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苛立ち
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朝子を送った後、隼人の家に戻った。食卓を囲むと、隼人は二人に、如月会での出来事を説明する。
「ひとりだけとは言え、見つかったのは良かったが、どうして心を病んでいるのか……」
「百合子さんを命の恩人と言うからには、佐々木さんの家庭に命の危機が存在したのでしょうね。
つまりは、あの娼館で利用されていた少女達と同じような目に遭わされていたと考えられるのではないでしょうか」
「そうなのだろうな。
だが、そうなるとおかしなことになるよな。
八田百合子は罪を認めていた。実際、麻上君は娼館に攫われた。それなのに佐々木は百合子を命の恩人だと言う」
そんな話をしている中、勇一郎が戻って来た。何やら大きな紙袋を抱えて。
「参ったよ、猫にもてちまって」
それはそうだろう。紙袋からは派手に、美味そうな匂いが漏れている。焼き魚の匂い、煮物の匂い、タクアンの匂いも微かにしている。
「お前、どこかに飯を集りに行っていたのか?」
「隠居した元実業家の爺さんの所で、持たされたんだ。
今、男所帯だって言ったら、ろくなもん食ってないだろうって。奥さんが料理上手でな」
どういう理由で爺さんの元に行ったかは知らぬが、呑気そうな口調と、丁度よく空き始めた腹に後押しされて、まずは夕飯にすることにした。
魚も煮物もまだほの温かく、握り飯も大量にあり、世話好きな人物なのだろうと見当がついた。
握り飯というものは単純な作り方のように見えて実は、奥深い食べ物である。
空気の含み具合、塩梅、ご飯の硬さ柔らかさ。持った時はしっかり握られているように見えて、口に含むと、ほろりと崩れるのが理想的だが、そう簡単にはいかない。それこそ、熟練の技が必要なのである。
それから考えるとこの握り飯は、理想的だった。料理上手が作ったこと間違いなしである。
散々おふくろの味を堪能して、食後のお茶を飲むと、ところで、と、隼人は堅い声を出した。
「まさか、飯を集りに元実業家の元に行ったわけではあるまい? なにか情報は得たのか?」
茶を啜りながら勇一郎は頷く。
「田村、佐々木、海部の家の情報を得に、邪魔してきた。もう、爺さん暇持て余してるみたいで、すっごい勢いで話す話す」
「ひとりだけとは言え、見つかったのは良かったが、どうして心を病んでいるのか……」
「百合子さんを命の恩人と言うからには、佐々木さんの家庭に命の危機が存在したのでしょうね。
つまりは、あの娼館で利用されていた少女達と同じような目に遭わされていたと考えられるのではないでしょうか」
「そうなのだろうな。
だが、そうなるとおかしなことになるよな。
八田百合子は罪を認めていた。実際、麻上君は娼館に攫われた。それなのに佐々木は百合子を命の恩人だと言う」
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それはそうだろう。紙袋からは派手に、美味そうな匂いが漏れている。焼き魚の匂い、煮物の匂い、タクアンの匂いも微かにしている。
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