長瀬萬請負 其の二 〜祈れる乙女達〜

岡倉弘毅

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破談 ニ

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 「怖かったんだ。

 相手の娘さんには正直、なんの感情も抱いてはいなかった。

 でも、あの父親の言葉を聞いた途端、将来、妻の体と心を傷つけられ、子供の命を奪われるのかと思うと、恐ろしくなった。

 あの時、縁談を断ったのは、彼女を護る為だったのか、それとも、彼女を護るのを放棄したのか、未だ俺にもわからない。

 覚えているのは、俺は存在自体が罪なのだと、外見が日本人と違うというだけで人として扱ってもらえないのだとお墨付きが与えられた。と思ったことだけ」

 その後、隼人の心から野心と、結婚の二つが消えた。

「だから、百合子さんを引き取る理由付けとして婚約しようと思ったんだ。結婚後、子供ができなくても母さんは理解してくれると思っていたし。

 そのつもりはなかったにせよ、結果的に百合子さんを傷つけたのは間違いない」

 百合子がどうして、自分を拒絶したのか、隼人は今まで理解できないままだった。

 それでも、自分を傷つけ続ける育夫の元に留まっても、隼人を拒絶した事実を重く受け止めてはいた。隼人を巻き込むまいとしての拒絶だけではないと気付いていたからであった。

「許せん発言だな。

 お前を傷つけたのはもちろん、自身の娘や孫を傷つけるのを平気で行える奴など、人として認められんな」

 圭は、眼を伏せたまま唇を噛みしめている。少年にとっては理解しがたい事情に違いない。

「世間では、富山男爵の悪口はよく聞かれるけど、あの人の何が悪いのだろうな。家族を大事にしているし、会社も発展している。

 政治家への献金の噂はあるが、事実かどうかはわからない。

 少なくとも俺には、今、長瀬君から聞いた話の中に、富山男爵よりも優れた人物を見出すことはできなかったよ」

 山上の言う通りだと思った。

 表向きは紳士淑女の振りをしているが、腹の中は真っ黒な、汚れた人間のなんと多いことか。

「まぁ、ともかく、八田百合子を傷つけたのは君の責任ではあるまいよ。気にする必要はない。

 俺達の推理が正しければ、八田百合子は叔母と共に行動しているだろう。八田育夫と離れている今、安全な場所にいる可能性は高い。もう、罪を重ねはすまい。

 ただ、犯した罪を償う必要がある以上、放っておくわけにはいくまいが」

 圭が何かを言おうとして、やめた。百合子を庇おうとして、山上に言われた言葉を思い出したのだろう。

 気持ちはわからなくもないが、どんな軽微な罪であったとしても、償わなければならない。

「その、八田百合子の叔母の良人だがな、八田育夫と同じ穴の狢らしいぜ」

 勇一郎の言葉に、圭が顔を上げた。
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