長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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破談

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 そんな頃、ある実業家から、隼人を娘の婿に。との話が出た。父親の仕事にとって良い縁談だったこともあり、相手の姿も評判も知らぬまま話に乗った。

 相手は誰でも良かった。自分を受け入れてくれるならば。

 結婚式まで会うつもりはなかったが、母親の正子が喜んで、会いに行くと言い始めたので仕方なく、相手の家に行った。

 婚約者となった娘はなかなか可愛らしく、正子は大喜びだった。

 親孝行できて良かった。それが隼人の感想だった。娘の父親は気難しそうな人物ではあったが、気にはならなかった。

 忙しいからと早々に席を立ち、殆ど母親同士が話をするばかりの時間が流れ、二時間ほどでようやく帰る段取りになった。

 広い日本邸宅で、玄関までにいくつもの部屋の前を通ったのだが、その一部屋から、娘の父親の声が聞こえた。酒でも呑んでいるのか、必要以上に大きな声であった。

「あんなみっともない色の髪の子供などとんでもない。子供は産ませない。身篭ったらさっさと子供は始末させる。

 必要なのは長瀬との縁だけだ」

 娘と母親の表情が瞬時に強張った。

 隼人と正子に、父親の本音を聞かれたことへの気まずさだけが原因ではあるまい。女として、許せぬ言葉だったにちがいないのだから。

 誰もが凍り付く中、正子が襖を勢いよく開いた。座卓を囲み、五人の男が顔を赤くしていた。

 忙しいと言っていた父親はすっかり出来上がっている様子だったが、正子の怒りの形相を見て、酔いは醒めたらしい。

「なんとか仰い、隼人。貴方、こんなことを言われて、黙っているつもりではないでしょうね」

 隼人は娘の父親に向かって、深く頭を下げた。

「一方的に申し訳ありませんが、このお話は無かったことに」

 顔を上げると、娘と母親に向けてもう一度、頭を下げた。

「母さん、帰ろう」

 怒りに震える正子の肩に優しく腕を回して、玄関に向かって歩き出した。

 背後からは娘の、すすり泣く声が聞こえた。

 正子はなにも言わなかった。隼人の我儘で断ったと、紀夫に伝えた時も、黙ったままだった。
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