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睦月 二
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「私は今、睦月会という、婦人の自立を目指す会に、住み込みでお世話になっておりますの。
お金を借してくれた方が、私を渡せば借金を減らしてくれると仰ったらしくて、お父様が半狂乱になってしまって。
そんな時、新聞社でタイピストをしている職業婦人が、睦月会を紹介して下さったの。両親と一緒にいるよりも安全だと」
心底安堵した。
「それでは今は、職業婦人になるための勉強をしておいでなの?」
「はい。どんな仕事が向いているのかわからないので、色々なことをしておりますのよ。
ミシンやタイピング、看護婦になる為の勉強や、睦月会の方々のお食事を作るお手伝いとか」
静子の顔が、明るく輝いた。
「きっと、お父様もお母様も今の私をご覧になられたら、驚きますわ。私、ずっと我儘で甘ったれでしたもの」
以前の静子は知らないが、目の前の静子を見ていると、宗一郎は損をしたな。と、思わざるを得なかった。静子はきっと、心強い伴侶になったにちがいないのだから。
「ところで睦月会ってのは、睦月さんが代表なの?」
如月さんと睦月さんではできすぎだが……。
「いいえ。如月会という婦人の駆け込み寺をお手本に、田中様という方が作られた会なのだそうです。
まだ五年程度の新しい会ですけれど、如月会と、同じ志の弥生会とで、支え合って頑張っておりますのよ」
如月会を中心に、睦月と弥生、そのうち卯月や皐月も現れそうだ。名前の付け方も婦人らしく、優しく美しいと思った。
「ところで、長瀬様は私にどんなご用が?」
どう言うべきか悩んだ末、単刀直入に問うことにした。
「村越宗一郎君のことなんだけどね」
静子の表情を観察していたが、どうやら気に障った様子はなかった。
「まぁ、懐かしいお名前」
やや、皮肉めいた声ではあったが、表情は明るい。
「お知り合いですの?」
「最近知り合ったのだよ。
実は、彼が、ね、その、好きになったという少年なんだけど、その、少年がね、私の助手で……」
なんと言えば良いのかがわからず、自分でも何を言っているのかが不明な状態であったが、静子は見当を付けてくれたらしい。
「あら、そうでしたのね。
あの、もしかして、根付のことでは……」
「そ、そうなんだ。やはり知っているのだね?」
「はい。私が村越さんの鞄から盗みましたもの」
悪びれた様子もなく、静子は言ってのけた。
「睦月会の、たんすの中にございますわ」
「箪笥?」
「はい。着替えや私物をしまうために、一人一段、箪笥の引き出しを使用させて頂いておりますの。
その中に放り込んだまま、すっかり忘れておりましたわ」
ようやく、申し訳なさそうな表情を見せた。
「根付のことを知っている人はいるの?」
「睦月会の方は皆、ご存じですわ」
「皆?」
「はい。私、あの頃はとても悔しくて、悲しくて、皆様に申しておりましたの。元婚約者を、麻上圭一という男の子に奪われたのだと」
静子は突然項垂れて、大きく溜息を吐いた。
「失礼なことを致しましたわ。その方には罪はございませんのにね」
お金を借してくれた方が、私を渡せば借金を減らしてくれると仰ったらしくて、お父様が半狂乱になってしまって。
そんな時、新聞社でタイピストをしている職業婦人が、睦月会を紹介して下さったの。両親と一緒にいるよりも安全だと」
心底安堵した。
「それでは今は、職業婦人になるための勉強をしておいでなの?」
「はい。どんな仕事が向いているのかわからないので、色々なことをしておりますのよ。
ミシンやタイピング、看護婦になる為の勉強や、睦月会の方々のお食事を作るお手伝いとか」
静子の顔が、明るく輝いた。
「きっと、お父様もお母様も今の私をご覧になられたら、驚きますわ。私、ずっと我儘で甘ったれでしたもの」
以前の静子は知らないが、目の前の静子を見ていると、宗一郎は損をしたな。と、思わざるを得なかった。静子はきっと、心強い伴侶になったにちがいないのだから。
「ところで睦月会ってのは、睦月さんが代表なの?」
如月さんと睦月さんではできすぎだが……。
「いいえ。如月会という婦人の駆け込み寺をお手本に、田中様という方が作られた会なのだそうです。
まだ五年程度の新しい会ですけれど、如月会と、同じ志の弥生会とで、支え合って頑張っておりますのよ」
如月会を中心に、睦月と弥生、そのうち卯月や皐月も現れそうだ。名前の付け方も婦人らしく、優しく美しいと思った。
「ところで、長瀬様は私にどんなご用が?」
どう言うべきか悩んだ末、単刀直入に問うことにした。
「村越宗一郎君のことなんだけどね」
静子の表情を観察していたが、どうやら気に障った様子はなかった。
「まぁ、懐かしいお名前」
やや、皮肉めいた声ではあったが、表情は明るい。
「お知り合いですの?」
「最近知り合ったのだよ。
実は、彼が、ね、その、好きになったという少年なんだけど、その、少年がね、私の助手で……」
なんと言えば良いのかがわからず、自分でも何を言っているのかが不明な状態であったが、静子は見当を付けてくれたらしい。
「あら、そうでしたのね。
あの、もしかして、根付のことでは……」
「そ、そうなんだ。やはり知っているのだね?」
「はい。私が村越さんの鞄から盗みましたもの」
悪びれた様子もなく、静子は言ってのけた。
「睦月会の、たんすの中にございますわ」
「箪笥?」
「はい。着替えや私物をしまうために、一人一段、箪笥の引き出しを使用させて頂いておりますの。
その中に放り込んだまま、すっかり忘れておりましたわ」
ようやく、申し訳なさそうな表情を見せた。
「根付のことを知っている人はいるの?」
「睦月会の方は皆、ご存じですわ」
「皆?」
「はい。私、あの頃はとても悔しくて、悲しくて、皆様に申しておりましたの。元婚約者を、麻上圭一という男の子に奪われたのだと」
静子は突然項垂れて、大きく溜息を吐いた。
「失礼なことを致しましたわ。その方には罪はございませんのにね」
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