長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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暴力

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 玄関前には、育夫が待ち構えていた。不愉快だが我慢して、品の無い成金屋敷に入っていたのだが。

「実は長瀬さんにお願いがありましてね」

 応接間のソファにふんぞり返って、育夫はお願いをするには尊大すぎる態度であった。

「俺は、お菓子を頂きに来ただけだが」

「百合子が気に入ったんですか? 珍しいなぁ。一向に女に興味を示さなかった長瀬さんが」

 扉が鳴った。

 育夫が偉そうに「入れ」と応えると、藤色の、やはりお古らしい着物姿の百合子が盆を持って入って来た。前に会った時は結っていた長い髪を垂らしている姿は、更に美しかった。

 盆の上には、シュー・ア・ラ・クレーム。

「長瀬さん、ただでとは申しません。どうです? 百合子を貴方の好きにしてくれてもかまいませんよ」

 三人分のお菓子と紅茶を置き終えたばかりの百合子は、盆を落とした。

「百合子はそんじょそこらの美人シャンとは違います。

 気付いてんじゃありませんか? 百合子は女であって、女じゃない」

 百合子の顔は蝋のように白く、唇も血の気が失せていた。

「何を言っているのだ? 君は」

「百合子は世にも珍しいふたなりなんですよ。やっぱり貴方、男の方が好きなんじゃないんですか?

 好きにして下さい。良かったら二階の部屋を使って貰って結構ですから。

 評判良いんですよ、百合子って。何度抱いても慣れなくて。いつだって未通娘相手にしてるみたいだって。

 さ、百合子、いつもみたいにお持て成しを」

 隼人は立ち上がると、机をまたぎ、育夫の傍に立った。

「どうせなら、お前を好きにさせてもらいたいな」

 右手を首に絡みつけると、軽く力を込める。

「このまま力を加えたら、どうなるだろうな」

 更に力を加えると、育夫はようやく隼人の右手を両手でどけようと抵抗を始めた。

「非力だな。

 よく聞け。お前は最低の人間だ。もう二度と俺の前に顔を出すな」

 首から手を離すと、尻の辺りを蹴り飛ばした。

「出て行け」

 わざとらしく噎せ込みながら、育夫は逃げるよう応接間から飛び出して行き、隼人はまた、机をまたいで元の席に戻った。

「失礼しました」
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