉しくもあった。

「しかし、年若い貴方がひとりで、結婚披露パーティーに出席するのも気が張るでしょうね。

 どうでしょう、紅い髪の探偵も、一緒に招待させては貰えませんか?」

 突然の提案に、圭は戸惑った。

 恐らく元帥は、圭の気持ちは理解してくれているのだろうが、それに加えて、軍人が集まるであろう場所に、ひとりで参加する心細さを慮ってくれているのだろう。

 そんな気持ちも確かにあることはあるのだが……。

「もうひとり、あの記事を書いた新聞記者も招待しましょう。彼の取材を受けた男が言っていたが、なかなか面白い人物だそうですね」

 面白いと言えば面白いだろうが、それは多分、取材された人物が、脛に傷を持っていないから、面白く感じられたのだろう。

「そうですわね。私も探偵さんにお目に掛かりたいと思っておりましたの」

 これ以上断り続けるのは無理らしかった。圭は気を遣ったつもりであったが、それ以上に気を遣わせてしまったのだ。

 二人の気遣いに感謝しつつ、結婚披露宴のパァティイの出席を約束し、安原邸を辞することとなった。

 帰りも、車の用意をすると言ってくれたのだが、富山男爵邸からさほど距離が無いのを思い出して、近くに用があるから。と断った。
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