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潔白 二
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「私がお願いしたのではありません。元帥が気を遣って下さったのです」
理由を聞いて、合点がいった。
「安原元帥って、人に気を遣うので有名だよな。人気があるのもわかるなぁ。軍の中では、反感持つ奴もいるらしいけどな」
ある新聞に載っていた記事によると、部下に仲人を頼まれて訪問した際、お茶を運んで来た女中がつまづいて元帥の軍服の袖にお茶を掛けてしまったそうだ。
その時、元帥は女中が怪我を負わなかったか気遣い、叱ろうとする部下を、逆に叱ったのだとか。
人間誰しも失敗はする。貴様は失敗をしたことはないのか? 袖が濡れたなら、乾かせばいいだけのこと。彼女に怪我がなかったことに感謝しなければ。と。
「素晴らしい話ではありませんか。どうして反感を持つ人がいるのでしょう?」
「それがな、男らしくないと思う奴もいるんだよ。なんでもかんでも威張り散らして、怒鳴れば男らしいと思い込んでる奴がな」
元帥の失脚を狙っているのが、廣中大将だと聞く。
常にへの字口で小さな失敗にも怒鳴り、女子供でも容赦しない、元帥と真逆の男らしい。が、軍人はそういう男が多いのだろう。
「さて、そうなるとさすがに背広を用意しないとならないな」
「俺ので良ければ貸すぞ」
「助かる。いやぁ、万事解決だな」
「ついでに、富山園子の件も解決させようか。
彼女の場合は、どういう罪になるのかがわからなくなってきていると思うのだが」
「百合子さんが圭君に向けた仕打ちは罪だが、百合子さんに利用された立場である園子さんは、どう扱えば良いのかが難しい。
しかし、考えようによれば、園子さんも百合子さんと同じく、圭君がどんな目に遭おうとも構わないと考えていたのだろうから、同罪と言えなくもない」
しかし。と思う。百合子は三人の少女を救っている。
唯一の被害者である圭が、百合子を許そうとしているからには、園子も罪に問われることはあるまいが、それはそれで、問題がありそうな気もする。
「私が許せば、それで済む問題ではないのですか?」
「しかし、それでは二人が罪を軽んじて考えるのではないのかな?」
「少なくとも園子さんは、罰を与えられていると、私には感じられます」
山上は口を閉じると、考える様子を見せた。
山上とて、園子を解放したいと思っているひとりであるから、何が何でも罰を与えたいわけではなかろう。
ただ、園子の将来の為にも、簡単に許してはいけないと考えているに違いない。
「すぐに答えを出すのは無理だ。まずは八田百合子を見つけ出さないとな。
しかしやっぱり富山って人は、愛すべき人間だって思うな。高子ちゃんに、わかって欲しかったな」
理由を聞いて、合点がいった。
「安原元帥って、人に気を遣うので有名だよな。人気があるのもわかるなぁ。軍の中では、反感持つ奴もいるらしいけどな」
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その時、元帥は女中が怪我を負わなかったか気遣い、叱ろうとする部下を、逆に叱ったのだとか。
人間誰しも失敗はする。貴様は失敗をしたことはないのか? 袖が濡れたなら、乾かせばいいだけのこと。彼女に怪我がなかったことに感謝しなければ。と。
「素晴らしい話ではありませんか。どうして反感を持つ人がいるのでしょう?」
「それがな、男らしくないと思う奴もいるんだよ。なんでもかんでも威張り散らして、怒鳴れば男らしいと思い込んでる奴がな」
元帥の失脚を狙っているのが、廣中大将だと聞く。
常にへの字口で小さな失敗にも怒鳴り、女子供でも容赦しない、元帥と真逆の男らしい。が、軍人はそういう男が多いのだろう。
「さて、そうなるとさすがに背広を用意しないとならないな」
「俺ので良ければ貸すぞ」
「助かる。いやぁ、万事解決だな」
「ついでに、富山園子の件も解決させようか。
彼女の場合は、どういう罪になるのかがわからなくなってきていると思うのだが」
「百合子さんが圭君に向けた仕打ちは罪だが、百合子さんに利用された立場である園子さんは、どう扱えば良いのかが難しい。
しかし、考えようによれば、園子さんも百合子さんと同じく、圭君がどんな目に遭おうとも構わないと考えていたのだろうから、同罪と言えなくもない」
しかし。と思う。百合子は三人の少女を救っている。
唯一の被害者である圭が、百合子を許そうとしているからには、園子も罪に問われることはあるまいが、それはそれで、問題がありそうな気もする。
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「しかし、それでは二人が罪を軽んじて考えるのではないのかな?」
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